「結婚した娘は実家の墓に入れない」は間違い 先祖の墓に入るシステムは火葬が普及してから
死亡年齢の高齢化、葬式・墓の簡素化、家族関係の希薄化……、社会の変化とともに、死を取り巻く環境も大きく変化してきました。「○○家の墓」のように、子々孫々で同じ墓石の下に遺骨を安置するようになったのは、火葬が普及してからのことです。
この30年間、死生学の研究をしてきたシニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさんが、現代社会の「死」の捉え方を浮き彫りにする新刊、朝日選書『〈ひとり死〉時代の死生観』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から「お墓の変化」を抜粋してお届けします。
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■引き取り手のない「無縁遺骨」は全国で6万柱以上
人が亡くなれば、先祖代々のお墓に納骨する――。これが当たり前の光景でなくなりつつある。総務省が2023年に発表した調査によれば、市町村が保管している引き取り手のない「無縁遺骨」は全国で6万柱以上あるという。
そもそも日本では、葬送や死者祭祀は家族や子孫が担うべきだと考えられてきた。例えばお墓は、「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が継承する」と、民法で規定されている。慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者とは誰か、までは法律には明記されていないが、多くの人は、長男がお墓を継承すると思い込んでいる。
「次男や三男は新しくお墓を建てなければならない」、「結婚した娘は一緒のお墓に入れない」などと思っている人も少なくない。しかし公営墓地や民間霊園では、一緒のお墓に入れる人の範囲は、「6親等内の親族、配偶者、3親等内の姻族」とされているのが一般的だ。
そもそも「○○家の墓」のように、子々孫々で同じ墓石の下に遺骨を安置するようになったのは、火葬が普及してからのことだ。厚生労働省「衛生行政報告例」によれば、今でこそ火葬率は99・9%を超えているが、1970年には79・2%だったので、50年前には5人に1人は土葬されていたことになる。
子々孫々が同じお墓に入り、それを代々継承するシステムは火葬になってから誕生したのに、お墓の話になると、国民の多くが戦前の「家督相続」を想起する。苗字の違う表札が2つかかっている二世帯住宅の住まい方をおかしいとは思わないのに、結婚して苗字が変わった娘は実家のお墓に入れないと思っている人がとても多いのは、とても興味深い。
■遺族から故人へのメッセージを刻む墓石が増えている
しかし、ここ20年から30年、お墓に対する意識は変容している。昨今、家名ではなく、「愛」「平和」などの単語であったり、「ありがとう」「偲」など、遺族から故人へのメッセージを刻んだりする墓石が増えている。音楽好きだった故人のために、楽譜を墓石に刻んだお墓やピアノの形をした墓石を建てる遺族もいる。こうしたお墓は、先祖をまつる場所というよりは、故人が生きた証や故人の死後の住みかと捉える意味合いが強い。
私は講演で、「もし自分でお墓を建てるとしたら、墓石に何と刻みたいか」と問いかけることがある。残される人へのメッセージなのか、自分の座右の銘なのか、自分の人生を表す言葉なのか、答えは人それぞれで面白い。
お墓の大きさも、都心では小さくなる傾向にある。1990年代初頭では、首都圏の民営墓地で売り出されていた一般的な区画は3㎡だったが、2000年頃には2㎡の区画が中心になり、最近では1・5㎡に満たない区画が多い。
30年前に比べると半分の大きさだ。もちろん、「先祖のために立派な大きなお墓を建てたい」という人もいるが、「小さくても故人らしいお墓を」と考える人も少なくない。
夫婦や家族などではなく、血縁を超えた人たちと一緒に入る共同墓や合葬墓を志向する人もいる。ここ数年、こうした共同墓を公営墓地に新設する自治体が増えているし、市民団体、寺院や教会等の宗教施設のほか、老人ホームなどの高齢者施設が運営する共同墓もある。ほぼ毎日、誰かの遺族が墓参にくるので、「いつも花がお供えされている共同墓の方がいい」という人もいる。
血縁を超えた人たちで入るこうした共同墓は、子々孫々での継承を前提としない点が特徴だ。寺院が運営する共同墓は永代供養墓と呼ばれ、寺院が子孫に代わって、故人の供養やお墓の維持管理をする。
またロッカー式の納骨堂は、厚生労働省「衛生行政報告例」によれば、東京都では2005年には納骨堂は310施設あったが、2010年には347施設、2022年には452施設にまで増加している。都心にあるビル型の室内納骨堂は、「駅近」「安い」「掃除不要でお参りが楽」がウリだ。
一方、お墓に納骨せず、海などに散骨する方法を望む人もいる。法律では墓地以外での埋葬は禁じられているが、散骨は遺骨を撒く行為であって、埋葬ではないため、違法ではないとされている。
小谷みどり(こたに・みどり) 1969年大阪生まれ。奈良女子大学大学院修了。博士(人間科学)。第一生命経済研究所主席研究員を経て2019年よりシニア生活文化研究所代表理事。専門は死生学、生活設計論、葬送関連。大学で講師・客員教授を務めるほか、「終活」に関する講演多数。11年に夫を突然死で亡くしており、立教セカンドステージ大学では配偶者に先立たれた受講生と「没イチ会」を結成。著書に『ひとり終活』(小学館新書)、『〈ひとり死〉時代のお葬式とお墓 』(岩波新書)、『没イチ パートナーを亡くしてからの生き方』(新潮社)など。