原爆投下後に人々を笑顔にしたバレーボール 世界一のセッター猫田が果たせなかった夢を受け継いだ選手たち
戦前から続くバレーボールチーム広島サンダーズと、偉大なレジェンドの物語です。
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広島サンダーズの前身、広島地方専売局(専売広島)のバレーボール部が誕生したのは、1931年ごろのことでした。
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かつて、クラブ史をまとめた元部長の山下仁さんは、バレーに熱心な土地柄があったと振り返ります。
■広島サンダーズ元部長 山下仁さん
「戦前からね、広島はバレーに盛んなところだと。昔からのバレーに対する土壌が
あったんです。」
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1945年の原爆投下で、専売広島の庁舎や工場も被害を受けました。そんな中、人々を笑顔にしたのが、バレーボールでした。
■広島サンダーズ元部長 山下仁さん
「会社の昔の先輩に聞くと、1つの励みというか、原爆で物がなくなって、工場も被害を被って、半年後に操業を(再会)したと聞いておりますが、昼休みにご飯食べたら、すぐみんなが集まって。バレーが盛んだったんですよ。」
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そんなサンダーズへ戦後に入団したのが、猫田勝敏さんです。広島出身の猫田さんは、地元・崇徳高校を出て、1962年に入社した期待のセッターでした。
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猫田さんの妻・禮子(れいこ)さんは、バレーボールに打ち込む夫を支えてきました。
■妻・猫田禮子さん
「本当にバレーを愛した人だったんです。だから(練習にも)真面目みたいなんですよね。同級生や友達に聞いても。必ず1時間前には、練習場に着かないと、機嫌が悪かったですね。」
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日本代表でも、正確なトスで多彩な攻撃を支えました。3度目のオリンピック出場となったミュンヘン大会は、決勝で東ドイツを下し、バレーボール男子に初の金メダルをもたらします。
■妻・猫田禮子さん
「広島の空港は、観音だったんですよね。あそこからパレードがあったりして。まともに(自宅へ)帰らなかったですね。皆さんが、祝福してくださって。」
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世界一へ上りつめ、日本中に感動を与えた猫田さん。唯一、叶えられない夢がありました。1967年から始まった国内リーグに、初年度から参加している古豪・サンダーズ。しかし、世界一のセッターをしても、日本一には届きませんでした。1983年、猫田さんは胃がんのため、39歳でこの世を去ります。日本一の夢半ばでした。
(右前)臺(うてな)光章さん 広島テレビ放送
その後『JTサンダーズ』と名前を変えたチームで中心選手として活躍したのが、臺(うてな)光章さんです。2000年代、当時のVリーグでサンダーズは、3度決勝に進みますが、リーグ優勝へあと一歩届きませんでした。
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現在、事務局長としてクラブを支える臺さんは、日本一の難しさを痛感しました。
■広島サンダーズOB 臺光章さん
「見えない(優勝の)プレッシャーを、ひしひしと感じていた。チャンスはあったんですけど、なかなかそこの壁、猫田さんがおっしゃていた壁が越えられず、私も終わってしまったんですけど。」
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苦しい時代を乗り越え2015年、プレーオフを勝ち上がったサンダーズは、再び決勝の舞台へ戻ってきました。日本一を遂げることなく亡くなった猫田さんの妻・禮子さんも、会場で見守ります。
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決勝は、第1セットから死闘となります。デュースの応酬で、30点を超えても決着がつかない大接戦となりました。
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当時のベンチメンバーで、2025年に引退した安永拓弥さんは、日本一への思いがチームの勢いにつながったと振り返ります。
■広島サンダーズOB 安永拓弥さん
「歴史に名を刻みたいというか、トップリーグに長くいるサンダーズが、まだ1回もタイトルを取れてないのがⅤリーグ(優勝)だったので、絶対に取ろうぜという雰囲気は、すごくありました。」
最後のサーブを決めた越川選手(当時) 広島テレビ放送
40点を超え迎えた、サンダーズのセットポイント。ついに、相手のミスで激闘の1セット目を制します。これで主導権を握ったサンダーズが、2セットを連取。迎えたマッチポイント。ヒロシマが動いたその瞬間です。最後、越川のサーブが決まった瞬間、悲願のリーグ初優勝を決めました。2015年、広島サンダーズの長い歴史に刻まれた初の日本一。創部84年での悲願達成は、多くの汗と涙が報われた瞬間でした。
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かつて、猫田さんが夢見た日本一。歴史の重い扉を開きました。
■妻・猫田禮子さん
「父さんがいたらいいなと思って。喜ぶだろうなと思って。これを目指していたんだろうなって思いました。」
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■広島サンダーズOB 安永拓弥さん
「皆さんの歴史があって、今のチームがありますし、その当時もあったので。全員の力で取れた優勝だったんじゃないかなと思います。」
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10月からの新シーズンへ向け、若い世代が着実に力を伸ばしている広島サンダーズ。先人たちの思いを胸に、再び「日本一」を目指す戦いが始まります。
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世界一のセッターと呼ばれた猫田勝敏さんを輩出したのが、広島市安佐南区の古市小学校です。古市小学校では年2回、校庭全面にコートを張り「少年少女バレーボール祭」と呼ばれる大会を開催しています。1933(昭和8)年に、安佐郡学童排球大会として始まりました。2025年は、広島市内の児童50チームおよそ600人が参加しました。