「技術の日産」は蘇るか? 7500億円赤字とEVシフトの遅れ…鴻海と禁断の蜜月? シャープの二の舞避けられるか

鴻海提携打診の現実味

 日産自動車は2025年4月24日、2025年3月期の業績予想を下方修正した。売上高は12兆6000億円、営業利益は850億円を見込む。一方で、競争環境の変化や販売不振の影響により、純損失は最大7500億円に達する見通しだ。

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 従来予想していた純利益800億円から、大幅なマイナス転換となる。今回の修正には、5000億円を超える減損損失や600億円超の構造改革費用が含まれる。赤字額はリーマン・ショックのあった2009年3月期(2337億円)の約3倍に膨らんだ。この発表を受け、当日の日産株は乱高下。終値は331円だった。

 日産はこれまで経営再建策の迷走を繰り返してきた。電動車への移行でも他社に後れを取っている。そうしたなか、台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)が日産に対し資本提携を打診している。

 かつて鴻海は、シャープ買収で家電業界に衝撃を与えた。今回も再び市場に激震を走らせるのか。それとも、鴻海・日産・シャープによる新たな製造連合の誕生につながるのか。経営悪化が深まる日産を巡り、両社の動きに注目が集まっている。

 本稿では、現実味を帯びつつある日産と鴻海の経営統合の行方を検証する。また、傘下のシャープを巻き込んだ次世代コンソーシアム形成の可能性を探る。

赤字7500億円の真因

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新型日産リーフ(画像:日産自動車)

 日産の巨額赤字は、複数の構造的な問題が同時に噴き出した結果だ。電気自動車(EV)シフトの遅れに加え、過剰投資とのバランスが崩れたことが要因となっている。

 日産は2010(平成22)年、世界初の量産型EV「リーフ」を発売した。2025年3月時点での世界累計販売台数は39万台を超える。ただし近年は競争が激化し、販売は減少傾向にある。開発投資も頭打ちとなっている。

 特に中国市場では失速が目立つ。2024年の販売台数は前年比18.6%減の約65万台。

・テスラ

・BYD

・NIO

といった新興勢に対し、価格・性能の両面で劣勢を強いられている。

 生産面でも影響は大きい。2024年の中国生産台数は前年比17.7%減の約61万台に落ち込んだ。東風汽車と共同出資する武漢工場は、2025年度中に生産終了を予定する。稼働開始は2022年だったが、わずか3年での撤退となる。同工場ではエクストレイルやアリアを生産していた。

 また、提携先のルノーとのアライアンス依存にも限界が見え始めている。共通化によるコスト削減は、日産のモデルに独自性の欠如をもたらし、ブランド価値を損なう副作用を生んだ。工場の固定費負担も重い。最近の工場稼働率は、中国で10%未満。他地域でも70%にとどまっており、損益分岐点を下回る状況が続いているとみられる。

鴻海との統合論の背景

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鴻海のEVコンセプトモデル(画像:鴻海精密工業)

 こうした厳しい経営環境のなか、日産に手を差し伸べたのが鴻海だ。鴻海は2019年にEV分野への参入を決断し、2020年には自社開発のMIHプラットフォームを発表した。その後、台湾の裕隆汽車との協業やEVの受託生産を進めてきた。

 ただし、自社ブランドによる販売やブランド戦略では課題が残る。完成車メーカーとしての地位をまだ確立できていないのが現状だ。

 一方で、鴻海の自己資本は約6兆円に達する。日産にとっては、その潤沢な資金力が大きな魅力となる。さらに、約2000社とされる巨大なサプライチェーンや、EV関連の先端量産技術を取り込むことで、EVシフトの遅れを挽回できる可能性がある。

 両社が資本・生産・開発の各分野で連携を深めれば、世界のEV市場でスケールメリットを活かした新たな競争力を創出できる余地もある。

シャープの歩みと重なる影

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シャープのEVコンセプトモデル「LDK+」(画像:シャープ)

 しかし、日産にとって鴻海への期待と同時に、不安も募る。現在、シャープは鴻海傘下にある。業務提携は2012(平成24)年に始まり、2016年3月には鴻海が第三者割当増資を3888億円で引き受け、議決権66%を保有する筆頭株主となった。

 資本注入後、シャープの収益は一時的に改善し、2018年3月期には4年ぶりに通期黒字を回復した。しかしその過程で、白物家電部門を中国・美的集団に売却。数千人規模の人員削減も行われた。伝統的な事業構造や雇用体系は大きく変質した。

 とりわけ、「世界の亀山モデル」で知られた液晶パネル事業はコモディティ化が進行。シャープのブランド力は大幅に低下した。2023年3月期には再び200億円の最終赤字に転落している。

 日産も、鴻海主導で開発や生産のプロセスが合理化されれば、「技術の日産」としてのブランドイメージが希薄化する懸念がある。加えて、企業文化の違いによる内部摩擦も避けられない可能性がある。

統合が生み出す可能性と限界

 両社の経営統合は、大きな可能性を秘めている。日産が保有するe-POWERや全固体電池などの技術資産を、鴻海の設計力とコスト管理力で量産体制に落とし込めば、EV普及フェーズでの競争力を確保できる可能性がある。

 特に、鴻海がiPhone生産で培ったリードタイム短縮技術を応用すれば、モデルのライフサイクルを圧縮できる。結果として、市場変化への即応体制を構築できる。

 一方で、EV市場が成熟・飽和すれば、日産ブランドの差別化が難しくなり、単なる低価格メーカーとして埋没するリスクもある。ブランド価値とコスト競争力のトレードオフをどう制御するかが課題となる。

 日産は、開発スピードの向上を迫られる一方で、自主性の喪失も避けがたい。両立が難しいこの構図に、どう折り合いをつけるかが今後の焦点となる。

鴻海・日産・シャープ連合が描く未来

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イヴァン・エスピノーサ氏(画像:日産自動車)

 三社連合が有機的に機能すれば、

・日産の「販売網」

・シャープの「エレクトロニクス技術」

・鴻海の「大規模生産力」

を統合した、日本発のEVコンソーシアムが成立する可能性がある。

 この枠組みは、テスラやBYDとは異なるビジネスモデルを提示しうる。特に法人向けフリート市場や、東南アジア・中南米といった低価格帯市場で競争優位を築ける可能性がある。

 一方で、リスクも小さくない。日産が技術主導権を失えば、市場での存在感は曖昧になる。鴻海主導の合理化が過度に進行すれば、日産ブランドは中身のない看板と化す恐れもある。

 単なる効率化ではなく、三社連携によって新たな付加価値を創出できるか。それが成否を分ける最大のポイントとなる。

シャープ再生の教訓とリスク

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米国日産の新型ラインアップ。ティーザーイメージ(画像:日産自動車)

 7500億円という巨額赤字を抱えた日産に突きつけられているのは、単なる経営再建ではない。「日産は何のために存在するのか」という、存在意義そのものの再定義である。

 鴻海との経営統合は、たしかに再建の切り札となりうる。一方で、日産が自らのアイデンティティを再構築できなければ、鴻海傘下に入ったシャープと同じ道をたどるリスクもある。シャープの事例は、資本注入と合理化だけではブランドも市場も守れないという教訓を示している。

 日産が再び輝くには、「技術の日産」を超える新たな存在意義を示すことが不可欠だ。鴻海との統合を通じて、シャープの轍をどう回避するか。日産の未来は、まだ自らの選択によって決まる段階にある。まさに今、その岐路に立っている。