都心にも「無人駅」があるって本当? 東京23区で“改札がない駅”が成り立つワケ

「無人駅」といえば田舎の駅のイメージが強いが、実は東京都や大阪府といった都心にも無人駅は存在する。どんな駅なのか、「All About」鉄道ガイドの野田隆が解説する。

「無人駅」といえば田舎の駅のイメージが強いが、実は東京都や大阪府といった都心にも無人駅は存在する。どんな駅なのだろうか?

(今回の質問)

都心にも「無人駅」があるって本当? 改札も駅員もいないのに成立するのはなぜ?

(回答)

東京23区内にある東武大師線の大師前駅や新交通システムの駅は無人駅だが、特殊な条件の元、何の不便もなく成立している。

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東武大師線の大師前駅が無人駅である理由

東武大師線は単線で2両編成の短い電車が行き来する

まずは、一般鉄道の駅で無人駅となっている東武大師駅について。どんな駅なのか知るため、実際に訪問してみよう。

東京メトロ半蔵門線から東武伊勢崎線(愛称「東武スカイツリーライン」)に直通する急行電車に乗る。押上駅、曳舟(ひきふね)駅、北千住駅に停車し、次の西新井駅(東京都足立区)で下車。この駅で大師線に乗り換える。

エスカレーターでコンコースに上がり、大師線の乗り場へ。すると改札機が並んでいる。同じ鉄道会社での路線乗り換えの場合は、原則、改札機を通ることはないのだが、妙に思いながらもICカードをタッチして大師線ホームへ。

23区内では最短の2両編成の電車が発車を待っていた。早朝と深夜を除いて10分ごとの発車だから不便ではない。

定時に電車は西新井駅を後に、単線の線路を走り出した。すぐに高架になり、しばらくすると減速して終点の大師前駅へ。所要時間2分の実にあっけない旅だった。

小さいながらも終着駅の雰囲気がある大師前駅

大きなドームに覆われた終着駅のムードたっぷりの大師前駅は1面1線の簡素な駅。

階段を降りると、かつて駅員がきっぷを回収したりハサミを入れていた改札口が残っているものの駅員の姿はない。自動改札機もないので、そのまま外に出てしまった。

大師前駅には改札口の痕跡があるものの無人で出入り自由だ

何だかきつねにつままれたような気分だ。とりあえず駅から2分ほどのところにある西新井大師にお参りして、再び大師線に乗って西新井駅に戻る。

きっぷの販売がない旨を知らせる

大師前駅の構内をよく見回すと、「当駅ではきっぷの発売はいたしておりませんので、そのまま乗車して」くださいとのこと。先ほどと同じ2両編成の電車で西新井駅に戻り、乗り換え用の改札機にICカードをかざしてコンコースに入る。

西新井駅構内の中間改札。これが大師前駅の改札の代わりだった

ふと気になり、振り返って改札口を観察すると、こんな表記が目にとまった。

「大師前駅には改札がございません。きっぷはここで回収となります」

帰宅後、ICカードの履歴をチェックしてみると、下車駅と乗車駅に大師前駅の表示があった。つまり、本来、大師前駅に設置するはずの自動改札機が西新井駅の大師線乗り換え通路に移転していたのだ。

大師線に途中駅はないので、この関所を通過した利用客は全員大師前駅で降りる。こうして大師前駅を無人駅とし、改札機もきっぷ券売機も撤去して合理化を図っているのだ。それでも運賃の取りはぐれはなく、不便も特になさそうだ。

ちなみに東武大師線と同じシステムを取っている路線として、神戸市内のJR山陽本線の支線(兵庫駅~和田岬駅、通称「和田岬線」)および名古屋市内の名鉄築港線(大江駅~東名古屋港駅)がある。どちらも中間駅はなく、起点の次が終点という短い路線だ。

日暮里・舎人ライナーは無人駅だらけ

新交通システムの日暮里・舎人ライナー

大師前駅から西へ20分ほど歩くと日暮里・舎人ライナーの駅がある。この猛暑では歩く気がしないので、北千住駅、日暮里駅と鉄道で移動し、日暮里・舎人ライナーの始発駅・日暮里駅から乗車した。

いわゆる新交通システムの鉄道路線で、レールの代わりにコンクリートの道床があり、ゴムタイヤの車両が走る。フルスクリーンのホームドアが各駅に設置され、ホームドアを乗り越えるなど不可能だ。列車は自動運転で運転士も車掌もいない。

普通なら駅員がいるはずの改札口脇の窓口は閉鎖中

そして、各駅も日暮里と西日暮里を除いて原則係員のいない無人駅ばかりだ。

試しに降りてみた熊野前駅も無人駅で、自動改札機が並ぶ脇の詰所には人影がなく、何か困りごとがあればインターホンで別の場所に待機している係員と連絡を取る方式だ。

駅員がいないことを知らせる表示(熊野前駅)

都内を走るもう1つの新交通システム・ゆりかもめも自動運転で、新橋駅、有明駅、豊洲駅以外は全て無人駅となっている。

時間帯によっては駅員が不在となる駅や改札口

JR東日本は23区内には完全な無人駅はない。けれども、早朝・深夜をはじめ閑散時間帯には駅員が不在となる駅があるので、駅員の助けが必要な人にとっては事前の連絡などが欠かせない。人員不足による合理化の一環だが、不便なことは否めない。

ほかの鉄道会社でも合理化により、駅の一部の改札口が無人となっている場合があるので、精算などインターホン越しにICカードなどを所定の位置に置いて遠隔操作で処理を行う場合がある。不慣れだと混乱する人がいるかもしれない。

この記事の筆者:野田隆

名古屋市生まれ。生家の近くを走っていた中央西線のSL「D51」を見て育ったことから、鉄道ファン歴が始まる。早稲田大学大学院修了後、高校で語学を教える傍ら、ヨーロッパの鉄道旅行を楽しみ、『ヨーロッパ鉄道と音楽の旅』(近代文芸社)を出版。その後、守備範囲を国内にも広げ、2010年3月で教員を退職。旅行作家として活躍中。近著に『シニア鉄道旅の魅力』『にっぽんの鉄道150年』(共に平凡社新書)がある。