【分析】シーズン序盤の”降格”は、ローソンにとって幸運だった……レッドブルのシート争いに再び加われる可能性はあるのか?

 レッドブルは当初、2025年のマックス・フェルスタッペンのチームメイトとして、リアム・ローソンを起用することを決めた。しかしそのローソンのパフォーマンスはまったく振るわず、わずか2戦でシートを角田裕毅に明け渡さねばならなくなった。

 レッドブルのシートを失ったローソンはその後レーシングブルズに戻った。最初はレーシングブルズでも思うようなパフォーマンスを発揮することができなかったが、グランプリを重ねていくに連れてパフォーマンスは向上。今では、チームメイトのアイザック・ハジャーよりも安定した成績を残すようになった。

「彼は降格したわけではない。RB21よりもはるかに扱いやすく、非常に競争力があるマシンを持つレーシングブルズに移籍するのだ」

 レッドブルがローソンに変えて角田をメインチームのドライバーとして起用することを決めた際、同社のモータースポーツ・アドバイザーであるヘルムート・マルコ博士は、motorsport.comに対してそう語った。マルコ博士は、これがローソンのキャリアの終わりではないと断言したのだ。

「この変更は、かなり不運だった開幕から数戦があったために起きたと言える」

 そうマルコ博士は付け加えた。バーレーンでのプレシーズンテストの際にローソンはトラブルに見舞われ、さらに開幕戦オーストラリアGPも、悪天候に見舞われるなどした。

「オーストラリアでのフリー走行3回目がキャンセルされ、そこから問題が始まった。当然のことながら、リアムの自信にも影響が出たのだ」

「ローソンのキャリアの将来を考えた時、この悪循環を断ち切る必要があったんだ」

 昨年もローソンにとっては波乱万丈の年であった。レーシングブルズ(当時の名称はRBだった)でダニエル・リカルドの後任に就任し、高いパフォーマンスを披露。その瞬間から、彼は一躍セルジオ・ペレスの後任としてレッドブルのマシンを走らせる、最有力候補になった。当時のローソンはまだ、F1で11戦しか走ったことのない、経験の浅いドライバーであった。にもかかわらず、2025年のレッドブルのドライバーとして大抜擢されたのだ。

 しかし2025年シーズンが始まると大苦戦。結果として、マルコ博士が「降格」と呼ぶのを拒否した事態を招いた。彼のキャリアは大きく方向転換し、レーシングブルズでシーズンを終えられるかどうかを疑問視されるほどだった。新星アーヴィッド・リンドブラッドがスーパーライセンス発給条件を満たしたことで、シーズン中F1に昇格するのではないかという憶測も高まったのだ。ローソンは当初、チームメイトのハジャーよりも苦戦していたため、リンドブラッドが昇格するのであれば、ローソンがシートを奪われることになるだろう……そう目されていた。

 なおマルコ博士は、レッドブル昇格後苦戦が続く角田については、シーズン終了まで走り続けることは間違いないと断言。ハジャーに関しては、ガブリエル・ボルトレトがザウバーでポイントを獲得し始めるまでは、2025年最高のルーキーだという評価が一般的であった。

Liam Lawson, Racing Bulls Team

 しかしローソンはその後調子を取り戻し、夏休みに入る前には安定したパフォーマンスを見せた。完全に状況が好転したというわけでもないが、失いかけていた自信を取り戻したように見えた。本人は、自信を失っていたと認めることはないだろうが。

「正直に言って、彼は素晴らしい仕事をしている」

 レーシングブルズのチーム代表であるアラン・パルメインは、ハンガリーGPが終わった後、ローソンについてそう語った。

「レッドブルでの2レースは、彼にとっても明らかに、非常に厳しいモノだった。こんなことを言っても、彼が感謝してくれることはないだろうけど、確かに少し落ち込んでいた」

「彼には元気がなかった。我々は彼を助けるために、できる限りのことをした。もちろん、テストもせずにいきなりマシンを乗りこなすのは簡単なことではない。彼の対戦相手は、今年素晴らしい成績を残しているアイザックだ」

「彼が我々のチームで初めて走ったのは、日本でのレースだった。アイザックはまさに、飛ぶように走った。だから彼にとっては、厳しいデビューとなっただろう」

 レーシングブルズに加わって最初の5戦で、ローソンはQ3に進出することも、決勝で入賞することもできなかった。一方でハジャーは日本やサウジアラビアでQ3に進出し、ポイントを獲得した。これはローソンに適応するための時間が必要だったからと説明することもできるが、彼の将来に対する懸念は、当時ますます大きくなっているように見えた。

 しかし重要だったのは、ローソンがモナコ以降パフォーマンスを取り戻したこと。ハジャーとの予選順位も近くなり、チームとしても2台揃って入賞を目指す戦略を実行することができた。

 その後、フロントサスペンションにアップデートが投入されたこともローソンのパフォーマンス向上に繋がり、オーストリア、ベルギー、ハンガリーで好成績を残した。特にハンガリーGPでは、1ストップ戦略を駆使して、フェルスタッペンの前でフィニッシュすることになった。

「我々はいくつかの変更を加えた」

 そうパルメイン代表は説明した。

「彼は懸命に取り組んでくれた。彼と彼のエンジニアリングチームは、本当に一生懸命働いてくれた。オーストリアでは、ちょっとしたブレイクスルーがあったんだ。シミュレータを使って開発した新しいフロントサスペンションを彼に提供したんだけど、彼はそれをとても気に入り、非常に熱心に取り組んでくれた。そしてオーストリアではそれがうまく機能した」

「スパでも彼の素晴らしいパフォーマンスが見られた。モナコもまずまずのレースだったけど、オーストリアで彼は調子を取り戻したんだ」

Liam Lawson, Racing Bulls Team

 ローソン自身は、パルメイン代表が「落ち込んでいた」と評価したことについては異議を唱え、自信が揺らいだことはないと主張する。

「誰もが自分の意見を持っていて、誰かを見て判断を下すモノだ」

「だからそれは構わないけど、自分の感じていることは分かっている」

 それでも彼の立ち振る舞いは、レッドブルのスーツを着込んで苦しんでいた今年初めとは、明らかに異なっている。

「正直に言って、マシンのちょっとした変化、そして僕にとってマシンに慣れる助けになったちょっとした変化以外、大きな変化はないんだ」

 そうローソンは主張した。

「マシンにあんなに心地よさを感じたのは、オーストリア以降だと思う。でもシーズン開幕、つまりマシンを交換して以来、スピードはずっと感じていた」

「シーズン前半は小さなトラブルの連続で、安定感が全然なかった。今は安定しているけど、それを維持するのはとても難しい。そのことに集中する必要がある」

Alan Permane, Racing Bulls team principal

 ローソンの立場は、角田がレッドブルで苦戦していることによって、さらに強固なモノになっている。角田はレッドブル加入後、決勝でのトップ10フィニッシュは3回のみで、エミリア・ロマーニャGPを最後にポイントを獲得できていない。予選でも、角田はQ3に4回進出。ローソンも同じ4回だ。理論上は、角田の方が速いマシンに乗っている”はず”なのにだ。

 このことは、ローソンの開幕2戦の苦戦が、ドライバーのパフォーマンスだけに起因するモノではなかったということを示している。これは彼の将来にとってどんなことを意味するのだろうか?

「今年は本当に忙しかったので、あまり考えていないんだ」

 レッドブル復帰を目指しているかと尋ねられたローソンは、そう答えた。

「今は良いレースをすることに集中している。もちろん、最近では良いレースもあったけど、12レース……いや何レースかある中で3レースだけでは、十分じゃない。もっと良いレースを重ねていく必要がある。そうすれば、どうなるかが分かるよ」

 F1ではタイミングが全てだ。ローソンは20ポイントを獲得して夏休みを迎えた。ハジャーとのポイント差はわずか2である。彼はその重要性をあまり意識していないかもしれないが、少なくともレッドブルのシートに挑むことは2度とできないのではないかという懸念を払拭することができた。しかもシーズン後半には、すでにF1で走ったことのあるサーキットが多い。その基盤を強化していくこともできるだろう。

「F1で走ったことがあるサーキットや、僕が本当に好きなサーキットに行けるのは、もちろん良いことだと思う」

 そうローソンは言う。

「だから、後半戦はエキサイティングなモノになると思うし、楽しみにしている」

Liam Lawson, Red Bull Racing

 ホーナー代表時代、レッドブルは一度チームを去ったドライバーに、2度目のチャンスを与えることは決してなかった。トロロッソ/アルファタウリに戻った後、優勝や表彰台を獲得したピエール・ガスリーでさえ、レッドブルに呼び戻されることはなかった。この方針は、変わることはあるのだろうか?

 しかしレッドブルの2台目のマシンが抱える大問題に関しては、解決からは程遠い。角田は残留を確固たるモノにするために必要な、安定したパフォーマンスをまだ発揮できていない。ただ関係者によれば、ローレン・メキーズ代表は、フェルスタッペンのマシンとのスペック差が、角田のパフォーマンスに悪影響を与えていると指摘。角田には、さらに時間を与える予定だという。しかもベルギーGPとハンガリーGPで角田は、フェルスタッペンとの予選でのパフォーマンス差を確実に縮めた。確かにハンガリーではQ1敗退だったが、フェルスタッペンとの差は0.15秒。マシンのスペック差、そして歴代のフェルスタッペンのチームメイトを務めたドライバーたちと比べても、非常に僅差であると言える。

 つまり角田にも、まだまだあらゆる選択肢が残されていると言えそうだ。

 ローソンがレッドブルのシート争いに確実に復帰したと断言するのは、まだ時期尚早であろう。しかし選択肢が限られ、不確実性が続く中で、彼の調子が上がってきたのは絶好のタイミングであったとも言える。

 シーズン序盤に”降格”させられたことは、ローソンにとって幸運であった可能性もある。少なくとも彼は衰退に歯止めをかけ、シーズン後半に全力を発揮するという目標を、自らに与えることができた。

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