田中真紀子氏が“ポスト石破”に推す意外な人物とは?「石破首相ご自身も立候補されるといい」総裁選でケジメのススメ

 田中角栄元首相の長女であり、幼いころから政治家としての英才教育を受けてきた田中真紀子さん(81)は、昨今の自民党の問題は国を背負う心意気のある政治家がいないことだと喝破する。少数与党として背水の陣を敷く石破政権の課題と、自民党再生プランについて、“真紀子節”で切り込んだ。

前編〈自民党を知り尽くす田中真紀子氏が語る“自分ファースト”な議員が増えたワケ 消えない首相待望論に「私は主婦」〉から続く

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――政治の劣化を食い止めるためには、選挙に出馬する候補者が有権者からの厳しい質問にさらされる「立会演説会」が必要とのこと。国民に政治参加の意識が醸成されるメリットもありそうです。

 日本にはロジカルに議論をする文化がないんですよね。私は多感な高校時代にアメリカ留学をしました。向こうでは授業でいきなり先生に指されて、「マキコ、明治維新とルネサンスの違いと共通点について説明してください」なんて言われる。そんなことは日常茶飯事でした。

 自分の頭で考えて意見を主張するには訓練が必要で、教科書を暗記するばかりの日本の教育ではなかなか身につきません。だからこそ立会演説会の制度を復活させて、有権者は自分なりの問題意識で候補者に質問を投げかける。そういうことを何年も続けていけば、日本人も国の主権を持つ一員として自立していくはずです。

 そして自分たちが当選させた議員の仕事ぶりは、選挙後もチェックしたほうがいいですね。テレビ局は国会の本会議や委員会をきちんと中継して、議員の質問や答弁内容について国民が知る機会を提供するべきだと思います。

■政治資金パーティーも企業団体献金もストップ

――政治をめぐる問題として、直近では日米関税交渉の行方に注目が集まっています。ご自身は日本初の女性外務大臣を務めましたが、交渉の様子に思うことはありますか。

 今回の交渉について外務省はあまりフォローしておらず、省内はやる気をなくしていると耳にしています。石破(茂)首相は外務官僚をどう使えばいいか分かっていないのでしょうね。代わりに赤沢(亮正)経済再生担当大臣が重用され、9回も訪米して交渉に臨みました。

 交渉の途中経過について一切明かさない姿勢を貫いてきましたが、これは良くなかったですね。なぜマスコミは「国民にきちんと説明してください」と食い下がらなかったのか。簡単に納得して議論しないという日本人の社会意識の低さは、メディアに対しても感じます。

――自民党は、今年7月の参院選をはじめ、昨今の選挙で大敗が続いています。国民からの支持を取り戻すためには、党としてどのような改革が必要だと思いますか。

 今の自民党が一番批判されているのは、政治とカネの問題だと思います。もし私が総裁だったら、政治資金パーティーも企業団体献金もストップさせますね。党内からは大きな反発があるでしょうが、政治活動は国会議員のお給料である年間4千万円近い歳費の範囲で行ってもらうようにします。

 政党の活動資金として税金から支払われている政党交付金は、元はと言えば、クリーンな政治を目指して将来的に企業団体献金を廃止するために導入されたものです。それなのに、当たり前のように献金をもらい続けているのでは、まったく整合性が取れません。

■自民党が白い目で見られるのは誰のせい?

――自民党内では、総裁である石破首相が選挙結果の責任を取るべきだとして、辞任を求める声が大きくなっています。“石破おろし”の動きをどう見ていますか。

 党のトップとして結果には責任をとるべきです。私ならさっさと辞めますね。そして、党内で総裁選挙をやる。石破首相ご自身も再選されたければ立候補されるといい。ケジメが大事です。

 一方で、裏金問題や旧統一教会との関係について問題視されている議員が、石破さんに「辞めろ!」と迫っているのは大きな矛盾を感じます。一体、誰のせいで自民党が国民から白い目で見られているのか、まるで分かっていない。この間、閣僚たちと会食をしたときに、そう指摘しても、みんな「そうだよねー」って言いながらパクパクお料理を食べていて、問題意識はあまり感じられませんでした。

 ポスト石破が取り沙汰されていますが、首相は問題意識という“頭”と覚悟という“心”のバランスが取れた人でないといけません。コメ問題で人気が出た小泉進次郎さんは、お父様の純一郎さんに似て自分の見せ方が上手ですが、たとえば財政再建や安全保障についてどのようなビジョンを持っているのか、聞いたことがない。答えられないかもしれませんね。

 個人的に、石破さんの後任は林芳正官房長官が適任だと思いますよ。正論を言える人です。賢いし人柄もいい。ただ、本人は他人を押しのけて前に出るタイプではないので、他の派閥のボスから足を引っ張られているようです。表面上は派閥が解消したとはいえ、自民党という組織は結局、派閥支配から抜け出せないんです。

■議員特権を見直し、議員定数も減らす

 私の父が総裁の座をめぐって福田赳夫元首相と“角福戦争”を繰り広げていた時代は、派閥によって掲げる政策が大きく違っていました。積極財政の田中派と、緊縮財政の福田派、中国との関係を重視する田中派と、台湾との関係を重視する福田派、といった具合です。けれど安倍政権以降、派閥は資金集めとポスト獲得のためのつながりへと成り下がりました。政策集団が消失したことで、自民党内のダイナミズムは大きく損なわれたと思います。

――近年、国民民主党や参政党といった新興政党が支持を広げる背景には、既存の政治に対する国民の不満と不信があると見られています。自民党だけでなく、政界全体で取り組むべき課題は何だと思いますか。

 国会議員が持つ“議員特権”が大きくなり、国民の金銭感覚とかけ離れつつあることが、政治不信の一因になっています。赤坂など都心の一等地にある議員宿舎に安い家賃で住むことができたり、公務用のJR無料パス(特殊乗車券)や航空券引換証を私的な旅行に使う行為も横行していたり。原資は国民の税金ですから、過剰な特権は見直すべきです。議員定数も減らしていいと思っています。

 政治改革のためには選挙改革も必要です。世襲であれば誰でも議員になれるような状況は、政治家の質を下げかねません。二世議員は親と同じ選挙区では出馬できないといった制限も必要でしょう。

 政治がもっと国民から関心を持たれるといいですよね。私としては、次の衆院選までに少しでも選挙の在り方が変わるよう、有識者を集めて勉強会を開いたり、メディアに働きかけたり、手を考えています。議員たちは、自分たちの得にならないような改革には後ろ向きでしょうが、どうにか変革をしなくてはと考えています。政界を引退した一主婦とはいえ、私はやる気満々ですよ。

(AERA編集部・大谷百合絵)