広島・新井監督と阪神・藤川監督の“遺恨”は和解の必要なし? 球界OBは「今は選手も監督も仲が良すぎる」
首位争いを繰り広げる阪神と広島。5月16日から甲子園で行われた直接対決の3連戦で話題になったのは、試合前のメンバー表交換だった。
1戦目。普段は温厚な広島・新井貴浩監督の態度が、明らかにおかしかった。メンバー表交換のため本塁前に歩みを進めたが、阪神・藤川球児監督と視線を一切合わせようとせず、険しい表情を浮かべたまま三塁ベンチに足早に引き上げた。翌17日の2戦目は藤川監督も視線を合わせず、先に一塁ベンチに戻った。18日の3戦目。監督2人のメンバー表交換での態度に注目して球場が異様な雰囲気に包まれる中、新井監督はこの3連戦で初めて阪神の藤川監督と視線を合わせて握手。向かい合った両指揮官が互いに頭を下げるとスタンドから拍手が起こった。
■4月20日の死球が遺恨の始まり
新井監督と藤川監督が険悪な態度を示す原因となったのは、4月20日の同カードだった。8回に広島のドラフト3位右腕・岡本駿のすっぽ抜けた変化球が阪神・坂本誠志郎の頭部を直撃。藤川監督はベンチを飛び出し、坂本のところに駆け寄って無事を確認後、激高した様子で三塁側の広島ベンチに向かおうとした。死球を受けた坂本やコーチが止めに入るが、藤川監督は三塁ベンチに向かって「出てこい」と手招きするジェスチャーで挑発。広島の新井監督や選手たちもベンチを出てきて、グラウンドが騒然となった。
藤川監督は「死球」に神経質になっていた部分があったのだろう。昨年、阪神が広島から受けた死球は15で、対戦カード別で最多だった。阪神の投手陣が広島に与えた死球は5つなので、3倍の数を食らったことになる。
今年の開幕直前、NHKのスポーツ番組「サンデースポーツ」の恒例企画「セ・リーグ監督座談会」の中で、藤川監督は「一番警戒する投手陣」を問われ、広島と回答。「(昨季の)死球の数字を調べたんですけど、(広島が)一番うちのバッター陣に攻め込んできたので。厳しい内角攻めで選手がもしいなくなったらどうしようと警戒しながら見ているところだった」と理由を語った。これに対して新井監督は、「やっぱり勝負なんでそこは厳しく。良い打者が多いですからね」と内角攻めについて説明しつつ、「バッテリーコーチには『全部外(アウトコース)へ行け』と言っておきます」と冗談で和ませた。だが、藤川監督としては、冗談では済ませられない思いがあったのだろう。
■新井監督は「これで終わり」と言ったが…
注目の3連戦を終えた18日の試合後、新井監督は、「こちらとしては謝罪していたんだけど、(藤川監督に)ああいうふうに来られたら、チームを預かる者、年長者としても腹に据えかねるものがあった」と心境を吐露。「いつまでもとは思っていなかったし、私がとった行動に対して不快に思われたファンの方とか、心配してくれたファンの方には申し訳ないと思っている。もうこれで終わりです」と“終戦”を表明。だが、藤川監督は対照的だった。試合後の会見で、「ここでお話しすることではない。質問に上がること自体が、会見としてはふさわしくないんじゃないかと。ファンの方もたくさんいらっしゃいますから、そこはあんまりするべきじゃないのかなと思う」と言及を避けた。
新井監督を現役時代から知るテレビ関係者は、こう語る。
「新井さんは阪神でプレーしていた期間がありましたし、阪神の選手、OBとも良好な関係を築いています。球界の垣根を超えて誰からも愛されていますが、現役時代も先輩の態度に納得がいかなければ、後輩を守るために声を発したことが何度もありました。今回の一件は死球を当てた立場として申し訳ない気持ちはありながら、藤川監督の態度に思うことがあったのでしょう。現役時代、2人の仲がいいとも聞いていないけど、特に悪くもない。今回は新井監督が死球を与えた立場ですし頭を下げて手打ちしましたけど、無理に仲良くする必要はないですよ」
他球団の首脳陣は、「藤川監督の気持ちは分かります」と理解を示す。
「死球で故障のリスクがあるし、打撃が崩れる危険性がある。阪神は佐藤輝明、森下翔太、大山悠輔と強打者たちが内角を突かれることが多いですしね。よく、『すっぽ抜けた変化球なら仕方ない』と言われることがありますが、それは違いますよ。抜けた球でも頭に直撃すれば非常に危険です。坂本は優しい性格で、相手投手が新人の岡本だったこともあり、藤川監督の制止に入りましたが、現場を預かる藤川監督が怒りを露わにするのは決して不自然ではない」
■ピリピリした関係があってもいい
阪神時代にチームメートだった新井監督と藤川監督の遺恨がメディアに大きく取り上げられる形となったが、球界OBは苦笑いを浮かべる。
「大きく取り上げられていますが、遺恨でもなんでもないですよ。一昔前だったら監督同士が面と向かって口論になることは珍しくなかった。星野仙一さんは中日の監督時代、死球でぶつけられたら乱闘の先頭を切っていましたしね。巨人とヤクルトの対戦でも、不仲とささやかれていた長嶋茂雄監督と野村克也監督は口も利かなかった。今は選手も監督も仲が良すぎるんですよ。生活をかけて野球しているんだし、ピリピリした関係があってもいいと思いますよ」
阪神と広島の対戦で、今後もこの話題が蒸し返されるだろう。もし、この対戦で次に死球が出たら、両軍の指揮官はどのように対応するか。選手が故障で離脱する事態にならないように願いつつも、熱い戦いに注目したい。
(今川秀悟)