「開幕4番」早期指名の中日・石川と日ハム・野村は何が違ったのか 2軍降格の石川は「トレード要員」の危機に

 4番で結果を残せず、ファームで過ごす日々になにを思うか――。中日の石川昂弥は、井上一樹新監督から「4番・三塁」での起用を早々に明言され、開幕から13試合連続4番でスタメン出場を続けたが、打撃不振に陥った。打率.160、本塁打ゼロ、3打点。今月12日に登録抹消され、現在はファームで打撃の土台から見つめ直している。(データは4月22日現在)

 石川は東邦高(名古屋市)からプロ入りして6年目。高校3年春のセンバツでは全国制覇を飾った高校No.1スラッガーだった。2019年のドラフトで中日、オリックス、ソフトバンクが1位指名で競合。指名権を得た中日で和製大砲候補として将来を嘱望されたが、本来の能力を発揮しきれない。昨年は82試合出場で打率.272、4本塁打、25打点。打率は前年より上がったが、本塁打は23年の13本から激減した。ボールを遠くへ飛ばす能力は目を見張るものがあるだけに、井上監督は歯がゆく感じていたに違いない。4番を託すことで、その地位にふさわしい選手に成長することを期待したのだろう。

 だが、石川は出口が見えないトンネルから抜け出せなくなってしまった。直球に差し込まれ、変化球に泳がされる。打席で迷いが感じられ、表情が硬い。得点圏打率.182と好機でブレーキになる打席が目立つようにもなった。4月11日の阪神戦の守備では、ファウルフライの捕球態勢に入りながら遊撃手に譲って落球。打撃不振が守備にも影響を与える悪循環に陥っている様子だった。

■昨年11月に「開幕4番」指名され結果出した野村

 早々の4番指名といえば、日本ハムの新庄剛志監督が昨年11月のファン感謝祭で、伸び悩む野村佑希を25年シーズンの開幕4番で起用すると宣言したことと重なる。

 野村は石川の1年先輩で、花咲徳栄高(埼玉)の2年時に夏の甲子園に4番打者として出場し、全国制覇を果たした。18年のドラフト2位で日本ハムに入団。石川同様、スラッガー候補として期待され、プロ入り3年目の21年には4番で起用されることもあった。だが伸び悩み、昨年は、56試合出場で打率.210、2本塁打、9打点と打撃不振に陥った。

 開幕から4番に座った今季、野村は結果を出している。3月30日の西武戦では2打席連続アーチを放つなど6打点の大活躍。ここまで打率は.254、3本塁打だが、ボール球をきっちり見極めて四球を選ぶなど出塁率は.359(リーグ6位)。勝負強い打撃を発揮して、12打点(リーグ4位)、得点圏打率.421(リーグ4位)と、チームの勝利に貢献している。

■期限があった野村と期限がなかった石川

 石川と野村の「サプライズ4番」宣言は同じように話題を呼んだが、両監督の起用方針には大きな違いがあった。井上監督は「我慢比べ」と言って結果が出なくても起用し続ける考えを口にしていたが、新庄監督は「開幕15試合限定」と明確に期限を示していた。

「新庄監督はシビアです。期待はしても信用はしないということでしょう。ファームと違って1軍は勝たなければいけません。日本ハムにはレイエス、清宮幸太郎、万波中正など強打者がいますし、優勝を目指す上で温情での起用はチームのプラスに働かない。野村の4番を15試合限定としたことで、特別扱いではないということを示しました」(北海道のテレビ関係者)

 結果的に、期限がなかった石川はファームに降格。15試合限定だった野村は新庄監督が「延長」を宣言し、20試合が過ぎた現在も4番で起用され続けている。

 スポーツ紙デスクも「石川と野村では状況がまったく違いました」と話す。

「昨年まで、野村はファームにいるとき格の違いを見せて打ちまくっていた。1軍で力を発揮できないのは、結果を出そうと気持ちが焦り、本来のスイングができていないことが原因でした。新庄監督は4番で起用することで迷いをなくそうという狙いがあったのでしょう。負けん気が強い性格なので意気に感じたと思います。一方で石川は打撃のスタイル自体が定まっていない。1軍で活躍できないのも故障が多いなど、打撃の技術以前にコンディション面で課題を抱えていました。性格も繊細なので4番に入って結果が出ないときにどうなるのか不安がありました」

 石川を高校時代から見てきた他球団のスカウトはこう指摘する。

「石川はミートポイントが捕手に近く、力感のないスイングでも打球が飛んでいく。中村剛也(西武)に近いですね。軽々とスイングしているように見えますが、それが彼の打撃スタイルなんです。ああいうタイプの選手はミートポイントをいじるとおかしくなってしまう」

■「石川は混乱しているように感じる」

 中日に入団以降、色々な指導者が石川の素質を引き出そうとしてきた。今年から就任した松中信彦打撃統括コーチは「荒々しさを出してほしい」と要望し、井上監督も長打力を生かすために思い切りの良さを求めている。だが、その指導法に石川が対応できているのか。

 アマチュア野球を取材するライターは、「石川は逆方向に伸びる長打が持ち味でしたが、プロに入ってからミートポイントを前にして崩される打撃が増え、良さが消えてしまった。今年も難しい球に手を出して、甘い球を見逃してしまう。頭の中が混乱しているように感じます」と指摘する。

 中日OBは「球団の育成力だけが原因ではないと思います」と言い、こう続ける。

「プロで活躍するためには指導者の言うことを鵜呑みにせず、聞き流すスキルも必要です。結果を出せば何も言われない世界ですから。石川は真面目すぎるんですよね。もっと自分のスタンスを貫いてほしい。和製大砲として期待されながら、自分の良さを見失って消えてしまった選手を何人も見てきました。石川も今のままではトレード要員になってしまいます」

 幸い、シーズンは始まったばかりで時間はある。ファームでやり直すことになった石川は、本来の力を発揮して、もう一度はい上がれるか。

(今川秀悟)