なぜ最近のトヨタ車は「同じ顔」が増えたのか? プリウス、クラウン、RAV4まで

最近トヨタが力を入れる共通デザインは、ヘッドライトを左右に大きく張り出した「ハンマーヘッド」と呼ばれるスタイルだ。
トヨタの新型車はどれもフロントマスクが似ている—— 。そんな指摘を耳にする機会が増えた。SUVのRAV4やカローラクロス、高級車のクラウン、新型プリウスまで、幅広い車種がまるで同じ顔に見えるというものだ。
最近トヨタが力を入れるこの共通デザインは、ヘッドライトを左右に大きく張り出した「ハンマーヘッド」と呼ばれるスタイルで、シュモクザメの頭を思わせるワイドな顔つきが特徴だ。
なぜトヨタは近年、ラインナップ全体でフロントフェイスを統一し、「同じ顔」に見える戦略を取るようになったのだろうか。
かつては車種ごとに違った「顔」

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現在でこそ似通ったフロントマスクが話題となるトヨタ車だが、少し前までその傾向はなかった。むしろトヨタは車種ごとに顔つきがバラバラという状態こそ、長年同社のらしさでもあった。例えば高級セダンのクラウンと大衆車カローラではフロントグリルの形状も表情も全く異なり、ミニバンやスポーツカーもそれぞれ独自のデザインが与えられていた。
対して、欧米メーカーは古くからブランドを象徴するフロントマスクを持っていた。ドイツ車のBMWが伝統の「キドニーグリル」を全車に纏わせているのが最たる例だ。
トヨタを始め日本メーカーはそうした「顔のアイコン」を作らずにいた。ブランドというよりは豊富な車種ごとの個性を際立たせることを重視してきたのである。
背景には、企業の持つ車種ラインナップの広さがある。トヨタは軽自動車からファミリー向けミニバン、スポーツカー、さらにはレクサスブランドまで、非常に幅広いラインナップを誇るフルラインメーカーだ。各カテゴリごとに顧客層も用途も異なるため、本来であればデザインも多種多様になるのは自然なことだろう。過去記事でも述べたが、トヨタは車種別にエンブレムを設定している。
「キーンルック」導入。統一デザイン戦略の始まり
状況が大きく変わり始めたのは2009年。豊田章男氏が社長に就任した年だ。トヨタは「もっといい車作り」を目指し、新たなデザインフィロソフィを導入した。

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その第一弾となったのが、2012年8月にフルモデルチェンジした欧州向けハッチバック「オーリス」だった。この新デザインは「キーンルック(Keen Look)」と名付けられ、中央のエンブレムを中心にV字型に大きく広がる立体的な造形と、鋭く吊り上がったヘッドライトを組み合わせたスタイリッシュなフロントマスクが特徴となっている。キーンとは「鋭い」、ルックは「視線」を意味し、その名の通り精悍でシャープな表情だ。これまで「大人しく凡庸」と評されがちだったトヨタ車の顔つきが、一転して挑戦的で知的な印象へと生まれ変わったとも言われる。
キーンルック導入の狙いは明確だった。それまで「モノはいいがデザインは平凡」と揶揄されてきたトヨタ車において、ブランドとしての一体感を高めること、すなわちブランド戦略上の差別化である。
実際、トヨタがキーンルックを採用したのはグローバル市場を強く意識した決断で、当時世界一の量産車メーカーの座をかけてフォルクスワーゲンと激戦を繰り広げていた中の一手だった。
キーンルック採用後オーリスは欧州と日本で累計販売台数が約146万台という大ヒットを記録し、以後プリウス、エスティマ、マークX、SUVのC-HR、そしてカローラシリーズなど、次々とモデルチェンジや新型車のタイミングでキーンルック顔へと切り替わっていった。これにより2010年代半ばには、トヨタ車の多くが共通するフロントマスクのモチーフを持つようになったのだ。
「ハンマーヘッド」へ。新世代デザイン言語の進化

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キーンルック導入から約10年—— 。トヨタは再びフロントフェイスのデザイン言語を刷新しようとしている。その新しいキーワードが冒頭で述べた「ハンマーヘッド」だ。
この名称は、シュモクザメ(Hammerhead Shark)の頭部形状に由来する。水平に広がった薄型のヘッドライトと、開口部の少ない一体型バンパー構成が特徴で、従来のV字型グリルを用いたキーンルックとは明確に異なる表情を生み出している。
最初にこのデザインが採用されたのは、トヨタが先進性を訴求したいモデル群だった。2021年に公開されたbZ4Xに始まり、2022年には5代目プリウスやクラウンシリーズの刷新モデルにも導入された。以後、RAV4の次期モデル(2025年)や、カローラクロスの改良型、クラウンエステートなど、SUVやワゴンにも拡大しており、カテゴリーを超えて展開が進んでいる。
これらのハンマーヘッドデザインは、トヨタの次の10年を見据えたデザイン基盤だ。重要なのは、これは2020年ごろのコロナ禍による販売不振による応急処置ではなく、「鮮度を保つための計画的なデザイン更新」だという点だ。