“絹と雲の間のような食感”に感動…名店のわらび餅を学ぶ:世界!ニッポン行きたい人応援団
ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日夜8時54分)。
今回は、フランスに住む外国人の来日の様子をお届けします。
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1カ月で1万箱を売り上げるわらび餅
紹介するのは、フランス在住の「夏の和菓子」を愛するディミトリさん。
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暑い夏を彩る、涼やかで華やかな「夏の和菓子」。古くから四季の変化を楽しむ日本人は、菓子でその移ろいを表現し、美しく繊細な和菓子を生み出してきました。
ディミトリさんが和菓子に出会ったのは10年前。友人の勧めで始めた茶道の先生からもらった、ニッポンの和菓子の本がきっかけです。茶道の先生は、和菓子を食べたお客さんに“季節を実感する”大切さを知ってほしかったそう。
茶道の心得は「一期一会」。一度きりの出会いを大切に想い、心から客人をもてなすという心得を様々な形で色彩豊かに表現することで、和菓子は独自の進化を遂げてきました。
そんな和菓子に魅了されたディミトリさんは、4年前からインターネットや本を参考に自作。その魅力をフランスで広めたいと、高校で先生をする傍ら週に1個のペースで和菓子を作り、SNSに投稿。反響があり、販売もするように。
ここで、和菓子作りを見せてもらいます。作るのは、白餡を使ったレモン風味の水羊羹。レモン水と粉末の寒天を入れ、火にかけて混ぜ合わせます。火が通ったところで白餡を入れ、滑らかになるまで溶かし、洋菓子用の型に流し入れて2時間冷やせば完成!
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さらに、着色した白餡で作る「練り切り」と呼ばれる和菓子も。この練り切りは、ディミトリさんが勤める高校のお茶会で提供。生徒たちにも好評です。
しかしディミトリさんは、まだ自分の和菓子に納得していないそう。「和菓子を学ぶためにニッポンに行きたい」と願っていますが、コロナ禍の後、航空券が高騰したため行けません。
そんなディミトリさんを、ニッポンにご招待! 念願の来日を果たしました。
向かったのは、奈良県奈良市にある「千壽庵吉宗」。看板商品のわらび餅は、全国菓子大博覧会で内閣総理大臣賞を受賞。1カ月で1万箱を売り上げるほどの人気です。わらび餅を作れるようになりたいというディミトリさんの熱意を伝えたところ、快く受け入れてくださいました。
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早速、わらび餅をいただくことに。黒いわらび餅は本わらび粉、白いわらび餅は本わらび粉にさつまいものでんぷんを混ぜて作っています。
ディミトリさんはくず粉で作るものだと思っていましたが、伝統的なわらび餅に使われるのは本わらび粉。わらびの根をすり潰し、何度も水に晒してでんぷんを抽出したものです。大量の根と長い手間がかかるため、高いものだと1キロ3万円もする高級品。
本わらび粉100%のわらび餅を提供するお店は、国内でもごくわずか。「千壽庵吉宗」では、きな粉だけをかける伝統的なスタイルでいただきます。
白いわらび餅を口にしたディミトリさんは「黒蜜をかけなくても十分に味わいがあります。とても美味しいです」と感動! 本わらび粉100%の方をいただき「本当に素晴らしい! これが本物の味なのですね。黒蜜をかけているわけではないのにコクのある甘味を感じます」と伝えます。
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「弾力があるのに消えていく…まるで絹と雲の間のような食感です」とディミトリさん。今回は、そんなわらび餅の作り方を見せていただきます。
原材料は、本わらび粉、グラニュー糖、水の3つ。三代目の山本哲也さんによると、本わらび粉本来の味を楽しめるよう、あまり味のしないグラニュー糖で甘味だけをつけているそう。
3つを混ぜ合わせて火にかけると、鍋底から徐々に熱が入り、塊ができ始めます。これをよく練ることで、でんぷんの分子が均一に絡み合い、強く結合。もっちりと滑らかな質感に。
熱伝導率の高い銅鍋は、素材を均一に熱することができますが、焦がしてしまう危険性も。そのため、作り始めると一切手を止めることができません。
練り続けること30分、羊羹舟と呼ばれる容器に移し、一晩寝かせます。すると水分が全体に馴染み、より滑らかさが増すそう。
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ここで、ディミトリさんも挑戦! 火にかけた材料を30分練り続け、羊羹舟へ。出来栄えは、明日カットして見ていただきます。
さらに、「純本生わらび餅まんじゅう」の作り方も教えていただけることに。お盆の時期だけ発売する特別な和菓子で、とろける食感と餡子が絶妙にマッチした大人気商品です。
作り方は、餡の上にわらび餅を被せ、優しく包んでいくというもの。ディミトリさんが包んだ饅頭は、一見きれいに見えますが、山本さんのものと比べると平たい形に。饅頭は「腰高に作れ」といわれ、美しい見た目が職人の技の証に。
その後も腰高の饅頭を目指し、作り続けること20個…ついに合格点をいただきました。
翌日は、山本さんご夫婦の案内で、赤膚焼の窯元へ。1583年、豊臣秀吉の弟・秀長が常滑の陶工を招き、茶器を焼かせたのが始まりとも言われる「赤膚焼」。茶道をたしなむディミトリさんに奈良の焼き物を見せたいと、連れてきてくださったのです。抹茶椀の絵付けの体験も。
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お店に戻り、いよいよ昨日作ったわらび餅をチェック。ツヤも良く、昨日よりも弾力が増しており、山本さんから「上手にできました」とお褒めの言葉をいただきました。絹と雲の間のような絶妙な食感のわらび餅は、こうして生まれるのです。
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このわらび餅を茶菓子にし、お茶会を。実は山本さんは茶道歴30年! ディミトリさんは、感謝の心を茶道で伝えたかったのです。
「少しでも僕の感謝の気持ちが伝われば、これ以上に嬉しいことはないです」(ディミトリさん)。「日本の茶道をフランスの方がされて、それを日本人にもてなしていただくっていうのが非常に嬉しいです」(山本さん)。
別れの時。「宝の手 絹の雲を紡ぎけり」と感謝の詩を読み上げます。すると山本さんから、フランスでも作れるようにと、本わらび粉と道具一式のプレゼントが。大感激のディミトリさんは、山本さんご夫婦とハグを交わし、再会を約束しました。
山本さん、「千壽庵吉宗」の皆さん、本当にありがとうございました!
多くの著名人に愛される赤阪の名店
続いて向かったのは、東京・赤坂。ニッポンで流行している夏の和菓子を求め、明治32年創業の老舗「赤坂青野」へ。多くの著名人に愛されている名店です。
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試食させていただくのは、期間限定販売の「冷しみたらし」。冷たいみたらしの中に沈む団子の涼やかな見た目も相まって、連日売り切れが続出する大ヒット商品です。
ディミトリさんは、団子の柔らかさに驚き! 餅にタピオカ粉を入れており、販売統括主任の大兼達也さんによると、餅が冷えても硬くならないようにと様々な粉を試した結果、たどり着いたそう。
「赤坂青野」の皆さん、本当にありがとうございました!
続いて、文京区にある明治42年創業の「甘味処 みつばち」へ。四代目の嶋田有子さんによると、こちらで発祥した小倉アイスを使ったあんみつが一番人気だそう。
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早速、「小倉白玉あんみつ」をいただきます。餡のかわりに小倉アイスが乗っているのは、「みつばち」ならでは。
まずは、小倉アイスから。ねっとりした食感を想像していたディミトリさんは、「シャーベットのようにさっぱりしています」と感想を。「みつばち」の小倉アイスは、小豆、塩、砂糖、水のみを使用し、乳脂肪分を使っていないため、さっぱりとした口溶け。自家製の黒蜜や赤エンドウ豆も美味しくいただきました。
「甘味処 みつばち」の嶋田さん、本当にありがとうございました!
涼やかな和菓子が評判の名店で錦玉羹を学ぶ
続いて向かったのは、島根県松江市。城下町として栄えた松江は、全国でも有数の茶の湯文化が根付く街。江戸時代から和菓子作りが盛んに行われ、京都・金沢に並ぶ日本三大菓子処といわれています。
「錦玉羹を作れるようになりたい」と願っていたディミトリさん。錦玉羹とは、寒天と砂糖で作る透明感のある菓子のこと。何度か挑戦したもののうまく固まらなかったそうで、今回は、羊羹と錦玉羹を合わせた涼やかな和菓子が評判の名店「風流堂」でお世話になります。
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早速、夏の夜空に輝く天の川をモチーフにした「あまの川」を試食。「こし餡の部分も、とても滑らかな口あたりです」とディミトリさん。「風流堂」では、小豆を何度も水に晒し、皮を取り除いてから炊いた「皮むき餡」を使用。こし餡よりもさらに滑らかで、口溶けがよいのが特徴です。
他にも、季節の変化を表現した和菓子を紹介していただき、いよいよ錦玉羹作りを教えていただくことに。
銅鍋に水と寒天を入れ、熱して完全に溶かし、そこにザラメと弾力を出すための水飴を加えます。再び沸騰させますが、ここで大事なのが糖度を測る作業。錦玉羹と羊羹の2つの層を一体化させるには、それぞれの糖度を62℃で合わせなければいけません。
続いて、型に流しながら夜空の風景を作る最も重要な工程へ。「あまの川」は4つの層でできているため、順番に錦玉液を流し、固めながら徐々に形を作っていきます。
まずは錦玉羹がくっつかないよう、型にアルコールを吹きつけます。種落としと呼ばれる道具で錦玉液を流し、羊羹で作った星を並べて、星の瞬きを表すために金粉を。これが、型から抜いた時、一番上に来る1層目。
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さらにこの上から錦玉液を流しますが、工場長の園山武志さんいわく「棹物(錦玉羹)は、焦ってはいけない」とのこと。2層目を早く流してしまうと層が混ざり合い、遅いとくっつかないのです。
「僕の錦玉羹が失敗したのは、タイミングを間違えていたんですね」とディミトリさん。
固まってから2層目を流すと、出来上がった後に剥がれてしまう原因に。職人は固まり具合を常に確認し、ベストなタイミングを見極めます。
固まる寸前を見極めて2層目を流し、幻想的なグラデーションを生み出すために色付きの錦玉羹を配置。さらに3層目を重ねたら、糖度を合わせた皮むき餡を寒天と混ぜ、最後の層に敷き詰めます。これを冷蔵庫で半日冷やせば完成!
教わったことをもとに、園山さんのアドバイスを受けながらディミトリさん1人で「あまの川」にチャレンジ。果たして、美しいグラデーションは作れたのでしょうか。
社員食堂での昼食を挟み、午後も時間が許す限り、和菓子作りの技を教わったディミトリさん。いよいよ、半日かけて固めた錦玉羹「あまの川」が完成! 園山さんにチェックしていただくと…「大成功です!」。五代目の内藤葉子さんからもお褒めの言葉をいただきました。
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「時間が経つと、模様が馴染むんですよ」と園山さん。出来立ては、中の錦玉羹がくっきりと見えますが、一晩置くと同化し、美しいグラデーションになるそう。
そして、別れの時。ディミトリさんが「今日の経験は、僕の夢そのものでした。フランスでも皆さんのことを思い出しながら錦玉羹を作ります」と伝えると、最後にプレゼントが。
「風流堂」のお菓子に加え、錦玉羹を流す型と園山さん手作りの練り切りに使う菓子道具をいただきました。
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ディミトリさんは「園山さんのストーリーを背負った道具を使えるなんて、光栄です」と感動!
「風流堂」の内藤さん、園山さん、本当にありがとうございました!
夏の和菓子を通じて、様々な出会いがあったニッポン滞在。帰国を前にディミトリさんは「沢山のことをノートに書きました。和菓子の作り方はもちろんですが、生徒たちに伝えたいニッポンの心についても書きました。お茶の席で出されるお菓子は1つですが、今回の滞在でいただいたものは数えきれません」と語ってくれました。
ディミトリさん、またの来日をお待ちしています!
月曜夜8時54分からは、「ニッポン行きたい人応援団」を放送!
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