よかれと思いつけた首輪で重傷を負った三毛猫の悲劇 ノミ取り用やベルトタイプは要注意

首輪による傷で手術した三毛猫さん。元気になって顔つきも穏やかになってきました
「地域で半年ほど見かける首輪をした三毛猫さんが1カ月くらい前から、首輪がたすき掛けのようになっていて、最近は嫌な臭いがするんです」という電話がありました。相談者さんは、いつも近くの空き家の段ボールで寝ている、首輪のついた三毛猫さんが気になっていたそうです。
首輪をしているので飼い猫だった可能性が高いですが、たすき掛けになっているのに1カ月も放置されているということは、迷子になったか、飼い主さんの死亡や飼育放棄など何かしらの事情で家に帰れない状態であることが考えられます。

ぱっくりと裂けていた左脇の縫合手術直後の三毛猫さん
飼い猫さんが慣れない外を長期間さまようと痩せて首輪が緩くなり、たすき掛け状態になってしまうケースは意外とあります。外見以上に重傷である場合が多いため、保護を急ぐことにしました。
地元のボランティア団体さんから借りている捕獲器には途中までしか入ってくれないというので、ねこから目線。のスタッフが現場に伺い、三毛猫さんがウロウロする場所の一角に、警戒心の強い猫さん向けの捕獲器とカメラを設置して張り込みます。約1時間半後、ターゲットの三毛猫さんが登場、あまり警戒することなく、捕獲器の中に入ってくれました。安全な位置でご飯を食べていることを確認し、捕獲器を作動させて保護完了です!

三毛猫さんの首輪(左上)とたすき掛けになっていた位置
移動用のケージに入れ替えると、きつい膿の臭いが漂ってきました。急いで動物病院へ搬送しましたが、診察時間には間に合わず。でも病院のご厚意で応急処置として首輪の切断をし、病院で預かってくださることに。翌日しっかり診察してもらうと、たすき掛けになった首輪のせいで左脇がぱっくりと4.5センチほど裂けていました。
数日間傷口を洗浄、膿を取り除く処置を行ってから後日、縫合手術になりました。脇のようによく動く場所は縫合しても傷が再び開いてしまうことが多く、長期の入院治療になりました。
治療を動物病院に任せている間、並行してやらねばならないのが飼い主探しです。飼い猫だった可能性が高いので、保護した場所の警察署と動物愛護センターに迷子猫の届け出が出ていないか確認の電話をしました。
残念ながら該当する届け出はなく、警察に「拾得物届」を提出して「保管委託」を受ける書類を書き、「拾った落とし物(猫)を持ち主が名乗り出るまでの間、責任を持って保管する」状態にします。合法的に保護治療するために必要な手続きです。3カ月の間に飼い主さんが名乗り出なければ拾得者に所有権が移るため、里親募集をすることができます。
三毛猫さんは入院から50日目にやっと退院が許可されました。2回の手術を経て無事、傷口が塞がったそうで、ねこから目線。の事務所へ連れて帰りました。完治していないため、しばらく「エリザベスカラー」(傷をなめさせないための襟巻きのようなもの)をつけて過ごしてもらいます。
首輪は今回のようにたすき掛けだけでなく、子猫の頃につけられた短い首輪により成長に伴って首が締めつけられたり、胴に巻きついてウエストが裂けてしまったり、さるぐつわになって口が裂けてしまったりと、深刻な事故につながることがあります。特に、硬い蚤(のみ)取り首輪でけがをするケースが多く、良かれと思ってノラ猫さんにつけた結果、猫さんを苦しめてしまうこともあります。

元気になり、おやつをおねだりする三毛猫さん。まだエリザベスカラーは外せません
飼い猫さんはできれば室内飼育をしていただきたいのですが、どうしても外に出てしまう場合は、外れにくいベルトタイプではなく、ある程度の力が加わると自然に外れる「バックルタイプ」を選んでほしいと思います。人間の少しの配慮で、防げる事故がたくさんあります。
三毛猫さんが保護されたのは奈良県です。デニム生地に星の模様が付いた首輪をしていました。心当たりのある方は、飼い主であることを証明できる資料を持参して、警察署に問い合わせをお願いします。
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保護猫活動は各地で個人や団体のボランティアなどにより行われています。私が関わりのある団体さんの活動を紹介します。
川西TNR地域ねこの会
兵庫県川西市を拠点に、不幸な命を増やしたくない、人と猫が穏やかに共生できる地域に…を目標に活動しています。
飼い主のいない猫を地域に受け入れてもらうために、不妊去勢手術の普及啓発や、飼育相談を行っています。子猫の里親探しのための譲渡会も開催しています。
昨今、社会問題にもなっている多頭飼育崩壊や、1人暮らしの高齢者が入院や施設入所のため、飼育困難になった…等の相談をよく受けています。「行政と地域の連携」の必要性を強く感じると同時に、「大事に至る前に誰かに相談」の場所になりたいと活動しています。
譲渡会情報
毎月第1土曜日の午後1~4時、のらねこ専門病院「のらねこさんの手術室」(大阪府池田市鉢塚2-8-26、石橋阪大前駅から約1キロ)をお借りして譲渡会を開催しています。
たくさんの子に出会いのチャンスを!をコンセプトに、当会で保護した子だけでなく、個人のボランティアさんたちが保護した猫たちにも参加してもらっています。来場者は、保護主から直接普段の猫の様子を聞いていただけます。
さまざまな疑問や不安要素にお答えし、必要に応じてトライアルから譲渡へのサポートもしています。
イチ押しにゃんこ「夏と海」さん
たくさんの野良猫がいる地域で、とてもひどい状態で保護した子です。3兄妹でしたが、小さな末っ子は助かりませんでした。
ひどい猫風邪に栄養失調、さらに真菌…。小さな身体に、これでもかと降りかかった困難を頑張って頑張って乗り越え、とても元気なかわいい兄妹に育っています。
あたたかい家族に迎えられる日を待っています。
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黒子猫/約3カ月/メスの夏とオスの海/避妊去勢手術、ワクチン接種2回、ウイルス検査(陰性)済み
小池英梨子
立命館大学大学院応用人間科学研究科対人援助学領域修了。「ねこから目線株式会社」(大阪市)代表、「人もねこも一緒に支援プロジェクト」(NPO法人)代表。平成16年から猫の保護譲渡やTNR活動をスタート。大学院でノラ猫をテーマに「共生と共存社会のリアリティ」について研究し、29年に猫の多頭飼育崩壊など、ヒトの福祉と猫問題への並行支援が必要なケースに対応するため「人もねこも一緒に支援プロジェクト」を立ち上げる。30年に保護猫・ノラ猫専門のお手伝い屋さん「ねこから目線。」を設立。京都、福岡、沖縄にも拠点を置き、ライスワークもライフワークも猫にまみれている。