超高額で話題の三田ガーデンヒルズ、引き渡し直後に売り出し続出 “買って住まない”異常な投資ゲームの末路

東京都港区・札の辻歩道橋から見た東京タワー(写真:kawamura_lucy/イメージマート)

(牧野 知弘:オラガ総研代表、不動産事業プロデューサー)

いまや「4億ション」「5億ション」の時代に

 新築マンションの高騰が止まらない。

 2023年に分譲された東京・港区三田の「三田ガーデンヒルズ」は、敷地面積2万5246m2(7636坪)という広大な敷地に建設された総戸数1002戸(分譲住戸952戸)の巨大マンション。

 タワマンではなく地上14階までの5棟のマンションで構成されたマンション群だが、販売価格は坪単価で1300万円台から1400万円台という高額物件として大変な話題を呼んだ。

 例えば専有面積121.51m2(36.75坪)の住戸価格は5階で4億8000万円台、9階で5億2000万円台。以前は「億ション」が高額マンションの代名詞だったが、いまや「4億ション」「5億ション」の時代になったのだ。

 超高額マンションにもかかわらず販売は好調で、多くの富裕層、国内外の投資家などで高倍率となり完売した。建物は今年3月に竣工。すでに引き渡しが始まっている。

 こんな高額のマンションにどんな方々が住むのか興味深いところだが、まだ引渡し直後であるにもかかわらず、マンション中古サイトを覗くと、すでに売却希望の住戸がずらりと並ぶ。

注:価格は千円単位、ネット上の中古サイトより

 80m2台の住戸で売却希望価格は6億5000万円台から7億3000万円台。坪単価に直すと2500万円から3000万円である。わずか2年前に分譲した価格の2倍をつけていることになる。

 100m2台の住戸になると売却希望価格はなんと10億円台から13億円台。坪単価で3000万円から3500万円である。

 この価格はあくまで売主による売却希望価格にすぎないが、今年分譲される予定の都心新築マンションでは坪単価で1000万円台はもはや珍しくなく2000万円台での分譲も予定されているという。不動産マーケットの熱狂ぶりが如実に表れている例といえよう。

期待できる運用益は?

 三田ガーデンヒルズを取得して即転売しているということは、もはやマンションが住むための資産ではないことは明らかで、転売することで価格が倍になる、売却益を狙っていることになる。もはや新築マンションマーケットは完全な投資ゲームの場となっているのは明白だ。

 不動産投資による利益には、売買によって期待される譲渡益(キャピタルゲイン)と物件を賃貸することによって得られる運用益(インカムゲイン)がある。

 物件に投資する投資家はこの2つの利益を考えて投資を行うわけだが、たしかに三田ガーデンヒルズは巨万の譲渡益が得られる最高の投資商品であることが中古サイトを覗くだけで想像できる。

 では仮に、三田ガーデンヒルズを賃貸として運用した場合にはどのくらいの運用益が期待できるのかを考えてみよう。

 同じくネット上の賃貸サイトを覗くと、三田ガーデンヒルズについてはびっくりするくらい多数の賃貸物件が登場する。

出所:中古サイトより得たデータからオラガ総研が試算

 希望賃料は80m2台の物件で月額95万円から130万円、坪単価で4万円から4万5000円、100m2台で150万円から220万円、坪単価に直すと4万5000円から5万5000円になる。

 仮に分譲時の坪単価を80m2台の物件で1300万円、100m2台で1400万円として、現在中古サイトに掲載されている希望賃料で投資利回り換算すると80m2台で3.5から3.6%、100m2台で4.5から4.7%程度だ。

 このマンションを投資商品として考えてみると、運用時に3%台後半から4%後半、売却時には取得時の2倍の価格で売れる。まさに素晴らしい投資商品といえる。

 即転売で倍になるので、運用することなく売却に供しているのが現在の中古サイトの状況。しばらく3%から4%程度の利回りが出るのであれば、しばらく保有する。不動産譲渡の場合は保有期間が5年を超えると譲渡にかかわる税金が安くなるので5年後に売却するまでとりあえず賃貸に出しておこうと考えている人たちだ。

実際はチキンレース状態に

 では、現在売却に出されている部屋を売主の希望価格で購入する人たちはどんな人たちで、どんな思惑でこのマンションを購入することになるのだろうか。

 

 もちろん実需として住みたいという大金持ちの人もいるだろうが、これを投資として買うことを前提にしてみよう。

 売却希望価格で購入し、現在の賃貸サイトで募集されている募集賃料で運用すると考えた場合、投資利回りは80m2台の物件で1.7%から1.9%、100m2台で1.7%から2.0%程度に落ち込んでしまう。10年物国債利回りが1.347%程度(4月25日現在)だから、ほぼ国債並みの利回りしか得られないことになる。

 この程度の運用益しか得られないのであれば、投資としての利益を上げていくには2つの方法しかない。ひとつは今以上に賃料水準を引き上げていくこと。もうひとつが、運用では儲からないので、すぐに転売することだ。

 まず賃料水準を現在サイトに掲載されている賃料以上に値上げする可能性があるかどうかだ。

 ちなみに分譲時の取得であれば実現できる3%後半から4%半ばの利回りを実現しようと思えば、募集賃料を80m2台の物件で月額200万円から260万円、坪単価で8万円程度、100m2台で350万円から480万円、坪単価10万円から12万円で借り手をつけなければ実現できないことになる。

 こんなに高い賃料を支払う借り手は誰だろうか。にわかには思いつかない。現状ではあまり現実的ではない募集賃料にならざるを得ない。

 ならば、今の売主希望価格での買い手は、運用はあまり考えず、即転売するしかない。でもさらなる転売益を稼ぐには、投資利回りが1%半ば以下でも買う人が現れない限り、売買益は期待できないことになる。

 こうした状況は投資理論的にはあきらかに限界値を超えている。それでも「みんなが買うから大丈夫」と思うのだろうか。思うのは自由だが、いつまでも値上がりが続くと思う根拠はもはやとうの昔に崩れ去っているのだ。

 都内マンションマーケットは、三田ガーデンヒルズの例をみるまでもなく、完全なチキンレース状態に陥っている。

 きっかけは何であってもおかしくはない。相場はあるとき突然崩れるものだ。そんな危うい砂上に立っていることを、まだ多くの人が気付いていない。