開業1カ月「ジャングリア沖縄」沖縄記者の本音

ジャングリア沖縄。事前プロモーションで喧伝された巨大気球は、現在のところほとんど飛んでいない(筆者撮影)
7月25日の沖縄初のテーマパーク「ジャングリア沖縄」オープンから1か月。前編では、沖縄の“南北問題”を踏まえた上で、「ジャングリア沖縄」オープン前に期待されていた北部振興への期待や県民の思いについて述べた。
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続く後編では、ジャングリア沖縄オープン後のリアルな県民の声、台湾インバウンドへの考察、沖縄観光に新しくもたらしたブランディング効果、沖縄出身記者のジャングリア沖縄を主導する株式会社刀に対する本音などを、これからの成功に願いを込めて述べる。
広告と現実の落差に失望の声?
オープン前に華々しいプロモーションが展開された「ジャングリア沖縄」。大型のオフロード車に乗り、追いかけてくる恐竜から逃げるアトラクションのCMはとりわけ注目され、臨場感あふれる様子は「パワーバカンス」へのワクワク感をそそった。
しかし、恐竜は追いかけてこなかった。
筆者も、別の取材も兼ねてプレオープン時のジャングリア沖縄に行ったことがある。グランドオープン当初にさまざまなメディアや口コミで噴出した「プロモーション映像と現実の落差」「日よけや雨よけがなくて過酷」「待ち時間が長すぎる」などといった酷評の数々をたしかに否定できなかった。インバウンド集客も見越しているが、外国人客とのコミュニケーションに苦戦している場面も見られ、一定の改善が必要な印象だ。

大型オフロード車から見た高さ19メートルのブラキオサウルス。遠目にも目立ち、ジャングリア沖縄のランドマーク的存在だ(画像:花城綾子)
ジャングリア沖縄を訪問した沖縄県内に住むある経営者の男性は「さすがにないだろうと思った」と声を落とす。「最初の広告があまりにも大げさにやりすぎたのではないか。『パワーバカンス』のコンセプトから、もっとみんなで叫び声を上げて大興奮のイメージだった分、裏切られた気持ちでショックだった」。この男性は、やんばるの自然が大好きで、週末になると片道2時間かけてレジャーに出かけている。「ただの大きい公園って感じでした。大自然没入型のテーマパークを掲げているが、やんばるの素のままの自然に魅力として普通に負けている」。
その一方で、せっかく誕生したジャングリア沖縄への思いは複雑で、一抹の期待も示している。「評判が底を打ったという意味では、ここから上げていくしかないですよね。ネガティブなことばかり言ってもしょうがない。『最初だししょうがない』と気持ちを切り替えていきましょう」と自分に言い聞かせるように話す。
反対に、沖縄県内からの来場者からは肯定的な意見もあった。仕事仲間と一緒に訪れたという40代前半の女性は「アトラクションに攻めたものが多く、ストーリーも組み立てられていて斬新に感じました。ショップのお土産には沖縄企業とコラボしたものも多くデザインもかわいかったです」と楽しんだ。「内地(沖縄県外)でかなりプロモーションを打っていたらしいので、CGとの落差にがっかりしている人も多いと聞きましたが、私はそれを見ていなかったので普通に楽しめました」と、良い意味で“期待外れ”を避けることができた。

ジャングリア沖縄のショップ。衣類や日用品、お菓子類など多彩なラインナップでお土産選びが楽しい(筆者撮影)
口コミ文化の台湾、ジャングリア沖縄への反応は?
初動の酷評の多さが、インバウンド、特に台湾からの観光客を遠ざけたのは痛い。
沖縄にとって台湾は「めちゃくちゃ隣国」だ。九州に行くより近い。沖縄から一番近い100万都市も原発もサイゼリヤも、台湾にある。逆に言うと、台湾から沖縄も近い。なにしろ近いのだ。沖縄の観光地で台湾の人と出会わないことはほぼない。先日沖縄で会った台湾人女性は「3カ月に1回は沖縄に来ている」と言っていた。
というのも、台北市や新北市といった台湾北部の都市圏に住む人は、家族みんなで台湾南部の観光地に時間をかけて行くよりも、近くの台湾桃園国際空港からそのまま沖縄に向けて飛行機でひとっ飛びした方が楽だし安いというのである。

ジャングリア沖縄のアトラクション「ファインディング ダイナソーズ」の一幕。赤ちゃん恐竜もちらほら(筆者撮影)
台湾のある旅行業関係者に、ジャングリア沖縄を訪問しての感想を取材しようとした。その人はこのように言い放っていた。「取材は受けたくありません。本当にひどいテーマパークで、何も話したくありません」。台湾からの顧客を沖縄に送り込む好機として、ジャングリア沖縄が果たせる機能はあったはずだったが「最初からあまり情報をオープンにしていなかった時点で、このような悪い結果になることには薄々感づいていました」と落胆した。
台湾と日本は同じ島国といえども、日本は南北に細長く、北は北海道、南は沖縄まで気候も文化もさまざまであることに比べると、台湾では国内旅行のバリエーションが限られていると考えられ、旅行先として海外を選択するケースも多い。
実際に、日本旅行業協会が2023年に行った調査によると、日本人のパスポート所有率が17%なのに対して、台湾人は約60%。日本人の一般的な感覚よりもはるかに海外旅行が身近な存在である。
そんな台湾の人々は、主に旅行情報を渡航者のSNSで入手するという「口コミ文化」が強い。ジャングリア沖縄のスタートの躓きは、実際に訪れた台湾人旅行者のショート動画で早くもいじられる対象となってしまっていたのだ。
そもそも、台湾人のジャングリア沖縄の認知度はどうだったのか。
台湾でマーケティング業を営む「台灣琉球黃豆冰有限公司」の代表で沖縄県出身の平良育士さんは「もともと沖縄旅行に行く予定がある人以外は、そんなにはジャングリア沖縄についての情報をキャッチしていないのではないか」と分析する。ただ、その少ない中でも触れられる情報には「『行っても何も乗れない。全然ダメだ』というような悪い内容が目立っています」と現状を直視した上で「今後、ジャングリア沖縄を楽しむ“攻略法”が確立されていけば、それに関連したコンテンツがぽこぽこと出てくると思います。そうなるとその攻略法に基づいて楽しめる人が増え、肯定的な情報も発信されるようになるのでは」と見通しを示す。
沖縄記者の、刀に対する率直な思い

ジャングリア沖縄のアトラクション・スカイ フェニックス(画像:花城綾子)
このように評価が分かれるジャングリア沖縄ではあるが、「森と恐竜」で沖縄の観光イメージに幅を持たせることに貢献したのは、特筆すべきことだったと思う。
「沖縄と言えば」で、きっと多くの人が想像するであろう青い海と白い砂浜。「夏の海」はまさにそのまま沖縄のイメージだ。ただ、ハイシーズンである夏季に観光需要が集中することで、ホテルやレンタカーの需要と供給のバランスにばらつきが出てしまい、安定した働き方や雇用が実現しにくいという問題点を含んでいる。
沖縄県による2019年の観光統計実態調査では、入域観光客数が8月の約100万人に対し、12月は約75万人に減少する。「沖縄観光の年間平準化」は、前述の「観光滞在日数の少なさ」と同じく、沖縄観光の課題だ。そこに「夏の海」以外を主力とするカードを切ったことそれ自体に、意味があると考えている。
また、2021年に「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」として世界自然遺産に登録されたやんばるの森は、その生物多様性の高さが国際的に評価された。海以外の自然にも魅力を感じて観光客が集まることで、オンシーズンとオフシーズンの差が縮まるきっかけにもなる。
実際、ジャングリア沖縄がもたらした「森と恐竜イメージ」は、早くも近隣施設に波及している。近接の名護市にある動植物園「ネオパークオキナワ」は新たなゾーンとして「ジャングルエリア」をオープン。紅芋タルトなどお菓子の製造販売を行う御菓子御殿が運営する既存の施設「DINO恐竜PARK やんばる亜熱帯の森」も再注目を浴びている。
また、ジャングリア沖縄の現時点での低評価はどうあれ、自らの顔と名前を前面に出し、堂々と「沖縄北部に人を誘引することで沖縄経済に貢献したい」と明言して、矢面に立ち続ける株式会社刀(ジャングリア沖縄を主導する会社)の森岡毅CEO氏の姿には、いち県民として感銘を受ける。失敗を恐れずにリスクを背負って行動するのは、何かを起こそうとする多くの人が見習うべき姿勢であると感じる。このような森岡氏の覚悟と熱意が見えるからこそ、沖縄企業から多くの出資を集めることができたのだろうし、スタートダッシュで躓いても県民が温かい目でこれからを待てるのだと思う。
開業間もないジャングリア沖縄。「北部振興の起爆剤」は、その爆発力を生かして花火を高々と打ち上げることができるのか、それとも沖縄に多数残る不発弾さながら終わってしまうのか。いずれにせよ、始まったばかりだ。