JR東海が初公開「リニア河川橋」工事の進捗は?

山梨県内で建設が進むリニア中央新幹線の釜無川橋梁(写真:JR東海)
JR東海が品川―名古屋間で建設を進めるリニア中央新幹線は、基本的には地下深くに掘られたトンネル内を高速で走行するが、一部区間では地上に姿を見せる。山梨県内のルートは全区間の約3割、距離にして27.1kmの高架橋が地上に建設される。
【はじめに写真を見る】▶リニア中央新幹線、山梨県内で建設中の2つの「川をまたぐ高架橋」▶高さ19mの橋脚最上部からは甲府盆地が一望できる
甲府駅から約10km南下した場所にリニアの山梨県駅(仮称)が建設される。品川や名古屋のリニア駅は地下に設けられるが、山梨県駅は地上に建設される。そこから名古屋方面に約5km進むと富士川水系の常永川と釜無川にぶつかる。
山梨県内で進む「橋の建設」
JR東海は2つの川をまたぐように釜無川橋梁と常永川橋梁を建設している。釜無川橋梁の長さは754mで、長さ約520mの天竜川橋梁、約420mの笛吹川・濁川橋梁をしのぎ、リニア品川―名古屋間では最長となる。常永川橋梁の長さは225mで2つの橋をつなぐ68mの橋梁や前後の橋梁を含めると、構造物としての総延長は1238mとなる。
8月5日、JR東海は中央市内の工事現場で建設中の常永川橋梁の上部を報道陣に公開した。2023年5月30日に県内の隣接地で建設中のリニア利根川公園高架橋が報道公開されている。川をまたぐ高架橋の公開は今回が初めてという。
担当者の案内で仮設の階段を上がって高さ約18mの最上部にたどりつくと、視界を遮るものがない360度の眺望が広がっていた。甲府盆地のはるか遠くまで見渡せる。
高架橋の幅は16mで、この場所を上下線のリニア車両が行き交う。2本の線路の上を鉄輪が走る鉄道とは違い、リニア車両はU字型のガイドウェイに沿って運行する。ガイドウェイはまだ設置されていないが、設置されると思しき場所に鉄筋が取り付けられており、これに沿ってリニア車両が走るのだと実感できる。

建設が進むリニア中央新幹線の常永川橋梁。最上部からの眺望(記者撮影)
隣の橋脚を建設している様子も見えた。上部の橋桁が架かっていないので、橋脚の建設の様子だけ見れば、まるで高層ビルを造っているようだ。報道陣から「常永川はどこですか」という質問が出た。「あそこです」とJR東海の担当者が指差した先に川らしきものが見えた。川幅は10m程度あると思われたが、建設中の橋の巨大ぶりに比べると存在感が薄い。
予定より1年延びた完成時期
しばらくすると、ヘルメットをかぶった家族連れなどのグループがやはり担当者の案内で上部に上がってきた。県が「地域インフラ見学会」で公募した地域住民たちで、16人が参加した。中央市在住の小学6年の男の子は、「リニアに興味があって参加した。ここから大阪までつながるなんてすごい」と目を輝かせていた。また、甲府市在住の中学1年の男の子は、「完成すれば東京がすぐ近くになる。東京に行きたい」と話していた。

常永川橋梁の現場を見学する地域住民ら(記者撮影)
常永川橋梁に続き、隣接する釜無川橋梁に移動した。川幅は数百mあろうかという堂々たるものだ。この日の川の流れは細かったが、大雨時の水量は相当なものになるのだろうと推測できた。釜無川は古来、氾濫が何度も起きていたという。そのため、建設地の上流には川の氾濫を治めるために戦国大名の武田信玄が築いたとされる信玄堤がある。
建設場所に近づくにつれ、川の上に建てられている6本の橋脚が見えた。高さは約16mだという。橋脚どうしをつなぐ橋桁も一部で架けられている。まだ完成していないが、新幹線の高架橋と比べて頑丈に造られている印象を受けた。JR東海の担当者によれば、「時速500kmの走行に耐えられるよう強度を高めている」という。
釜無川橋梁と常永川橋梁を合わせた工事契約期間は2020年10月から2026年8月まで。当初の予定では今年8月までだったが、1年延びた。静岡工区の工事が始まらずJR東海は2027年開業を断念。急いで工事をする必要がなくなり、多くの工区で工期の見直しが行われている。それに沿ったものと思われる。

リニア中央新幹線釜無川橋梁の橋脚(記者撮影)
基礎工事はほぼ完了。現在は上部の建設中でその進捗率は5割程度という。日曜日、ゴールデンウィーク、お盆、年末年始は工事が休みになるほか、河川内の工事は水量が少ない11月から5月に限られる。「工期は厳しい」とJR東海の担当者は話す。
工事が完了して2つの橋梁がつながった後はガイドウェイが設置される。橋の上は防音・防災対策のフードに覆われるので開業後にリニア車両が橋の上を時速500kmで疾走する姿を見ることはできない。しかし、この上を走るのだと想像するのは楽しい。
静岡工区も着工に向けた動き
工事が始まっていない静岡工区でも、着工に向けた動きが少しずつ進んでいる。8月1日、JR東海の水野孝則副社長が平木省副知事を訪問し、工事開始に向けた準備工事として、ヤードの用地造成や環境調査を行うための事務所整備を行いたいと申し出た。
JR東海はこれまで4.9ヘクタールの用地を造成しているが、5ヘクタールを超える場合は県の自然環境保全条例に基づく協定の締結が必要だ。
2020年6月にもJR東海はヤード整備の要望を県に対して行ったが、このときは川勝平太前知事がヤード整備はトンネル工事と一体であるとして工事を認めなかった。
現在の鈴木康友知事も県がJR東海に求めている28項目の対話が終わるまではトンネル工事を認めないという立場を取るが、「本体工事の性質はなく、準備工事の位置付け」というJR東海の考えを踏まえ、工事が動き出す可能性が出てきた。
8月4日には県の専門家とJR東海との間で議論が行われ、静岡工区のトンネル発生土のうち、自然由来の有害物質を含むといった理由で汚染対策が必要な「要対策土」の議論において進展が見られた。トンネル発生土は複数の場所に盛り土として置かれる。JR東海の計画では要対策土は工事現場から数km離れた南アルプスの「藤島」と呼ばれる地域に置くことになっていたが、川勝前知事はこれを認めなかった。
県との対話「完了」へ大きく進展
その理由は、熱海市の土石流災害を受け2022年7月に施行された県の盛土環境条例に基づく。要対策土を用いた盛り土は原則禁止となり、条例の適用除外を受けるためには要対策土は適切な生活環境保全措置を講じたうえで同じ事業区域内に置く必要がある。JR東海はトンネル工事現場と藤島は同じ事業地域であると考えていたが、川勝前知事は、藤島は現場から遠く離れており同じ事業区域ではないとして認めなかった。
しかし、鈴木知事に交代して流れが変わった。県は国土交通省に照会して、藤島発生土置き場における盛り土計画は国交省が認可したJR東海のリニア工事実施計画に含まれているという回答を8月4日に得た。県は即日、JR東海に対して藤島はトンネル工事と同じ事業区域にあるとJR東海に伝えた。
要対策土の置き場所の問題は解決し、残る課題は処理方法など技術的議論に絞られた。28項目のうち、トンネル発生土は5項目中4項目が未解決。8月4日の協議で新たに対話完了となった項目はなかったが、対話完了に向けて大きく進展したといってよい。
8月13日には県と大井川流域の市町などでつくる大井川利水関係協議会が藤枝市で開催され、JR東海から県との協議に関するこれまでの進展について説明が行われた。島田市の染谷絹代市長は「理解が深まったし、私たちからも意見を言わせていただいた」としたうえで、「たび重ねて議論をやってもまだ理解が十分でないところがある。今後ともこうした場は開かれるべき」と述べた。
JR東海は率先して情報開示を
染谷市長の言うとおり、情報開示は非常に重要だ。橋梁の一般公開のようなイベントは県だけでなく、JR東海が率先して実施するべきだ。山梨リニア実験センターで行われるリニア車両の試乗会は競争率が数十倍だという。それを考えれば、橋梁を見たいというニーズも少なからずあるのではないか。安全性の観点から大人数は無理でも一度に16人以上の人を見学させることは可能なはずだ。
静岡工区をめぐる問題にしても、現在はJR東海のホームページよりも県のホームページのほうがはるかに詳しい情報公開をしている。JR東海が地域住民の理解を得たいとしているが、そのためにやるべきことは山積みだ。