第2の秋広、細川か 中日のファームの“主砲”に他球団が「大化けする可能性」と熱視線
5月に巨人からソフトバンクにトレード移籍した秋広優人が、交流戦で3試合連続お立ち台に上がる活躍を見せた。巨人では伸び悩んでいたが、移籍が野球人生の大きな転機になったようだ。交流戦が終了し、今季の戦力を整えるためのトレード移籍が話題になる時期だが、ファームでくすぶっている中日の和製大砲・鵜飼航丞に、他球団から熱視線が注がれている。
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パ・リーグ球団のスコアラーは、「鵜飼は魅力ある選手ですよ。飛距離だけで言えば、球界でもトップクラスでしょう。引っ張った打球だけではなく、右方向にも長打が打てる。大化けする可能性を秘めている」と素材を絶賛した上で続けた。
「確実性が欠けていることが大きな課題でしたが、今年はタイミングをつかんだのか変化球に崩されず、自分の間合いで捉えられている。特に内角のさばき方がうまくなりました。衝突するような打ち方だったのが、ボールを点でなく線で捉えるスイング軌道になっている。長打を打てる打者が球界全体で少ないので希少価値があります。トレードで欲しい球団は多いと思いますよ」
鵜飼は中京高時代に通算56本塁打を放って注目され、駒沢大に進学。2021年のドラフト2位で中日入りした。新人の22年は開幕1軍入りを果たしたが、5月に新型コロナウイルス感染で登録抹消となると、そこからはファーム暮らしが長くなり、59試合出場に終わる。昨年は1軍で41試合出場のみ。今年も開幕をファームで迎え、5月5日に1軍昇格したが、13試合出場で打率.167、本塁打も打点もゼロで、3週間もたたずにファームに降格した。
1軍では結果を出せない鵜飼だが、ウエスタン・リーグでは今季41試合に出場し、打率.329、5本塁打、29打点。5盗塁。出塁率と長打率を足し合わせたOPSは.938と非常に高く、格の違いを見せている。昨年は同リーグで打率.217だったことを考えると、確実性も格段に上がっている。
■「1軍で活躍できない原因は精神面」
1軍と2軍の投手では直球の球威、変化球のキレが違うことは間違いない。だが、コーチ経験がある中日OBは「鵜飼が1軍で力を出し切れていない原因は精神面だと思います」と指摘し、こう続ける。
「1、2軍の当落線上の立場なので、打席で結果を出さなければいけない思いが強すぎる。当てにいこうとしてボール球になる変化球を追いかけて空振りして、直球に差し込まれてしまう。打撃の対応力は上がってきていますし、ファームでやってきたことをそのまま出してほしいのですが、それが難しい。自分も現役時代に経験したので気持ちは理解できるんですけどね。殻を破れば1軍で十分に通用する力を持っているだけに、もどかしいです」
他球団のファーム打撃コーチもこの意見に同調する。
「右の長距離砲として、ソフトバンクから巨人に移籍したリチャードと共通点が多いですが、僕は2人が1軍で活躍できない原因は違うと思います。リチャードの場合はタイミングの取り方、スイング、選球眼で粗が多いため、1軍の投手に対応できていない。技術的な問題です。鵜飼の場合は今年ファームで見せているパフォーマンスを1軍で発揮できれば、結果が出ると思います。精神的に繊細なんですかね。1軍で打席に入る表情を見ると顔がこわばっている。緊張するのは当然ですが、気持ちをうまくコントロールできれば結果が変わってくると思います」
貧打が課題の中日だが、外野陣はコマがそろっていることも、鵜飼の立場を厳しくしている。現在セ・リーグ首位打者のリードオフマン岡林勇希が中堅を守り、両翼はソフトバンクから移籍2年目で復活した上林誠知、右太腿裏のけがから復帰した細川成也が守る。さらにベテランの大島洋平、勝負強い打撃が光るブライト健太、内外野を守る板山祐太郎が控えている。
「ファームで好調の鵜飼になかなか出場機会が回ってこないのが現状です。ただ、これまでに何度もチャンスを与えられてきたことは間違いない。首脳陣は我慢して起用していましたが、結果を出せなかった。細川が中日に来て大化けしたように、移籍も選択肢の一つかもしれません」(スポーツ紙デスク)
■移籍が転機となった細川
細川はDeNAで高卒新人の17年にデビューから2試合連続アーチと華々しいスタートを切ったが、その後は1軍に定着できなかった。22年は18試合出場で打率.053、1本塁打、1打点に終わり、同年オフに現役ドラフトで中日へ。この移籍が野球人生の転機となった。移籍1年目の23年に打率.253、24本塁打、78打点をマーク。昨年は全143試合出場で打率.292、23本塁打、67打点とチームに不可欠な強打者に成長した。
「あのままDeNAにいても厳しかったと思います。ファームでは格の違いを見せていましたが、1軍では打撃が小さくなっていた。中日に移籍してスタメンで4打席与えられたことで、思い切りの良さを取り戻したように感じました。和田一浩元打撃コーチと出会い、打撃理論を習得したことも大きかったでしょう。結果を残したことで自信をつけ、さらに上を目指す好循環になっています」(DeNAを取材するライター)
鵜飼は中日には特別な感情を抱いている。名古屋市で生まれ育ち、子供のころから熱烈な中日ファン。入団会見では、「4番打者で40本塁打を打つこと」を目標に掲げていた。だが、新人の年に放った4本塁打が自己最多で、その後は出場機会を減らしているのが現状だ。大好きな中日で覚醒の時を迎えられるか。それとも――。
(今川秀悟)