写真は正直に語る:建造してみたものの、まともに動けない北朝鮮の軍艦
オーストラリアのブリスベン港で潜水母艦「フランク・ケーブル」に係留作業中の米国の巡航ミサイル原潜(SSGN)「オハイオ」(7月27日、米海軍のサイトより)
北朝鮮は近年、海軍の軍艦を5隻も建造したり、大がかりな改修を行ったりして軍事力の高さをアピールしてきた。
例を挙げると、新浦級・弾道ミサイル潜水艦の建造、「金君玉英雄」弾道ミサイル潜水艦の大改修、南浦級コルベット艦(2013年就役)を2023年にミサイル艦に改修、多目的駆逐艦「崔賢 (チェヒョン)」級「崔賢号」駆逐艦(2025年4月25日進水)の建造、同級「姜健(カンゴン)」号(2025年6月13日進水)の建造である。
これらの艦は新造艦だったり大改修艦だったりして、大々的な進水式の後、活発に活動していてよいはず。
ところが、実はドックに入り改修・整備を行っている期間が長く、活躍していない特異な状態が続いている。
艦は、ひっそりと沈黙している場合が多いのである。今回は、それぞれの艦の実態と活動が低調である理由を考察する。
1.新型ミサイル潜水艦、改修で2年間動かず
朝鮮中央通信によると、北朝鮮は2023年9月6日、初の戦術核攻撃潜水艦「第841号金君玉英雄(ヒーロー・キム・ゴンオク)」号の進水式を行った。
「北朝鮮の建国史にはかつてなかった世界的な潜水艦であり、我が国は北朝鮮海軍力の急速な発展を世界に誇示した」と発表している。
写真1 進水中の金君玉英雄号
出典:朝鮮中央通信2023年6月8日
北朝鮮として初めての本格的弾道ミサイル潜水艦を建造したということで、大々的な進水式を催したのである。
その後、約2年が経過している。単独航海はもちろん、通常潜水艦と一体となった戦術行動、各種ミサイル発射を実施していたとしても不思議ではない。
米CSIS(Center for Strategic and International Studies=戦略問題研究所)リポート(2025年7月17日)および「38ノース」(商業衛星を使用して、北について画像解析を専門に行う米国のシンクタンク)(2025年2月21日)によると、進水式後、新浦港に移された。
さらに、2024年5月からドライドック(船のドックへの侵入時には海水があるが、その後、修理のために海水が抜かれてなくなるドック)に移され、2025年2月に再び、新浦港の偽装網の下にある。
写真2 新浦港内の金君玉英雄号と新浦級SSB
出典 左:グーグルアース2023年10月20日、右:CSISリポート2025年7月17日に筆者が書き込んだもの、SSBは弾道ミサイル潜水艦
図 新浦港に繫留されている金君玉英雄号SSBのイメージ
出典:38ノース、グーグルアースの衛星画像より、筆者作成
この艦は、ドライドックに入れられるほどの大規模改修(修理)を行わなければならなかった問題があったのである。今後、航行でき、射撃ができる状態になるのかは注目されるところである。
この艦はもともと、ロシア製のロメオ級潜水艦として1960年前後から建造されたものであり、艦齢は40~50年以上経過している。
この艦は攻撃型潜水艦であったものを、10本のミサイル発射管(4本の大型管と6本の小型管)を備え、小型の弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射できるように改造したものである。
外見上、潜水艦として形もバランスも悪く、まともに潜航して航行できるのか疑問があった。
「運用できそうもない」と指摘する潜水艦の元指揮官も多い。
2.ミサイル発射後ドック入りした潜水艦
北朝鮮は2021年10月19日、新浦級弾道ミサイル潜水艦(SSB)(別名コレ級)から弾道ミサイル(SLBM)を1発発射し、このミサイルは、最高高度約50キロを変則軌道で約600キロ飛翔したと公表した。
ミサイルの発射実験はほぼ成功した。だが、発射母体であるSSBには、大きなトラブルが起きた。
北朝鮮がSLBMを潜水艦から発射、その後、潜水艦が浮上する1枚の写真には、艦橋部分のミサイル垂直発射管の蓋が半開きのままの状態が写っていた。
写真3 新浦級潜水艦の海面への浮上
出典:朝鮮中央通信2021年10月20日
38ノースによれば、2021年の12月13日、新浦港の東方近くの乾ドックで、水が完全に抜かれた状態でこの潜水艦が置かれていた。
潜水艦を完全に晒す状態で置いたのは、特別で大掛かりな修理を行う必要があったからだろう。
そして同年12月28日には、新浦港に戻っていた。
つまり、短期間で修理を行い、元の新浦港のいつもの埠頭に戻された。そこでは、上空、つまり偵察衛星から見えないように、艦の上部に偽装網が展張されていた。
2023年10月の衛星写真には、新浦港の金君玉英雄号の隣、2025年7月の同写真には、同港内の金君玉英雄号から離れた位置にあった。
偽装網の下には、金君玉英雄号が入っているので、新浦級は偽装網から出て、上空から見える位置にある。
この艦は、射撃後ドックに入っていたこと、金君玉英雄号が進水するまで偽装網で隠されていたこと、発射実験の数が少ないことから、故障が多いという情報がある。
これらのことから、欠陥が多い潜水艦であると推測できる。
3.左側に傾き、自力移動に疑問の駆逐艦
朝鮮中央通信によると、北朝鮮は5000トン級駆逐艦、「崔賢」級の第1号艦「崔賢」号を黄海側の南浦造船所で建造し、2025年4月25日に進水式を行った。数日後には兵器の実験も行った。
崔賢号の後部のミサイルセルから発射している写真がある。
そのうちの2枚の写真には、後方左のセルから発射した時には左に約5度傾き、後方右のセルから発射した時には左に約3度の傾きがあった。
写真4 「崔賢」級第1号艦「崔賢」号の巡航ミサイル射撃の様子
出典:朝鮮中央通信2025年4月30日
海上自衛隊の元高級幹部の話によれば、「駆逐艦が巡航ミサイルの射撃で3~5度も傾くことはない」という。この艦は、もともと左に傾いている可能性がある。
38ノース(2025年6月10)リポートによると、ドックから南浦港に移動したのは、自力かタグボートの可能性があるという。
筆者は、朝鮮中央通信が発表している水上にある艦を見て、スクリューによる波の跡が全くないことから、タグボートに曳航され移動した可能性が高いとみている。
北朝鮮の同駆逐艦は西側のイージス艦に似せた形はできたものの、大きな問題があることは事実のようだ。
4.姜健号駆逐艦は進水後ドック入り
「崔賢」級2号艦の進水式が5月21日、日本海側の清津造船所で行われた。
ところが、2号艦の横滑り進水過程で事故が発生し、水中に横転してしまった。
そして6月12日には、再び同じ駆逐艦の進水記念式が盛大に行われた。この艦艇は2026年中頃には海軍に引き渡される予定になっている。
写真5 新型駆逐艦「姜健」の進水式(ドック内)の様子
出典:朝鮮中央通信2025年6月13日に筆者が加筆したもの
進水式の写真を見る限り海面に自立して浮いているが、ドックに水を入れた状態で、艦は前後左右から鎖で繋がれている。その鎖で引っ張られ、やっと自立しているように見える。
進水式は、港の海面に浮いている状態のはずだが、この艦はまだドックに繋がれたままである。
ドックにつながれているということは、今後、長期間の本格的な修理が行われると予想される。
5.南浦級コルベット艦(2013年就役)、今のところ致命的な欠陥なし
2013年頃就役した南浦級コルベット艦(1300トン)は2隻で、それらの大きさは、全長が76メートル、幅が11メートルで、排水量は1300トンである。
そのうちの1隻が2023年8月にミサイル艦に改修され公開された。
写真6 巡航ミサイルを発射している南浦級コルベット艦
出典:朝鮮中央通信2023年8月
この艦は、日米韓のイージス艦に似ているようだが、巡航ミサイルは垂直発射ではなく側面からの発射であり、機械的可動部がない高性能のフェーズドアレイレーダーもない。
防空機能は低レベルで、敵の巡航ミサイルを撃ち落とせないだろう。
6.フリゲート艦で動いているのは2隻だけ
北朝鮮がこれまで建造した1000トンを超えるフリゲート艦・駆逐艦は、わずか7隻である。
古い順から説明する。1973・1975年頃に、2隻ナジン(羅津)級フリゲート艦(1200トン)が就役した。
建造後50年以上経過しており、現在、航行している情報はなく、廃艦同様の状態である。
写真7 ナジン級フリゲート艦
出典: ウィキペディアには、米海軍が撮影したものと記述してあるが、当時、海上自衛隊航空機が撮影し、プレスリリースしたものである。
1985年頃、ソホ級フリゲート艦(1600トン)1隻が就役した。
同艦には大きな欠陥があり、ほとんど係留されたまま動くことはなかった。現在は、廃艦になっている。
2013年頃就役した南浦級コルベット艦(1300トン)2隻だけが、まともに航行しているようだ。
7.港に閉じ込められる新型駆逐艦
5000トン級の艦は前述のとおりだが、傾きを直せるのか、日本海から太平洋に出て航行できるのか、新型弾道ミサイル潜水艦(大改修)はまともに航行できるのか、10基のミサイルを搭載し発射できるのか、大変疑問である。
ウクライナ戦争では、ロシアの黒海艦隊の軍艦はノボロシスク港内に停泊しており、ウクライナの対艦ミサイルや巡航ミサイルの射程内では、航行できない状態である。
防空能力や無人艇への対応ができないからである。
西側のイージス艦に形を似せた北朝鮮の艦は、ロシアの軍艦の1世代古い兵器を搭載しているようだ。
そのため、ロシアの軍艦の能力を超えることはできていない。当然、駆逐艦、弾道ミサイル潜水艦としての機能は韓国レベルには達していない。
将来、北朝鮮の沿岸海域を超えて日本海に出てくれば、簡単に撃沈されることになる。
ロシアの黒海艦隊同様に、長射程地対艦ミサイル(例えば、日本の12地対艦誘導弾能力向上型など)の射程から離れた港に閉じ込められることになるだろう。