心の底では、損をするのがわかってるのに…株式投資初心者が「損切りに踏み切れない」トホホな理由
(※写真はイメージです/PIXTA)
株式投資にチャレンジする人が増えていますが、その一方で、なかなか成果が出せずに退場してしまう人も後を絶ちません。投資初心者が成果を出しにくい理由のひとつに、そもそも人間に備わっている「脳の錯覚」の影響があるといわれています。なぜそのようなことが起きるのか、また、どのように対応すればいいのか、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
人間の目は錯覚するが、実は脳も錯覚する
「目の錯覚」は有名ですね。同じサイズのパンを大きな皿と小さな皿に載せて並べると「あれっ、パンの大きさが違って見える…!」となる、あれです。実は、目と同じように脳も錯覚するのをご存じですか?
錯覚は別に恥ずかしいことではありません。人類の進化の過程において錯覚する方が生き残りやすかったということですから、むしろ、錯覚する人は進化しているのです(笑)。
とはいえ、それが投資活動で非合理的な選択を招いてしまうとなると、嬉しくありませんね。
「非常に小さい確率」を実際より大きく感じてしまう
脳の錯覚にはいろいろありますが、投資との関係で重要なものに「非常に小さい確率は実際より大きく感じる」があります。飛行機に乗るのが怖かったり、宝くじが当たりそうな気がしたりするのはこの錯覚のせいなのですが、おそらく「株価が暴落するかもしれないから株式投資は怖い」という意識もここから来ているのでしょう。
実際には、数多くの銘柄を持っていれば、上がる株も下がる株もあるでしょうし、毎月少しずつ買えば、高いときも安いときも買うことになりますから、「大損したまま戻らない」という可能性は非常に小さいのだと思いますが、その可能性を恐れて投資せずにいる人も多いようです。
[図表1]小さな確率は実際に起こる確率より大きく感じる
儲かったときの喜びより、損したときの悲しみのほうが大きい
本稿の関心事項である「損切り」との関係でいえば、「人間は、儲かったときの喜びより、損したときの悲しみのほうが大きい」「損得が2倍になっても嬉しさや悲しさは2倍にはならない」という感覚も、錯覚が影響しているようです。
損切りとは、「買ったときと比べて企業の将来性の見通しが暗くなったので、買ったときの値段より安い値段であっても株を売るべきだ」という判断です。値上がりしそうもない株をいつまでも持っているより、値上がりしそうな別の株を買うほうが合理的ですから。
しかし実際には、株価が買った値段より安くなると、「いま売ったら損が確定してしまう。損をするのは嫌だから、このまま持っていて株価が戻るのを待とう」と考えて「塩漬け」にする投資初心者が多いのでしょう。
実際、株価が暴落前の水準まで戻ると売り注文が増える、といわれています。売っても損失が出なくなり、「やれやれ」と安堵して売り注文を出している投資初心者の顔が目に浮かぶようですね(笑)。
もうひとつ、「持ち続けて損失が2倍になっても、悲しさが2倍になるわけではない」というのも投資初心者に損切りを躊躇させる要因なのでしょう。
余談ですが、投資初心者は利食い(利益確定の売り)が早すぎる、ともいわれています。これも、下のグラフから説明できそうです。「このまま持っていて利益が2倍になっても嬉しさが2倍になるわけではないなら、利益がなくなる可能性を消すために早く売ろう」というわけですね。
[図表2]利益より損失を大きく感じる
支払ったお金は戻らない…「サンクコスト」という考え方の重要性
合理的に考えれば、株を買ったときの値段など忘れて「この株は値上がりしそうか値下がりしそうか」だけを考えるべきなのです。買ったときに支払った代金は「サンクコスト」なので、株を売っても売らなくても戻って来ません。それなら、買ったときの値段の話は忘れて「未来志向で金持ちになるための選択肢を考えよう」というのが合理的なのです。ちなみにサンクコストは「サンキュー」のサンクではなく、「沈んでしまった」という意味の英単語です。
買ったときの値段を覚えていて、合理的でない選択をしてしまうリスクを減らすためには「毎朝持っている株を全部売って、新たに株を買う」という方法が有効でしょう。もっとも、実際に売買すると手数料がかかりますから、「全部売ったつもりになって、なにを買うかを考える」ということですね。
余談ですが、サンクコストという考え方は実に重要で、さまざまな場面で使えます。買った本を読み始めたらつまらなかったとき、「買ったお金がもったいない」といって最後まで読む人がいますが、買ったお金と読んだ時間の両方が無駄になるはずです。「買ったお金のことは忘れて、この本を読むのと散歩に行くのとどちらが人生を幸せにするかを考えよう」というわけですね。
「こんな株を買ってしまった愚かな私」を認めたくない?
じつは、投資初心者が損切りが下手な理由のひとつとして、「こんな株を買ってしまった自分は愚かだった」と思いたくないから、値下がりした株が再び値上がりして自分の選択が正しかったと思えるようになるチャンスに賭けている、ということもあるのかもしれません。
そうだとすれば、自分に見栄を張るために正しくない投資行動をとっているわけで、合理的な判断とはいいがたいですね。他人に愚かだと思われたくないので無理をする、という人は、ある意味で合理的なのかもしれませんが、自分に見栄を張る理由は自分に対しても説明ができないでしょう(笑)。
本稿は以上ですが、投資判断等は自己責任でお願いします。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密でない場合があります。
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塚崎 公義
経済評論家