チャンドラが捉えた宇宙の“手” パルサー風星雲「MSH 15-52」の最新画像と研究成果をNASAが紹介
こちらは、コンパス座の方向・約1万7000光年先にある天体。
まるで、青色の手が赤色の炎に向かって伸ばされているような姿をしています。
【▲ パルサー風星雲「MSH 15-52」。チャンドラX線宇宙望遠鏡(Chandra)、オーストラリアの電波干渉計ATCA、地上の望遠鏡で取得したHα線の観測データを使用して作成(Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ. of Hong Kong/S. Zhang et al.; Radio: ATNF/CSIRO/ATCA; H-alpha: UK STFC/Royal Observatory Edinburgh; Image Processing: NASA/CXC/SAO/N. Wolk)】
NASA=アメリカ航空宇宙局によると、“手”のように見える部分はパルサー風星雲「MSH 15-52」、“炎”のように見える部分は超新星残骸「RCW 89」の一部です。
パルサー風星雲(パルサー星雲とも)とは、高速で自転する中性子星の一種「パルサー」から吹き出すパルサー風(電子と陽電子の流れ)によって形成される天体。パルサー風が周囲の物質と衝突することで、X線などの電磁波が放射されていると考えられています。
MSH 15-52を形作っているパルサー「PSR B1509-58」は、“手のひら”の付け根にある明るい部分に位置しています。中性子星は直径20~30km程度のコンパクトな天体ですが、MSH 15-52は150光年以上にわたって広がっているといいます。
一方、超新星残骸は超新星爆発が起こった後に観測される天体のこと。爆発の衝撃波が広がって周囲のガスを加熱することで、可視光線やX線といった電磁波が放射されていると考えられています。
【▲ パルサー風星雲「MSH 15-52」の注釈付き画像。超新星残骸「RCW 89」、パルサー「B1509-58」の位置に加えて、“手”の親指や他の指(Thumb and Fingers)、超新星爆発の衝撃波(Blast Wave)も示されている(Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ. of Hong Kong/S. Zhang et al.; Radio: ATNF/CSIRO/ATCA; H-alpha: UK STFC/Royal Observatory Edinburgh; Image Processing: NASA/CXC/SAO/N. Wolk)】
研究対象として興味深いMSH 15-52は、その外見も相まって、これまでにたびたび画像が公開されてきました。今回公開されたこの画像は、チャンドラ(Chandra)X線宇宙望遠鏡のデータ、オーストラリアの電波干渉計ATCA(Australian Telescope Compact Array)で取得したデータ、それに地上の望遠鏡で取得したHα線(電離した水素ガスから放出される赤色の光)のデータを使って作成されています。
X線と電波のデータで明らかになった特徴と深まる謎
香港大学のShumeng ZhangさんとStephen C.Y. Ngさん、INAF=イタリア国立天体物理学研究所のNiccolo’ BucciantiniさんがX線と電波のデータを比較したところ、MSH 15-52の“手首”へと伸びていくジェットや、“指”のうち両端以外の3本は、電波では見えないことがわかりました。この結果からは、衝撃波付近から漏れ出した高エネルギー粒子が磁力線に沿って移動することで“指”を形作っている可能性が示唆されます。
また、電波で観測されたRCW 89の構造は一般的な若い超新星残骸とは異なり、X線や可視光線で検出される塊に一致した斑状に放射されている他に、X線放射を大きく越えて広がっていることがわかりました。この結果は、RCW 89が付近にある高密度な水素ガスの雲に衝突しているという考えを支持するものとされています。
【▲ チャンドラX線宇宙望遠鏡(Chandra)が観測したパルサー風星雲「MSH 15-52」(Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ. of Hong Kong/S. Zhang et al.; Radio: ATNF/CSIRO/ATCA; H-alpha: UK STFC/Royal Observatory Edinburgh; Image Processing: NASA/CXC/SAO/N. Wolk)】
【▲ オーストラリアの電波干渉計ATCAが観測したパルサー風星雲「MSH 15-52」(Credit: X-ray: NASA/CXC/Univ. of Hong Kong/S. Zhang et al.; Radio: ATNF/CSIRO/ATCA; H-alpha: UK STFC/Royal Observatory Edinburgh; Image Processing: NASA/CXC/SAO/N. Wolk)】
こうして幾つかの特徴が明らかになる一方で、まだ理由がわかっていないものもあります。MSH 15-52の“指先”を見ると、X線放射が左右方向へ断ち切られたようになっている部分があります。これは超新星爆発の衝撃波だとみられています。通常、若い超新星残骸では電波でも明るく見えるはずだといいますが、今回の画像作成に使用された電波のデータには対応する構造が見えません。
同じタイプの若い天体と比べて独特な特徴が備わっているMSH 15-52やRCW 89の形成と進化については、まだまだ謎が残されています。パルサー風星雲と超新星残骸の相互作用を理解するために、この天体は今後も研究者の注目を集め続けるでしょう。
画像はNASAや、チャンドラX線宇宙望遠鏡を運用するスミソニアン天体物理観測所のCXC=チャンドラX線センターから、2025年8月20日付で公開されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
・NASA - X-ray and Radio go ‘Hand in Hand’ in New Image
・CXC - X-ray, Radio Go 'Hand in Hand' in New NASA Image
・S. Zhang, C.-Y. Ng, and N. Bucciantini - High-resolution Radio Study of Pulsar Wind Nebula MSH 15–52 and Supernova Remnant RCW 89 (The Astrophysical Journal)