一般入試で合格した早大、在学中に五輪出場 文武両道で…「競泳は大学まで」変えたオリンピックの衝撃――競泳・松本信歩

インタビューに応じた松本信歩【写真:荒川祐史】

競泳・松本信歩インタビュー

昨夏のパリ五輪で競泳女子200メートル個人メドレーに出場した松本信歩(あいおいニッセイ同和損保)が、「THE ANSWER」のインタビューに応じた。中学と高校を都内有数の進学校で過ごしながらトップスイマーへの階段を駆け上がり、早稲田大学に一般入試で合格。在学中に宅地建物取引士などの資格を取るなど文武両道を貫きながら、大学4年でパリ五輪出場を果たした。社会人となった今、見据える先にあるのは2028年ロサンゼルス五輪決勝の舞台。競技と学業を高いレベルで両立してきたスイマーの視線は、世界トップの泳ぎに触れたことで、さらなる高みへと向けられている。(取材・文=長島 恭子)

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今春、早稲田大学を卒業したパリ五輪・競泳女子200メートル個人メドレー日本代表の松本信歩。4月からはあいおいニッセイ同和損保に入社、広報部に籍を置き、しばらくは競技を軸とした勤務形態となる。

「入社式では他の新入社員の方とともに代表して挨拶をさせていただきました。『社会人としての成長を競技の成長にも繋げていきたい』と話しましたが、社会の一員としての自覚、そして責任感をしっかり持ち、仕事に励んでいきたいです」

同時に社会人アスリートとして今、目指すのは、2028年ロサンゼルス五輪の決勝の舞台。

4月からはあいおいニッセイ同和損保に入社、広報部に籍を置く松本【写真:荒川祐史】

「毎年、国際大会の日本代表に入り、国際大会で自己ベストを出せる選手になる。これらの目標をちゃんとクリアし、最終的にはロスで200メートル個人メドレーの決勝の舞台に立ち、活躍する。これが今の時点での一番大きい目標です」

水泳は5歳で始めた。大学は「水泳にも学業にも打ち込める環境に行きたい」と、一般選抜で早大を受験し進学。インカレでは200メートル個人メドレーで4連覇を果たした。

だが、パリ五輪まではぼんやりと「競技は大学まで」と考えていた。

「子どもの頃から両親に『(水泳だけでなく)勉強もちゃんとやりなさい』と言われてきましたし、私自身、進路を決める際は学業を最優先に考えました。というのも、水泳のタイムがいつまで伸びるかわかりませんし、怪我で競技を続けられなくなる可能性もあります。ましてや、大学卒業後も競技を続けられる選手はかなり少数です。だから将来、何をするにしても、自分が何かやりたいと思った時、その道に行ける準備をしておきたかった」

松本にとって、パリ五輪は競技継続のキッカケとなった【写真:荒川祐史】

スイマーとしての「伸びしろ」はもっとある

そして大学4年の夏、パリ五輪出場を果たす。しかし、本大会では準決勝に進出するも結果は14位。決勝の舞台に進めなかった。

「ずっと日本代表、日本のトップ選手を目指して泳いできましたが、(五輪で)世界のトップ選手たちの隣で泳いだ時、彼らとの間になんと言うか、『おっきな差』があると感じました。

日本国内で誰かに勝つとか、0コンマ何秒、速くなろうとかの目標も大事です。でも、オリンピックを経験し、やっぱりもっと大きな目標に向かって取り組んでいかなければダメなんだと肌で感じ、もっと上を目指して競技を続けていきたいと思うようになりました」

松本が得意とする個人メドレーは、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形の4種目をつないでいく競技。無数にあるレースの駆け引きと、4種目すべてにおいてベストの泳ぎに合わせていくことに魅力を感じているという。

松本は自身の「伸びしろ」はもっとあると語る【写真:荒川祐史】

「4種目の調子をその日のベストに合わせるのはかなり難しく、私自身、これまで一度も4種目が完全に合った泳ぎはできたことがありません。でもそこが、自分の伸びしろはもっとあるはずだと思えるところでもあります」

昔から、水泳はやり切ったらやめてもいい、と考えていた。しかし、「100%出し切った」との思いは、まだない。五輪によって、水泳人生において見たい景色が一変した松本は、自分の持つ可能性を信じ、競技者としての頂きを目指す。

■松本 信歩 / Shiho Matsumoto

2002年4月3日生まれ。東京都出身。5歳で水泳を始める。東京学芸大附竹早中―東京学芸大附高―早稲田大。24年3月に臨んだ国際大会代表選考会、女子200メートル個人メドレーで2分09秒90のタイムで2位となり、派遣標準記録をクリア。24年パリ五輪出場を決め、本大会では女子200メートル個人メドレーで準決勝に進出した。25年4月、あいおいニッセイ同和損保に入社。高校1年から所属していた東京ドームスポーツのプールを拠点に、競技生活を続ける。また、早大在学中に様々な資格取得にも取り組み、現在、行政書士、宅地建物取引士、簿記2級、スペイン語検定5級などを保有する。

長島 恭子 / Kyoko Nagashima