阪神・石井大智が無失点記録を更新した要因、データ分析で判明した昨季からの“モデルチェンジ”

41試合連続無失点、驚異の防御率0.20, 平均球速は昨季よりダウン, 与四球率は30投球回以上のリリーフ投手で12球団トップ, ストレートのストライク率が上昇

阪神・石井大智が無失点記録を更新した要因、データ分析で判明した昨季からの“モデルチェンジ”

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41試合連続無失点、驚異の防御率0.20

阪神・石井大智が連続無失点記録を伸ばしている。8月17日の巨人戦で平良海馬(西武)が持っていた39試合連続無失点のNPB記録を更新し、19日の中日戦で41試合に伸ばした。これは2018~19年のライアン・プレスリー(アストロズ)、2021~22年のジョシュ・ヘイダー(ブルワーズ)が持つ40試合連続無失点のMLB記録をも更新する“世界記録”となった。

アマチュア時代は秋田高専から四国アイランドリーグの高知を経て2020年ドラフト8位で阪神入りした無名の右腕。プロ入り後に力をつけ、2023年は44試合に登板して優勝に貢献した。

昨季も56試合で4勝1敗1セーブ30ホールド、防御率1.48と活躍したが、今季はここまで44試合で1勝6セーブ31ホールド、防御率0.20と驚異的な成績を残している。一体、何が良くなったのだろうか。

平均球速は昨季よりダウン

まずは球種ごとのデータを比較してみた。石井の持ち球はストレート、フォーク、スライダー、ナックルカーブ、シンカーの5つ。それぞれ昨季と今季の平均球速、投球割合、空振り率、被打率は下の通りとなっている。

41試合連続無失点、驚異の防御率0.20, 平均球速は昨季よりダウン, 与四球率は30投球回以上のリリーフ投手で12球団トップ, ストレートのストライク率が上昇

意外だが、平均球速はどの球種も昨季より今季の方が遅い。ストレートは150.9キロから149.1キロに落ちており、他の球種も同様だ。

投球割合はストレートが48.6%から56.9%に増加。空振り率も11.3%から13.7%に上昇し、被打率も.205から.161に良化している。

逆にフォーク、スライダー、シンカーは被打率が悪化。スライダーに至っては空振り率も昨季の16.1%から今季は8.3%と半減している。投球割合が減っているのも納得だ。ナックルカーブは今季の被打率.000だが、投球割合が4.4%と少ない。

つまり、今季は変化球を減らし、ストレートを増やしたことが奏功している。とはいえ、平均球速は落ちており、データ上は昨季よりストレートが良いとは思えない。それにもかかわらず抑えているのはどういうことなのか。

与四球率は30投球回以上のリリーフ投手で12球団トップ

下の表のBB/9をを見てほしい。BB/9とは与四球率、つまり9イニングで四球を何個与えるかを示す指標だ。

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昨季は2.59だったBB/9が、今季は1.23と大幅に良化している。これは30イニング以上投げているリリーフ投手で12球団トップなのだ。

逆に9イニングで何個三振を奪ったかを示すK/9(奪三振率)は昨季の10.73から7.36にダウン。剛腕タイプの多いリリーフはK/9の高い投手が多く、ソフトバンクの藤井皓哉は13.18、中日の松山晋也は12.19を記録している。

阪神でも及川雅貴は9.54、桐敷拓馬は8.21、岩崎優は7.43となっており、石井は下から数えた方が早い。昨季の10.73は阪神のリリーフ陣でトップの数値だったから、今季は別人のような投球スタイルになっていることが分かる。

奪三振と与四球の比率を示し、メジャーリーグで重用されているK/BBは4.14から6.00にアップ。1イニングあたりに何人の出塁を許したかを示すWHIPも0.99から0.73に良化している。

守備や運の要素を排除し、投手の責任である被本塁打、与四死球数、奪三振数のみで能力を評価したFIPが0.98から1.35に悪化しているのは、奪三振が減っているからだろう。それでも優秀な数字であることは間違いない。

つまり、今季は目いっぱい腕を振って三振を取りにいくのではなく、コントロールを重視して四球を出さない投球を心掛けているのではないか。それなら平均球速が落ちていることとも辻褄が合う。

ストレートのストライク率が上昇

そこでコントロールに関するデータを深掘りしてみた。昨季と今季を比較すると、やはり予想通りの変化が表れている。

41試合連続無失点、驚異の防御率0.20, 平均球速は昨季よりダウン, 与四球率は30投球回以上のリリーフ投手で12球団トップ, ストレートのストライク率が上昇

投球全体のストライクゾーン割合は昨季の45.5%から54.1%に増加。ストライクとボールの割合が昨季と逆転している。

ストライク率は全体で見ると、昨季が69.4%、今季が69.9%とほぼ変わらないが、球種で比較すると明らかに違っている。ストレートのストライク率は昨季の76.9%から今季は80.1%に上昇しているのに対し、変化球のストライク率は昨季の62.3%から今季は56.4%に下がっている。

やはり今季はストレートをストライクゾーンに投げ込んで勝負しているのだ。と言っても、力任せではなく、スピードよりコントロールを重視してコーナーに集めているから簡単には打たれない。

元々スピンの効いたストレートのため、全力投球しなくても抑えられるのだろう。坂本誠志郎ら捕手陣のリードもある。自分のストロングポイントを最大限に活かしているのが今季の石井と言える。

チームは2位以下の大差をつけて首位を独走。佐藤輝明ら野手陣にスポットライトが当たりがちだが、石井の貢献度は極めて高い。連続無失点記録をどこまで伸ばすのか楽しみだ。

※成績は2025年8月21日現在