「参政党のモデルは共産党と公明党です」 元共産党員の創立メンバーが明かした組織体制・資金獲得の秘密とは
街頭演説でビラを配る参政党のスタッフ=7月12日、東京都江東区
2025年7月の参議院選挙で一躍、台風の目となった参政党。「極右政党が躍進」と国際的にも大きく報道された。そんな参政党がこれまでの新興政党と最も異なる点は、潤沢な資金構造と、全国津々浦々に張り巡らされた地方支部の存在だ。そのように強固な党組織を、なぜ短期間で確立することができたのだろうか?鍵を握ったのは、日本共産党の元専従職員であり、参政党創立に関わったジャーナリスト、篠原常一郎氏。「実は参政党のモデルにしたのは、共産党と公明党です」――。インタビューに応じた篠原氏は、参政党躍進の秘密を明かした。(共同通信=武田惇志)
▽日本の自主独立路線で一致し、結党
取材に応じる篠原常一郎氏=7月25日
篠原氏は1979年、18歳で共産党に入党。25歳で専従職員となった。以後、2004年11月に党を除籍されるまで、選挙や政治の世界に関わってきた。旧民主党でも国会議員の政策秘書を務めた後、ジャーナリストとして主に政治・軍事分野についてユーチューブで発信してきた。
そんな篠原氏は2020年、参政党創設時の事実上の役員会であるボードメンバーに名を連ねていた。篠原氏は経緯をこう説明する。
「(参政党の)神谷宗幣代表と共通の知人がいまして、『政党を作りたい』と言っていました。でも彼らは、政党をどう構成するかが分からなかった。『篠原さんは共産党、民主党にいたし、職員として支えてきた知見を生かしてアドバイスをしてほしい』と頼まれたのがきっかけです」
当初のボードメンバーにはユーチューバーのKAZUYA氏らもいた。篠原氏によると、彼らと合宿などで議論を重ねる中で、党の理念・綱領を作り上げたという。彼らが一致点を見いだしたのは、日本の自立というテーマだった。
「一番の共通点は日本の自立、自主独立でした。それは、僕自身が共産党にいる時代からのテーマだったんです」
▽憲法草案の裏側
SNSで配信された参政党のショート動画を映すスマートフォン=7月20日、東京都新宿区
篠原氏の念頭にあったのは、戦後すぐに共産党が前面に打ち出していた憲法9条への反対論だ。日本国憲法制定前の1946年6月、共産党の野坂参三(後に議長、名誉議長など歴任後、除名)は「侵略戦争は認められないが、自衛戦争は認められるべきだ」と主張。「自衛権も認められない」とする当時の吉田茂首相と論争になった。
憲法の採決日には、野坂参三は党を代表して以下のような反対意見を述べている。
「我が国の自衛権を放棄して民族の独立を危うくする危険がある。それゆえに我が党は民族独立のためにこの憲法に反対しなければならない」
このような歴史を念頭に、篠原氏らボードメンバーによる議論の末、参政党の綱領には「天皇を中心に一つにまとまる平和な国をつくる」「日本国の自立と繁栄を追求」などが書き込まれた。
ただ、篠原氏はこうした理念を具体化する作業にはほとんど関わらなかったという。
「それは党員の中で志願した人たちがやったんです。そこで憲法のグループも作って、2年間勉強して憲法草案を作ったわけだけど、お粗末そのものでしたね。『幼稚園のお絵かきレベル』と言ったら、みんな怒っていたけど。だって、あの草案には現行憲法から改憲する手続きのための条文が一切ないんですよ。今の憲法は明治憲法から、手続きに基づいて改憲されたわけですけど。改憲手続きがないってことは、革命でもやって憲法変えるのかって話なんだよね」
▽サブスク政党
東京選挙区で当選を決め、支持者から拍手される参政党のさや氏(左端)=7月20日、東京都千代田区
他方、篠原氏が主導したのは、党の収入の仕組みだった。党費を軸にして、政党交付金に頼らない資金構造を作り上げたのだ。
「組織というのは、すなわち金です。それは、僕が共産党の末端の職員として、党費や機関紙『赤旗』の集金を20年ほど担当してきて感じたことです。
金を集めるというのは結局、心を集める活動なんです。支える気がない人は、金を払わないんですよ。『赤旗』の読者だろうと、党員だろうとね。
自民党みたいに年額の党費を年に1度払って、党員の資格を更新するんじゃなくてね。党費を毎月払うことで、党員であるというアイデンティティーを主張するとともに、党全体を自分のものとして支えるんだという思想を始めから据えたんです。参院選で1万人ほど増えたので、現在の党員数は約8万5千人。基本的に党費は月額千円なので、月に8千万円は入る。これが強さの背景になってますね」
篠原氏の話は、参政党の政治資金収支報告書でも裏付けられる。2024年公表の報告書によると、前年の収入は約12億円。そのうち、党員が払う党費が約4億4千万円、個人献金が約1億3千万円と、両方の収入で計45%超を占める。さらに、全国で開かれるタウンミーティング、他党に比べ漫才や音楽など娯楽色の強いイベントの収入が計約4億2千万円あり、収入を補っている。
一方、参政党と同じく今回の参院選で躍進した国民民主党を見てみると、全く異なる構造を示す。同じ時期、党本部の約14億円の収入額中、党費は約3千万円、個人献金は約600万円と計3%未満に過ぎない。地方支部で党費収入はあるものの、多くの収入を政党交付金に依存する実態がある。
また、共産党には党のメディアとして「赤旗」があるが、その点も批判的に参考にしたという。
「『赤旗』の購読者減が報じられていますが、紙媒体が衰退する時代に、参政党が紙の新聞なんか配る必要はない。必要な時に、ソーシャルメディアやインターネット、党員向けのメルマガで発信すればいい。お金もデジタルで集めよう。そういう方向性を定めました。いわばサブスク政党です」
▽“俺たちの候補者”を作るシステム
参政党の街頭演説で気勢を上げる人たち=7月19日、横浜市
篠原氏によると、当初のボードメンバーが党組織のモデルとして位置づけていたのが、共産党と公明党だった。
「末端でお金を払って、党を使って政治を変えたいと思っている人たちこそ、主人公であるべきだ。そのためにはどうしたらいいのか?という点で、その2党が浮かんだわけです。公明党と共産党ってよく似てるんですよ。党員に、強いアイデンティティーがある。ただ、共産党時代の僕の経験も踏まえて、共産党のように上意下達の組織にならないシステムを構築しました」
そこで導入したのが、「運営党員」の仕組みだ。現在は月2500円の費用を支払うことで、議員の公認などに関わることができる。篠原氏によると、参政党公認で出馬を希望する人は、短い演説動画を作り、党内で配信しなければならない。運営党員が3分の2以上承認しないと、公認は出ないという。
「これが結構、落とされてるんです。スキャンダルなどがあれば『次は公認しないぞ』ということができるシステムとして、当初から入れたんです。党員にとって、“俺たちの候補者”になるんです。」
ただそれは、党全体が党員の質に左右されるということでもある。ポピュリズムに堕しやすい構造でもあるのだ。
「ユーチューブの世界では、不確かな知識に基づいて政治や歴史について発信している配信者が多いじゃないですか。神話世界を真実だと思っている人もいる。そういう層が参政党にこぞって来ているわけです。それ故に、すごく素朴な保守主義や、右翼的な主張が反映しちゃう面があります。そうして党は、当初の理念から段々、離れていく。でもそれは、僕はしょうがないと思っています。党員こそ主人公なので。成熟するには、各地の議会でそれぞれの課題とぶつかっていくしかないでしょう」
▽草の根は居酒屋から
参政党の街頭演説に集まった人たち=7月19日、東京都港区
参政党の急台頭を物理的に支えたのは、強固な組織力だ。実動部隊は全国に約150人いる地方議員とボランティアが担った。地方支部は全国に約290もある。
篠原氏によると、各地で講演会を開催し、現地のメンバーを中心にした勉強会のサークルを作っていき、それを土台に支部を結成させてきたという。
「長野県松本市に初めて行った時は、居酒屋に5人しか集まらなかった。入党希望者に連絡を取って、飲み会しながら相談会をやりましょうって言って。そこから始まった。そういうふうに、地方で(講演会や勉強会などの)タウンミーティングを先行させてやって、核になる人を励ましながら組織の結成に至らせるんです。そういう中から地方議員が出てくる」
選挙のノウハウも、パッケージ化して支部のメンバーに徹底させた。
「選挙闘争をどうやるべきか、もっとノウハウを知りたいと頼まれて、初期は僕が講師を担当しました。これまでの経験に基づいたものを理論化して、オンラインの受講も可能な有料講座にしました。あらゆる機会に党に金が入るようにしたんです。その講座で育った人たちが今回、参議院選挙での中心スタッフや議員候補者になりました」
▽選挙はオーソドックスに
「日本人ファースト」のスローガンが掲げられた参政党の選挙カー=7月12日、東京都江東区
重視したのは、ネット選挙ではなく、従来のオーソドックスな選挙運動だった。
「参政党は、ソーシャルメディアを通じて党勢拡大するという目途はあったんだけど、そんなに発信力がないんですよ。だからアナクロな手段を結びつけたんです」
とりわけ党内で必要性を主張したのが、駅頭宣伝を定時ですることと、ポスター張りだったという。
「昔から選挙の仕事やってて思ってるんですけど、知名度を上げるにはポスターが一番効果があるんですよ。音を出す宣伝って、その時に居合わせた人しか聞いてないんです。一つ一つ許可を取って張るのは大変な労力ですけどね。支部のスタッフたちはみんなすごく真面目な人たちで、教えたらセオリー通りやってくれましたよ」
▽排外主義的な党員も
参政党の街頭演説会場で抗議の声を上げる人たち=7月19日、東京都港区
篠原氏は現在、ボードメンバーを退任している。個人的にアドバイスを求められれば、協力するというスタンスだという。時に、メディアで公然と党を批判することもある。
「私は女性天皇を容認すべきという立場ですが、参政党は『男系男子による皇統維持が大切』と言い出しました。その点で決定的に相いれない立場となった。とはいえ、党を作った身でもあるから、いろんな相談は応じています。だけど、党を積極的に支持したり、勧めたりするということはしません。そういう立場なんです。男系男子継承も党員たちが決めたことなんで、私があれこれ言うことじゃないです」
今回の参院選では大きく躍進した参政党。「日本人ファースト」の主張が「排外主義」と批判され、演説会場では「差別政党」とプラカードを掲げて抗議する人たちも現れた。実際、神谷代表も三重県での演説で、朝鮮人差別の言葉を口にした。「今のカット」などと撤回したが、党内にそうした発言を許容しやすい空気があることを感じさせる。
「党の中の不安定さを反映しているんだと思っています。確かに党の中には、排外主義的傾向を持っている人はいます。スピリチュアル系とか、偽科学系の人とかもいる。
初期には、反ワクチンの女性グループがいました。彼女たちは反ワクチンの主張が過激で、参政党もそれを取り込んだ。でも党が国会で活動するようになって、以前ほど過激な主張をしなくなると、この人たちは離れていったんですよね。
その時その時に政策として打ち出すものによって、共鳴するグループが入ってくるわけです。グループとして入るから、それが党の組織になっちゃう時もあります」
▽参政党の今後
参院選の開票を受け、笑顔を見せる参政党の神谷宗幣代表=7月20日、東京都新宿区
篠原氏は今後について「ぼろが出るのは間違いない」とも指摘する。想定されるのは、急成長に伴う人材不足だ。
「議員が増えて急に公設秘書を増やさなければならないけど、そう簡単に優秀な人材は見つからないでしょう。
それと神谷代表が『今は数を増やさなきゃ』と、他の党の人も引っ張ってきちゃったりする。日本維新の会出身の梅村みずほ氏も、国民民主党出身の鈴木敦氏もそう。参政党の生え抜き議員ではないことに、危うさを感じますね。
地方議員からスタートして、地方議会の中でもまれて、有権者と直接関わって。その上で、国会議員になる人たちをどれだけ輩出できるか。地方議員の成長が鍵だなと思っています。今は過渡期ですから」
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篠原常一郎氏 1960年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。1979年、18歳で日本共産党に入党。専従職員となり、国会議員の公設秘書を務める。2004年に党を除籍され、民主党議員の政策秘書に。現在はジャーナリストとして軍事、政治分野などでの言論活動を行っている。
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