【日下部保雄の悠悠閑閑】按針祭と爬虫類動物園

伊東温泉の風情が伝わる松川館。松川の川辺の温泉旅館からお湯の香がしそうだ

戦国時代、難破して漂着したイギリス人航海士ウィリアム・アダムスという人がいる。時の権力者、徳川家康の厚遇を得て外交顧問となり、三浦按針という名前を与えられて家康の良きアドバイザーとなった。その家康の強い要請で静岡県伊東市の松川河口にドックを作り、外洋に乗り出すことのできる頑丈な西洋式帆船を建造したのが後の按針祭につながる。家康は海外交易も視野に入れていたのかもしれない。

川奈に近い伊東の海岸は江戸城の巨大な石垣を切り出した跡が残る。大きな石に各大名の家紋が刻まれていることが多々あった。江戸と伊豆は今よりもっと身近な存在だったのだと思う。あれほどの巨石をどうやって運んだのか昔の人の知恵は計り知れない。

さて按針祭の花火は毎年8月10日に行なわれる。が、いつものようにモタモタしているウチに10日の宿はなく、予定を変更して前日の小花火大会を見に行くことにした。

松川沿いには夜店が並び、地元の人や大勢の観光客が夏祭りを楽しむ。9日の花火は20時50分から10分間だけ。その前の時間帯は勇壮な太鼓の競演だ。バチの強弱のみでピタリと合う太鼓は見事で勇壮だった。お祭り気分も盛り上がる。

太鼓の競演。渚公園で行なわれた太鼓の連打は迫力がありました。花火が終わるころには撤収完了でプロの集団らしい

そして、太鼓の音が消えると間もなく「ドーン!」と花火が上がった。夜空に咲く花火は真上に開くようで美しく迫力満点。海風で煙は流れ、次々と上がる花火は暑い夏を一瞬でも忘れさせてくれた。たった10分、されど10分! 貴重な10分は大満足だった。

本番の前夜祭の花火。10分の時間だったが小さい子供たちは大満足だったよう

翌日は朝から雨模様。宿屋で相談した結果、河津にあるiZooに行くことにした。初めての施設である。クルマで移動した135号線は渋滞があったが1時間半の行程だ。濡れないで見学できる施設は限られ、駐車場は満杯。運よく入場できたが諦めたクルマもいたようだ。

iZooはトカゲや蛇やワニ、カメなど爬虫類、両生類専門の体験型動物園だ。どちらかといえば苦手なほうだが、それを見透かすように入場口には、「苦手かもしれないけどきっと楽しい!」的なことが書いてあった。ちょっと気分が明るくなった。

熱帯に生きる動物たちが主役なので園内は湿気もあって少し暑いが、珍しいトカゲに迎えられて確かに好奇心が勝る。爬虫類は周囲の環境に溶け込む配色。動かないこともあり見つけにくいが、意外と近くにいたりする。大きな目をぐりぐり回すと愛嬌もあって、だんだんかわいくなってくる。

触れるコーナーではワニの子供を抱くこともできる。おとなしくされるがままになって、くりくりした目がカワイイ。疲れないかなと少し心配になるが、子供たちが爬虫類を好きになってくれるかもしれない。

目の大きなかわいい子ワニにも触らせてもらえる。おっかなびっくりでも夏の思い出になりそう。ワニさんは交代で出演しているよう

大きなリクガメのコーナーでは小さい子供たちを乗せて一緒に写真を撮ることもできた。この光景を見て思い出したのは自分が神田に住んでいた子供の頃、近くの神田橋公園になぜかリクガメがいて甲羅に乗って遊んだことがある。特に柵に囲われているわけでもなく楽しかった思い出だ。飼育員がいた記憶もないがリクガメはしばらくその公園でフラフラしていた。今でも謎である。

リクガメには食事を与えることができ、その気配を感じるとリクガメたちが急ぎ足でやってくる。足を踏まれた……

小さな子供はちょっとだけリクガメの背中に乗せてもらえる。カメさんたちは大勢いるので交代で子供の相手をしてくれる

予想以上に楽しかったiZooを出て伊東までの道中は押し黙って「左7、ロング70」などと心の中でつぶやいていたのを家族に悟られることはなかった。ペースノート作りはなかなか難しい。近代的なラリーに備えるのは大変だ。