高齢者の健康維持は1日30分のウォーキングでOK!日常の「ダラダラ歩き」をトレーニング時間に変えるコツとは?【医師が解説】

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高齢になっても健康を維持するために欠かせないのが運動習慣。しかし、何をどれだけやるのが効果的なのだろうか。腎臓のリハビリを専門とする医師がその手法を解説する。※本稿は、上月正博『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。
毎日のウォーキングが
実は一番効果的
自分の健康状態を知り、かかりつけの医師にも運動療法の許可を得られたのであれば、さっそく腎臓リハビリメソッド(編集部注/腎機能の回復や維持、腎臓病予防を目的とした治療法)に挑戦してみましょう。
まず、みなさんに取り組んでもらいたいのは、ずばりウォーキングです。
もちろん、サイクリング、水泳、エアロビクスといった有酸素運動も腎臓リハビリとして効果的ではありますが、毎日続けることは大変ですよね。
でも、ウォーキングならどうでしょうか。
通勤をしたり、買い物をしたり、意識的に「歩こう!」と思わなくても、人は1日に6000歩くらいは歩くといわれています。
「え?意外に多い!」
そう思われたのではないでしょう。
そうなのです。誰もが、無意識のうちにけっこう歩いているのです。
それをダラダラと歩くのではなく、ここで紹介する「いきいきウォーキング」に置き換えてみましょう。決して重い腰を上げる必要はなく、誰でもお手軽に始められるはずです。
それだけで健康寿命が延びるのですから、やらない手はありませんよね。
「歩くだけで寿命が延びるなんて嘘くさいなあ…」
このように訝しむ方もいるかもしれませんが、じつは日頃から効果的に歩けている人は少なく、同時に有用な歩数を確保できている人も多くありません。
そこで、足腰に問題がなく、歩くことに不安のない人は、手始めに3000歩に相当する30分を「いきいきウォーキング」に置き換えてみましょう。

同書より転載

同書より転載
このときのポイントは、息切れしない程度の早歩きをすることと、30分連続で続ける必要はないことの2つです。
息切れしない程度の早歩きとは、無理なく会話が続けられることがひとつの目安になります。
また、1日の合計で30分を確保すればいいので、5分を6回、10分を3回、あるいは5分2回+10分2回など、生活リズムに合わせて調整すればOKです。
自分に合った歩数から始めて
少しずつレベルアップしよう
一方で、普段からあまり運動をする習慣がない人や体力に自信がない人もいるでしょう。小分けしていいとはいえ、30分も歩く時間を確保することが大変な人もいると思います。
その場合、まずは歩数計などを使って自分自身の日頃の歩数を知り、1日に500~1000歩増やすことから始めてみてください。
例えば、咀嚼(そしゃく)回数を増やすことによって、脳の活性化や記憶力の向上、満腹感を得やすくなることによる食べすぎの防止、唾液(だえき)の分泌量増加による虫歯や歯周病予防といった、さまざまな健康効果を得られることはよく知られています。
「今よりも料理をひと口食べるときの咀嚼回数を30回増やしましょう」と言われたら、「多いな」と感じる方は大勢いるでしょうが、「できれば10回、難しければ5回増やすだけでOK」であれば、「それくらいならなんとか」と思うのではないでしょうか。
いきいきウォーキングもそれと同じことです。
「今よりもほんの少しだけ増やす」を意識するようにしてください。
また、足腰に不安のある方には、透析患者さんが利用しているエルゴメーター(ペダルこぎ)をおすすめしています。

同書より転載
今はネット通販でも1万~2万円くらいでリハビリ用のものが買えますし、置き場所に困らないコンパクトなものも増えてきました。
それならば、手軽に購入に踏みきれるのではないでしょうか。
いずれにせよ、ご自身のペースに合わせて、無理のない範囲で取り組むことが大切です。
あせらず無理をせず
ゆっくり続けるのが重要
最初は5分だけでも構いません。
焦らず、ゆっくりやっていきましょう。
もし、頭や胸が痛くなったり、冷や汗や脱力感が出たり、「おかしいな…」と体に異変を感じることがあったら、すぐに運動をやめて医師に相談してください。
また、次のような症状に該当する場合も、すみやかに運動を中止しましょう。
・胸痛や呼吸困難、頭痛、吐き気、めまい、ふらつき、冷や汗などの症状が出た
・運動中または運動後の心拍数が、前日より10回/分以上増えた
・運動中に動悸(どうき)、頻脈、徐脈、失神などの不整脈の症状が出た
・運動をしていないときでも不整脈が増えた
・尿中ケトン体が2+(20mg/dl)以上の人
もちろん、体調がすぐれない日は無理せずに休むことが第一になります。
ほかにも糖尿病性腎症の人は、ちょっとした靴擦れをきっかけに壊疽(えそ)が広がりやすいので、足の爪の状態やマメの有無、小さな傷などができていないかよく確認しましょう。
腎臓リハビリを続けていれば着実に健康寿命を延ばすことができるので、頑張ることが億劫にならないように、八分目で長い付き合いにできるといいですね。
息切れするような
激しい運動は避ける
腎臓リハビリとして有酸素運動を行うときは“適切な強度”が求められます。
「いきいきウォーキング」も運動の強度が強くなりすぎると、有酸素運動よりも無酸素運動の比率が高くなるため、運動療法としての効果を得にくくなります。
運動負荷は本人の感覚によるので一概にはいいきれませんが、「きつい」「しんどい」と苦痛に感じるのであれば、それは明らかにオーバーワークなのでやめましょう。
ちなみに、医学的な指標として、「ボルグスケール」と呼ばれる運動中における自分の感覚(おもに疲労度)を主観的に評価する方法があります。

同書より転載
腎臓リハビリの強度としては、ボルグスケールの13(ややきつい)~11(楽である)の範囲で行うことが理想的です。
「主観ではなく、具体的な数値で知りたい!」という方は、運動中の心拍数が推定最大心拍数(220から年齢を引いた数値)の60%くらいになるように心がけるといいでしょう。
例えば、65歳の方であれば、(220-65)×0.6=約93拍/分が目安です。
脈拍数と心拍数は不整脈がない限りは同じなので、脈拍を知ることで心拍の数値もチェックすることができます。
心拍数の詳しい測り方は次のとおりです。
(1)同じ強さの運動を3分以上した直後(10秒以内)に15秒間の脈拍を測定
(2)(1)の数値を4倍にし、そこに10を足す
最近は運動中に自動で心拍数を測定してくれる腕時計も普及してきました。毎日の心拍数を記録するうえでも役に立ちますし、安いものであれば5000円くらいから購入できるので、そういった便利グッズを活用してみてもいいでしょう。

『東北大学病院が開発した 弱った腎臓を自力で元気にする方法』 (上月正博、アスコム)
いずれにせよ腎臓リハビリにおける有酸素運動の目的は、あくまでも硬くなってしまった血管をしなやかに若返らせることです。
運動に慣れてきたからといって、坂道や階段をコースに取り入れる必要はありません。
過ぎたるはなお及ばざるがごとし――息切れするほどに負荷をかける運動は逆効果で、かえって腎臓の血流を低下させてしまうと肝に銘じましょう。