東京電力ホールディングス【9501】株価5年で2.1倍 PBR復調のカギ「柏崎刈羽」稼働なら年間収支1000億円改善 再開の時期は?

25年6月から急反発 事故から無配、PBR 0.37倍, 電力首位、「エナジーパートナー」が柱 財務は最悪期を脱する, エネルギー市況と廃炉費用が業績を左右 今期4~6月は過去最大の赤字, 「柏崎刈羽」再稼働はいつ? 工事完了が延期に 県は意識調査に着手

東京電力ホールディングス【9501】株価5年で2.1倍 PBR復調のカギ「柏崎刈羽」稼働なら年間収支1000億円改善 再開の時期は?

25年6月から急反発 事故から無配、PBR 0.37倍

東京電力ホールディングスの株価は足元で反発しています。2024年4月までは上昇トレンドで、一時1114.5円まで買われました。以降は右肩下がりとなり、25年4月のトランプ関税ショックでは360円の安値を付けます。

反発は同年6月ごろから始まります。株価は直線的に上昇し、翌7月末には約9カ月ぶりに600円台を回復しました。株価の上昇は、イスラエルとイランの停戦合意に伴う原油相場の下落や、データセンター事業への参入報道などが材料視されたとみられます。中長期でも上昇率は高く、5年ではプラス115.0%(2.1倍)に達します。

【東京電力ホールディングスの株価チャート(過去5年間)】

・株価:630円(25年8月6日終値)

25年6月から急反発 事故から無配、PBR 0.37倍, 電力首位、「エナジーパートナー」が柱 財務は最悪期を脱する, エネルギー市況と廃炉費用が業績を左右 今期4~6月は過去最大の赤字, 「柏崎刈羽」再稼働はいつ? 工事完了が延期に 県は意識調査に着手

出所:Tradingview

ただし、PBR(株価純資産倍率)は足元の株価で0.37倍と、目安の1倍を大きく割り込みます。東京電力ホールディングスは11年の東日本大震災以降、無配へ転じており、純資産は積み上がりやすい状況です。これに逆行する形で、同社のPBRは長期に逓減しています。

【東京電力ホールディングスのPBR(25年8月6日終値)】

・1株あたり純資産(自己株式除く):1722.28円

・PBR:0.37倍

・(参考)東証プライムPBR:1.4倍(25年7月)

※純資産および株式数は25年3月末

※東証プライムPBRは加重平均

出所:東京電力ホールディングス 決算短信、日本取引所グループ その他統計資料

PBRの改善は、純資産の減少または株価の上昇が必要です。しかし、東京電力ホールディングスは公的な支援を受ける立場から、株主還元などで純資産を減らすことが難しい状況にあります。PBRの改善は株価の上昇に期待したいところです。

東京電力ホールディングスの株価動向には、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働が大きなカギとなると考えられます。現在はどのような状況にあるのでしょうか。経緯を振り返りましょう。

電力首位、「エナジーパートナー」が柱 財務は最悪期を脱する

まずは企業の概要を解説します。

東京電力ホールディングスは主に首都圏を管轄する電力会社です。戦後に設立された電力会社の1社で、売り上げは首位級です。グループには持分法の適用会社として関電工や東京エネシス、また中部電力と共同で設立したエネルギー会社JERA(ジェラ)などを持ちます。

【主な電力会社の売り上げ(25年3月期)】

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出所:各社の決算短信

15年には持株会社制およびカンパニー制へ移行しました。16年に商号を東京電力から東京電力ホールディングスへ変更し、各事業はカンパニー子会社へ承継します。燃料・火力発電は「フュエル&パワー」が、送配電は「パワーグリッド」が、小売りは「エナジーパートナー」が引き継ぎました。この3社に、19年に設立し再生可能エネルギー事業を承継した「リニューアブルパワー」を加えた4社がグループの基幹会社です。

主力はエナジーパートナーで、売り上げおよび利益の大部分を担います。なお、「ホールディングス」には各カンパニーを統括する役割のほか、原子力部門を含みます。

【セグメント情報(25年3月期)】

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出所:東京電力ホールディングス 決算短信

東京電力ホールディングスは、東日本大震災に伴う事故で事業環境が一変しました。13年3月期までの3年で計2兆7000億円を超える最終損失を計上し、11年3月期には決算書に「継続企業の前提に関する注記」(※)が記載されるに至ります(13年3月期に解消)。自己資本比率は、12年3月期に5.1%まで悪化(10年3月期は同18.7%)しました。

※継続企業の前提に関する注記…会社が将来にわたって事業を継続する前提(ゴーイング・コンサーン)に不確実性が認められるとして財務諸表に記載される注記

機構(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の支援もあり、最悪期は脱しています。25年3月期で自己資本比率は25.1%まで改善、震災後に15.7倍まで悪化したDEレシオ(負債資本倍率)も、高水準とはいえ1.7倍にまで低下しました。支援の経緯から、機構は議決権の過半を単独で所有する筆頭株主となっています。

もっとも、財務は依然として苦しい状況です。特に資金繰りは厳しく、フリーキャッシュフローは7年連続でマイナスです。設備投資や廃炉などの支出が重く、資金は負債でまかなう状態にあり、有利子負債は22年3月期から増加に転じています。

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出所:東京電力ホールディングス ファクトブックより著者作成

エネルギー市況と廃炉費用が業績を左右 今期4~6月は過去最大の赤字

業績も一進一退です。電力会社として設備の償却費や修繕費などが経常的に生じるほか、エネルギー市況が利益を左右します。東京電力ホールディングスは、これに賠償費や廃炉に向けた費用など、固有のコストが利益を圧迫する構図です。

特に東京電力ホールディングスは事故以来、原子力による発電がありません。電源は火力が中心で、エネルギー市況のリスクを比較的大きく受けます。23年3月期は、燃料費の高騰を主因に赤字に転落しました。翌24年3月期は燃料調整費(※)の期ずれから大幅な増益でしたが、翌25年3月期は燃料調整費が減少に転じ、経常利益は前期比40.2%減となっています。

※燃料調整費…燃料費の上昇を電気料金に反映する仕組み。反映には3~5カ月の遅れ(期ずれ)があるため、市況の上昇時は調整が追い付かず収益が悪化しやすい一方、下落時は電気料金に先行して費用が減少するため収益が改善しやすい。

25年6月から急反発 事故から無配、PBR 0.37倍, 電力首位、「エナジーパートナー」が柱 財務は最悪期を脱する, エネルギー市況と廃炉費用が業績を左右 今期4~6月は過去最大の赤字, 「柏崎刈羽」再稼働はいつ? 工事完了が延期に 県は意識調査に着手

出所:東京電力ホールディングス 決算短信より著者作成

続いて業績の見通しです。東京電力ホールディングスは、今期(26年3月期)の業績の予想を開示していません。柏崎刈羽原発の再稼働が見通せないことから、業績の予想が立たないとしています。

もっとも、同業の動向から見通しは厳しいことがうかがえます。東京電力ホールディングス以外の旧・一般電気事業者9社を集計したところ、今期の業績予想の平均は売上高が前期比6.2%減、経常利益が同26.2%減です。販売電力量および燃料調整費の減少を見込むことが多く、東京電力ホールディングスにおいても売り上げは伸び悩むと考えられます。

なお、今期の第1四半期の決算はすでに公表されています。前年同四半期比で、売上高は4.5%減、経常利益は0.9%減です。販売電力量の減少から減収となった一方、燃料調整費の好転により経常利益は横ばいとなりました。

ただし、新たに燃料デブリ取り出しに関する復旧費用9030億円を特別損失に計上したことから、最終損益は8576億円の赤字です。これは、第1四半期としては過去最大の損失とみられています。

「柏崎刈羽」再稼働はいつ? 工事完了が延期に 県は意識調査に着手

続いで、原子力発電所の再稼働に向けた動きを振り返りましょう。

原子力発電所は、一時は全国ですべてが停止しました。しかし、現在は全国的に復調の傾向にあります。一方、東京電力ホールディングスはいまだにゼロの状態です。

25年6月から急反発 事故から無配、PBR 0.37倍, 電力首位、「エナジーパートナー」が柱 財務は最悪期を脱する, エネルギー市況と廃炉費用が業績を左右 今期4~6月は過去最大の赤字, 「柏崎刈羽」再稼働はいつ? 工事完了が延期に 県は意識調査に着手

出所:東京電力ホールディングス ファクトブックより著者作成

東京電力ホールディングスが保有する原子力発電所は、福島の第一・第二と柏崎刈羽(新潟県)です。うち福島は廃炉が決定しており、再稼働の期待は柏崎刈羽に向けられています。同社は再建計画において、原子力発電所1基の稼働で年間1000億円の収支改善が見込めるとしています。ただし、同社が認めるとおり、再稼働の見通しは不透明です。

柏崎刈羽は6~7号機で認可を取得し、再稼働の手続きを進めています。しかし、7号機で当初25年3月の完了を予定していた新規制上(テロ対策など)の工事が、29年8月までかかる見通しとなりました。当該工事の期限は25年10月のため、仮に再稼働させても、すぐに停止を強いられる状況です。

6号機も、同工事の完了目途が26年9月から31年9月へ延期されました。ただし、6号機は工事期限が29年9月と、7号機より約4年の猶予があります。技術的には25年8月ごろには準備が整うとしており、すぐに再開させれば数年の稼働が見込めます。このことから、今後は6号機に注力する方針です。

なお、原子力発電所の稼働には地域住民の理解も必要です。新潟県は再稼働に関連する県民意識調査の実施を公表しており、25年8月中下旬から柏崎刈羽原発から30キロ圏内を中心に県内全域で調査を実施します。また、県民の意見を募る公聴会も8月末まで実施される予定で、県知事の判断は9月以降に示される見通しです。

若山 卓也/金融ライター

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。