「自分はもっとやれる」のか 渡邉彩香のキャリアをつないだ上田桃子と最愛の人

31歳の渡邉彩香。ツアー通算6勝目の裏では何度も自らに進退を問うていた
◇国内女子◇大東建託・いい部屋ネットレディス 最終日(27日)◇ザ・クイーンズヒルGC (福岡)◇6503yd(パー72)◇晴れ(観衆3516人)
ここ何年ものあいだ、渡邉彩香は試合会場で寂しさを覚えていた。シード喪失と復帰を繰り返した自身の戦いぶりについてではない。時の流れとともに、憧れだった先輩プロや、年の近い選手たちが姿を消していく。続けるべきか、やめるべきか。自らも第一線を退く覚悟を決めるための、指標を探る時間が増えた。
9月に32歳になる。そして、ツアー通算6勝目を挙げたきょうも、現役でプレーしている。その背中を押してくれたのは昨年、17勝を飾った舞台から降りた上田桃子。渡邉がシードを落とした2023年シーズンのオフに、今後のキャリアについて話す機会があった。

両親と一緒に。この日、夫はコースに不在だった
上田に「『自分はもっとやれる』という気持ちがあるかどうか」と問われたという。現役続行も、引退も、自ら決断するのがプロゴルファー。キャリアや向上心を左右するのは結局、自分自身を信じられるか否か、に尽きる。「自分はやれるという気持ちがあるうちは絶対に強くなれる」。誰よりもストイックなスタイルを貫いた大先輩の言葉が「ゴルフをやめずに、続けようと思ったきっかけ」になった。
「(自分は)もうベテランだと思わざるを得ないぐらい、若い選手が多い」。20代前半、あるいは10代のライバルたちと日々、せめぎ合う上では、夫の存在も大きい。21年2月に結婚した埼玉栄高時代の同級生で、柔道家の小林悠輔さん。この日の早朝、ホステス大会での優勝争いを前にスマートフォンで「緊張している」とメッセージを送ると、「珍しいね。やることをちゃんとやれば勝てるから大丈夫」と返ってきた。

メジャー優勝もしてみたい
いつも変わらずポジティブで、「(言動の)どこに根拠にあるの?と思うときもある」と笑う。「でも、その通り(優勝)になりましたね」。誰よりも味方になってくれる人がいて、ゴルフへの熱量は入籍前と同じだけ注げるのもありがたい。「私は旦那さんの理解があって、結婚しても全く変わらない感じでゴルフに没頭させてもらっている。でも、こうやって勝ったら、一緒に喜んでくれる人が家にはいる」
2打差7位から、1イーグル6バーディ、この日のベストスコア「64」をたたき出す圧巻の逆転V。「先輩たちがいなくなって、すごく寂しいとずっと思っていたけれど、きょうは後輩の子たちがグリーンサイドにも来てくれたり、クラブハウスでもみんな待っていてくれたり…。そう慕ってくれてる後輩もたくさんいる。すごくうれしかった」。悩んで、迷って、30代で初めて勝った先には、今までと違う景色が広がっていた。(福岡県糸島市/桂川洋一)