問題社員に辞めてもらいたい!→裁判で不利になる典型的な「NG対応」とは?

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問題社員に会社を辞めてもらいたい場合、経営者はどのような姿勢と方針で臨むべきなのか。問題社員の典型事例を解説しながら、経営者が「実際にどうするべきか」を提言する。※本稿は、島田直行『知識ゼロからの問題社員のトラブル解決 円満退職のすすめ方』(幻冬舎)の一部を抜粋・編集したものです。

交渉の成功は

「事前の準備」で決まる

 特に中小企業では人手不足もあり、「問題があるから」とすぐに辞めてもらうわけにはいきません。まずは指導からです。

 もっともいくら指導をしても改善に至らないのが問題社員。「合わない職場」で勤務し続けることは、双方にとって適切ではありません。むしろ感情的な軋轢を深めるだけになります。そこで退職を視野に入れた対応を検討することになります。

 しかし経営者は、「退職してもらいたい」と思っていても具体的に動きだすとなると躊躇します。「退職を提案してもいいのだろうか」「どうやって退職を提案すればいいのだろうか」と悩みは尽きません。

 まずは会社から退職を提案することの意味をおさえましょう。いきなり会社から「辞めてください」と提案して「はい。わかりました」と簡単に同意してもらえることはありません。退職すれば、社員は生活の糧を失うことになるわけです。退職勧奨はそれなりの決断を社員に強いることになります。

 提案を受け入れてもらうには、交渉方法よりも提示する条件も含めた事前の準備によって決まる部分が大きいです。退職勧奨は、いわば一発勝負のようなもの。感情に流されて実施するとたいてい混乱してうまくいきません。

 退職の提案は、「する側」も「される側」もストレスとなります。だからこそ慎重に準備してから臨むべきものです。

 そこでここでは、前向きな解決としての退職を実現するまでの手順を整理します。

「退職提案」をしたつもりが

「不当解雇」で争うケースも

 先に「解雇」についておさえましょう。解雇は、労働者の意思に反して賃金という生活の糧を奪うことになるがゆえに、実施できる場面が著しく制限されています。

 経営者は「解雇などできない」と腹をくくることが、現実的な心構えです。

「退職」と「解雇」の認識は、当事者によって相違がでてしまうことがあります。問題社員のなかには、自己に有利になるようにあえて会社に解雇を仕向けるようなひともいるので注意を要します。

同書より転載

 経営者は、解雇について究極的な懲戒処分とイメージしている傾向があります。これは正確性を欠く理解です。解雇には、人事権に基づく解雇(普通解雇)と懲戒権に基づく解雇(懲戒解雇)の2つがあります。

 人事権とは、採用、昇格、配置など組織における労働者の地位の変動や処遇に関して会社が有している決定権限です。この人事権に基づく解雇が「普通解雇」であり、問題社員の解雇はだいたいこれに該当します。

 協調性の欠如といった問題は、組織をつくるうえで支障になります。しかし、違法行為とまでは言えませんから、問題社員を解雇する場合には、一般的に人事権に基づく解雇をすることになります。

 懲戒解雇は、社員の企業秩序違反行為に対しておこなわれるペナルティです。懲戒処分は戒告・譴責(けんせき)・減給など、就業規則に定められており、そのなかでもっとも重い処分。

 明らかな違法行為が認められる場合に有効で、横領など明らかな違法行為が認められるような場面に限られます。「就業規則に定めがあるから」と懲戒解雇をしても、不当解雇として事後的に争われることもあります。

 裁判では、どちらの解雇か聞かれることもあります。裁判所から質問されたときにたじろぐと「解雇内容も理解しないまま解雇したのですか」と心証が悪くなります。

 いずれにせよ、解雇は会社のリスクになります。どちらの解雇でも、「不当解雇」として争われることがあり、できれば退職勧奨で事案を解決することに注力しましょう。

会社から提案する退職は

「会社都合退職」となる

 解雇の難しさを理解したうえで退職について説明をします。退職には、社員の都合で退職する「自己都合退職」と会社の都合で退職する「会社都合退職」があります。

同書より転載

 問題社員の多くは会社ともめながらも退職しません。そこで会社から積極的に退職を促すこともあります。これが「退職勧奨」です。

 会社が退職を提案し、社員が提案を受け入れれば退職ということになります。このような会社からの提案に基づく退職は、会社都合退職になります。

同書より転載

退職勧奨までの

手順と道のりとは

 ここからは退職勧奨までの手順について確認していきます。問題行為があったときは、まずは業務指導を実施して改善を促します。

 指導は、漫然と実施しても意味がありません。将来における退職勧奨を見据えたものであるべきです。書面あるいはメールなど記録として残る形式で実施します。

同書より転載

 もっとも書面による指導は、担当者にとっては正直面倒です。業務に忙殺されると口頭注意に戻ってしまいます。結果、裁判で不利になることがよくあります。

同書より転載

指導を受けたときの

問題社員の反応

 問題社員は指導を受けると、感情的な反発を示すことがあります。こういう場合には議論をしても意味がありません。指導書を渡して、対応を終わらせましょう。

 逆に指導をしても無関心というケースもあります。こういった社員に対しては、具体的な改善策を会社に報告するように指示します。

 例えば不機嫌になりやすく周囲とのコミュニケーションに問題がある社員がいるとします。このときに「Aさんに経理情報が届いておらず事業に支障がでました。この問題を防止するための改善策を提案してください」といった指示をします。本人から改善策をださせることで、自分の問題であると理解してもらうことがポイントになります。

同書より転載

経営者は管理職を

しっかり支えよう

 管理職は、ときに「部下からパワハラと批判されるのではないか」とおびえながら指導することを余儀なくされる厳しい立場となりました。

『知識ゼロからの問題社員のトラブル解決 円満退職のすすめ方』 (島田直行 幻冬舎)

 このような状況下で、苦しい胸の内を理解してくれるひとのいない孤独は、離職へとつながっていきます。

「パワハラが違法な行為」というのは、もはや社会の常識です。ただ「指導とパワハラの分岐点」を質問されると、言葉に詰まってしまうでしょう。指導とパワハラの違いというのは相対的なもので、クリアに区別できないときも現実にあります。

 あまりにも「ハラスメント」という言葉が拡張されたことで、指導する側に萎縮効果が生じています。経営者は、管理職を支えているということを明確に示すべきです。

同書より転載