資生堂【4911】株価5年で65%下落、8ブランドへ集中投資 痛みと引き換えの構造改革は成功するか

下落トレンド続く、株価はコロナショック以下, 創業150年の老舗、売上は世界8位 中国・免税店が主力, 「選択と集中」投資は8ブランドに集約 コスト削減3年で650億円, 改革は痛みの時期 今期1~3月苦戦も追加施策で巻き返し目指す

資生堂【4911】株価5年で65%下落、8ブランドへ集中投資 痛みと引き換えの構造改革は成功するか

下落トレンド続く、株価はコロナショック以下

資生堂は株価の下落トレンドが続いています。2018年6月には上場来高値9250円をつけたものの、20年ごろから値下がりの傾向が強まりました。株価は現在でもコロナショックの水準を大幅に割り込んでおり、5年間の下落率は65.5%にも達します。

【資生堂の株価チャート(過去5年間)】

・株価:2441.5円(2025年6月19日終値)

下落トレンド続く、株価はコロナショック以下, 創業150年の老舗、売上は世界8位 中国・免税店が主力, 「選択と集中」投資は8ブランドに集約 コスト削減3年で650億円, 改革は痛みの時期 今期1~3月苦戦も追加施策で巻き返し目指す

出所:Tradingview

資生堂は市場評価(PBR基準)の観点から「JPXプライム150指数」に選ばれています。しかし、現在は市場から厳しい評価を受けているようです。同社は業績の回復が遅れており、投資家は見通しを懸念していると考えられます。

資生堂の株価は今後どう推移するのでしょうか。同社が進める構造改革と業績から探ります。

創業150年の老舗、売上は世界8位 中国・免税店が主力

資生堂は大手の化粧品メーカーです。1872年に調剤薬局として創業し、1897年に化粧水の「オイデルミン」で化粧品へ進出しました。主力ブランドは高価格帯の「シセイドウ」や「クレ・ド・ポー ボーテ」、中価格帯の「エリクシール」や「アネッサ」などです。世界的な化粧品メーカーであり、売り上げはアジア発企業として首位、世界でも8位となっています(2023年)。

主要市場は中国です。売り上げはコロナ前より大きく、21年12月期~23年12月期は日本を上回っていました。日本は事業売却を進めてきた影響もあり、売り上げはコロナ前より低水準です。なお、中国は停滞感もあり、足元の売り上げは日本と同程度となっています。

下落トレンド続く、株価はコロナショック以下, 創業150年の老舗、売上は世界8位 中国・免税店が主力, 「選択と集中」投資は8ブランドに集約 コスト削減3年で650億円, 改革は痛みの時期 今期1~3月苦戦も追加施策で巻き返し目指す

出所:資生堂 有価証券報告書

利益でも中国の貢献は大きくなっています。セグメント別の利益は、中国および免税店での販売を担う「中国・トラベルリテール事業」が最大です。中国事業と免税店事業は別のセグメントでしたが、25年3月の組織体制の変更に伴い統合されました。セグメント利益は次いで「日本事業」が大きく、これら以外の利益は低調です。

【セグメント情報(2024年12月期)】

下落トレンド続く、株価はコロナショック以下, 創業150年の老舗、売上は世界8位 中国・免税店が主力, 「選択と集中」投資は8ブランドに集約 コスト削減3年で650億円, 改革は痛みの時期 今期1~3月苦戦も追加施策で巻き返し目指す

※2025年3月のセグメント変更後(コア営業利益は暫定値)

※コア営業利益…営業利益から構造改革に伴う費用・減損損失・買収関連費用等、非経常的な要因により発生した損益を控除したもの

出所:資生堂 決算資料

「選択と集中」投資は8ブランドに集約 コスト削減3年で650億円

資生堂は現在、構造改革に取り組んでいます。契機となったのは新型コロナウイルスです。化粧品は影響を比較的強く受けた業界で、資生堂も利益を大きく減らしました。これを契機に、高収益企業への進化を目指しています。

構造改革で、まず取り組んだのが事業ポートフォリオの変革です。21年に「ベアミネラル」など高価格帯3ブランドを手放したほか、「ツバキ」などの日用品部門の売却や、「ドルチェ&ガッバーナ」のライセンス契約の解消にも着手しました。また、22年にはヘアサロンといった業務用のプロフェッショナル部門も売却しています。

事業の整理を進める一方で、付加価値の高い注力8ブランドには投資を集中します。マーケティング投資を26年12月期までの2年間で300億円増やし、成長を加速させます。マーケティング投資全体に占める注力8ブランドの比率は、26年12月期に8割を超える計画です。

【資生堂の注力8ブランド】

<コア3>

・シセイドウ

・クレ・ド・ポー ボーテ

・ナーズ

<ネクスト5>

・アネッサ

・ナルシソ ロドリゲス

・イッセイ ミヤケ

・エリクシール

・ドランク エレファント

出所:資生堂 中期経営計画

ブランドの選択と集中を進めつつ、グローバルでコスト削減にも取り組みます。24年12月期には200億円のコスト削減効果が発現しました。コスト削減の対象範囲をさらに拡大させ、25年12月期には同200億円、26年12月期には同250億円の効果創出を目指します。

改革は痛みの時期 今期1~3月苦戦も追加施策で巻き返し目指す

業績の推移を振り返りましょう。

コロナ前は好調でした。中核の高価格帯化粧品が拡大したほか、16年にライセンス契約を取得した「ドルチェ&ガッバーナ」も貢献します。この傾向は19年12月期まで続き、業績は過去最高を更新しました。20年12月期は、先述のとおりコロナ禍で急減したものの、21年12月期は日用品部門の売却益を主因に営業利益は1000億円を回復します。

しかし、以降は構造改革費やブランド売却に伴う損失が重く、営業利益は減少が続きました。24年12月期は、引当金128億円を積んだ影響もあり、純利益は4期ぶりの赤字に転落します。引当金は、21年に売却した3ブランドの代金が回収できない可能性を反映したものです。

一時的な要因を除くコア営業利益でも、回復の遅れが見られます。構造改革効果などから22年12月期は513億円を計上しますが、以降は2期連続で減益です。処理水放出による日本製品買い控えの影響から中国・トラベルリテールで売り上げが減少したほか、米州での「ドランク エレファント」の苦戦が逆風でした。

下落トレンド続く、株価はコロナショック以下, 創業150年の老舗、売上は世界8位 中国・免税店が主力, 「選択と集中」投資は8ブランドに集約 コスト削減3年で650億円, 改革は痛みの時期 今期1~3月苦戦も追加施策で巻き返し目指す

出所:資生堂 決算短信より著者作成

今期(25年12月期)は、おおむね横ばいの見通しです。売り上げは米州で成長する一方で、主力の中国・トラベルリテールが苦戦する想定であり、全体では前期並みを見込みます。コア営業利益は、値上げや構造改革効果が押し上げる一方で、増加するマーケティング費用で相殺され、同じく前期並みにとどまる予想です。

【資生堂の業績予想(2025年12月期)】

・売上高:9950億円(+0.4%)

・コア営業利益:365億円(+0.4%)

・営業利益:135億円(+78.2%)

・純利益:60億円(前期は108億円の赤字)

※()は前期比

※同第1四半期時点における同社の予想

出所:資生堂 決算短信

今期は第1四半期まで決算が公表されています。前年同四半期比で売上高は8.5%減、コア営業利益は27.2%減と、低調な滑り出しとなりました。想定どおり、中国・トラベルリテールが苦戦し、減収減益の主因となっています。さらに、成長を見込んだ米州も「ドランク エレファント」を中心に大幅減収で赤字となっており、先行きが懸念されます。

なお、上記の見通しはトランプ関税の公表前に発表されたものです。第1四半期の決算では関税影響について言及しており、コア営業利益ベースで最大70億円の下押しになると公表しました。

もっとも、資生堂は見通しを維持しています。上期は前年同期比で減収の見込みながら、下期は同2ケタ増収の計画です。資生堂は、中国のダブルイレブン(大型ECセール)や欧州のホリデーなどの影響から、売り上げは下期に偏重すると説明します。さらに全地域横断でコスト管理を徹底するほか、米州を中心に構造改革を上乗せで実施し、計画の達成を目指します。

文/若山卓也(わかやまFPサービス)

若山 卓也/金融ライター/証券外務員1種

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。