30年で半減! なぜガソリンスタンドは「セルフ化」しても廃業し続けるのか?

ガソリン供給の地域格差

 2024年度末時点で全国のガソリンスタンド数は2万7009店となった。ピークだった1994(平成6)年度末の6万421店から半分以下に減少したのだ。「セルフ化」は人件費削減による経営改善の切り札と期待された。しかし、閉鎖は止まらなかった。表面的に需要減少だけで片付けるのではなく、制度、投資、市場構造、地域インフラの視点から分析する必要がある。フルサービスに比べ効率的な運営が可能なため、セルフスタンドの数は増加し、全体に占める普及率は約40%となっている。

【画像】「こんなに減ってるの?」 これが給油所の「現状」です! 画像で見る(6枚)

 セルフ化には、

・給油許可装置

・防犯カメラ

・遠隔監視システム

など新たな設備導入が不可欠で、初期投資額は数千万円に達する。中小規模の独立系スタンドにとっては過大な負担だ。金融機関の融資も通りにくい。結果として、大手系列はセルフ化を拡大できたが、資金力の乏しい独立系は

・セルフ化すらできず廃業するか

・投資負担に耐えきれず閉鎖するか

という二重の苦境に陥った。この格差が地域ごとの燃料供給インフラの脆弱化を生み、都市部と地方で供給力の差が広がった。金融環境や投資条件が、地域ごとのモビリティ供給に直接影響しているのだ。

 セルフスタンドは人件費を抑えられるぶん、価格を下げやすい。しかし同一エリアに大規模チェーンが進出すると、地域市場は瞬時に価格競争に傾く。ガソリン1Lあたりのマージンは数円に過ぎず、月数十万L規模で販売しても固定費を吸収できない店舗が続出する。

 経済産業省のデータでは、揮発油販売業者数は2024年度末に1万2113社となり、前年比294社減と淘汰が進んでいる。経済視点から見れば、価格競争の激化は

・地域内物流

・配送効率

にも影響する。特に地方では配送コストが高く、競争圧力が直接、事業存続を左右している。

規制負担で広がる格差

ガソリン供給の地域格差, 規制負担で広がる格差, 地域燃料網の再編戦略, 次世代インフラの成長軸

セルフスタンド(画像:写真AC)

 燃費性能の向上は顕著だ。

 1990年代に比べ、乗用車の平均燃費は大幅に改善され、同じ距離を走るのに必要なガソリン量は減少した。加えて

・ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)の普及

・若年層の車保有率低下

・人口減少

などが重なり、販売量そのものが縮小している。これが示すのは、ガソリンスタンド業界が店舗過多の問題にとどまらず、

「モビリティ市場全体の規模が恒常的に縮小している点」

である。

 KINTOの「2025年版 Z世代のクルマに対する意識比較調査」によると、都内在住のZ世代(18~25歳)では29.1%が「とても感じる」、43.7%が「やや感じる」と回答し、地方在住では18.7%が「とても感じる」、28.0%が「やや感じる」と答えた。都内・地方とも前年から大幅に増加しており、若者のクルマ離れが急速に進行していることが浮き彫りとなった。背景にはクルマの購入価格や維持費の高さに加え、最近の物価上昇やガソリン代高騰などの経済的要因があると推察される。

 ガソリンスタンドも従来型の延命策では根本的な解決にならず、消費者行動や車両構成の変化を見据えた戦略的経営が不可欠となる。

 消防法改正により、地下タンクの防食二重構造化が義務化された(2011年)。更新には数千万円単位の費用がかかる。期限を迎えた時点で閉鎖を選ぶ事業者も相次いだ。セルフ化への投資と地下タンク更新費用が重なることで、撤退が合理的判断となるケースが多い。モビリティ経済の視点では、規制対応コストは事業者間の格差を拡大させ、地域ごとの燃料供給網の安定性に直結する重要要素である。

地域燃料網の再編戦略

ガソリン供給の地域格差, 規制負担で広がる格差, 地域燃料網の再編戦略, 次世代インフラの成長軸

セルフスタンド(画像:写真AC)

 政府は物価対策として石油元売りに補助金を支給し、小売マージンの改善につなげた。2024年度は廃止店舗が444店となり、前年度より約150店減少した。しかし補助金は恒久策ではなく、地域によって供給網は依然として弱体化している。

 特に過疎地域では給油過疎地が拡大し、農業用機械や配送事業者に影響を及ぼしている。モビリティ経済の視点では、政策補助の一時的効果だけでは市場の地域間格差を解消できず、長期的には地域インフラの再編が不可避だ。

 従来型の給油モデルに依存する限り、閉鎖は続く。複合サービス化は有効策だ。コンビニや整備工場、EV充電器、カーシェア拠点と併設することで、燃料依存から収益源を分散できる。都市部ではEVやHVの充電需要が増加しており、電力収入による補完的収益モデルも見込める。

 共同経営や統合モデルも打開策となる。複数事業者が共同で燃料供給会社を設立すれば、スケールメリットを確保できる。配送効率化や仕入れ単価の低減につながる。地域ネットワークの統合は、モビリティ供給の安定性確保と資本効率向上の両立策になる。

 次世代燃料や充電インフラへの対応も不可欠だ。水素ステーションや急速充電器の導入はコストが高いが、政府補助を活用すれば地域のエネルギー拠点として存続可能である。ガソリン販売から地域EV・水素ハブへの転換は、地方モビリティ経済の成長点となる。

 さらにデジタル管理による効率化も効果的だ。在庫や配送をIoTで管理すれば配送コストを削減できる。すでに一部元売りでは少量配送の無駄を削減しており、データドリブンで配送・在庫を最適化すれば、地域規模に応じた供給効率を最大化できる。

次世代インフラの成長軸

ガソリン供給の地域格差, 規制負担で広がる格差, 地域燃料網の再編戦略, 次世代インフラの成長軸

セルフスタンド(画像:写真AC)

 セルフ化は人件費を減らす手段として一定の効果を示した。しかし、ガソリン需要の縮小や設備投資の負担、規制強化による追加コストといった構造的な課題には対応できなかった。今後ガソリンスタンドが生き残るには、燃料販売にとどまらず、地域インフラを担う役割への転換が不可欠となる。

 全国でスタンド数が減少する一方、地域に根ざし事業を多角化した事業者は収益を維持している。閉鎖の進行は淘汰ではなく再編と捉えるべきであり、事業者、行政、利用者が一体となった新しい供給モデルの確立が急務である。

 燃料販売の縮小は単なる店舗数の減少にとどまらない。資金循環や雇用構造、さらには地方における物流効率にまで影響を及ぼす。特に地方では配送や燃料在庫の最適化が物流コストに直結するため、小規模スタンドの閉鎖は農業、輸送、災害時の緊急対応に深刻な影響を与える可能性がある。

 さらに、EVや水素インフラへの投資は電力供給にとどまらず、地域の移動システム全体を支える基盤投資でもある。長期的には地域内での消費循環を強化し、雇用を創出し、交通効率を高める効果が見込まれる。したがって、ガソリンスタンドの再編や複合化、次世代インフラへの対応は、単なる延命策ではなく、地域経済を最適化するための戦略的な投資と評価できる。