「投資の神様」がなぜか日本株を買い控えた"不吉"

過去最高を記録した外国人投資家の持株比率, 外国人投資家の日本株買いのパターン, 外国人投資家の売買動向に影響を与えるバフェット氏, 外国人投資家のインセンティブが低下する日本株, トヨタ自動車ですらS&P500銘柄の時価総額は24位

外国人投資家の売買動向に影響を与える要因の1つとして、ウォーレン・バフェット氏の動向がある(写真:Graphs・PIXTA)

トランプ政権の関税強化や貿易摩擦の激化の影響から、世界成長率予測が2.8%に下方修正されるなど、経済の先行きが日増しに不透明感を増すなか、みずほ証券エクイティ調査部チーフ株式ストラテジストである菊地正俊氏は、外国人投資家の売買動向に影響を与える要因の1つとして、ウォーレン・バフェット氏の動向を挙げます。
そこで本稿では、「投資の神様」とも称される同氏の影響力の大きさと、投資対象企業に求める条件について、菊地氏の著書『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』から、一部を抜粋・編集する形で解説します。

過去最高を記録した外国人投資家の持株比率

東証が年に1度発表する「株式分布状況調査」の2023年度版によると、外国人投資家の保有比率(時価ベース)は、これまでのピークだった2015年3月末の31.7%を抜いて、2024年3月末に31.8%と、9年ぶりに最高を更新しました。

【グラフで見る】9年ぶりに最高を更新した外国人投資家の保有比率(時価ベース)

個人投資家の保有比率は前年度末の17.6%から16.9%に低下しました。株式持合の解消が進むなか、事業法人の保有比率は前年度末の19.6%から19.3%に低下、事業会社は2023年度に自社株買いの市場内取引で4.5兆円買い越しましたが、それ以上の持合解消売りが出たということでしょう。

都銀・地銀の保有比率も2.3%から2.1%と低下し、ともに過去最低になりました。生保の保有比率は3年連続で3.0%、損保の保有比率は4年連続で0.9%と過去最低が続きました。

一方、議決権行使に影響を与えるのは時価ベースではなく、株数ベースの保有比率です。

外国人投資家の保有比率(株数ベース)は2023年3月末25.6%→2024年3月末27.2%と高まりましたが、過去最高だった2015年3月末の28.0%にはまだ届きませんでした。

個人投資家は中小型株の売買が多いので、株数ベースの保有比率は時価ベースほど下がらず、22.7%→22.6%と微減にとどまりました。事業法人の保有比率は21.7%と、2006年3月末以来の低水準になりました。

都銀・地銀の保有比率は1.9%、損保の保有比率は0.7%とともに過去最低になりましたが、生保の保有比率は2.6%と、2006年3月末以来の低水準でした(図表1-1参照)。

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(出所:『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』より)

※外部配信先では図表を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください

外国人投資家の日本株買いのパターン

2024年の外国人投資家の日本株買い越し額(現物)は約1500億円にとどまりました。外国人投資家の日本株買いの年間買い越し額のピークは、アベノミクスが始まった年である2013年の15兆円でした。

当時、アベノミクスで日本経済や日本企業の経営が大きく変わるとの期待が高まりました。しかし、アベノミクスは期待ほどの効果が出なかったため、安倍政権下においても2015年をピークに、外国人投資家の日本株買いは大きく減少しました。

安倍政権で外国人投資家の日本株買い越し額は「行って来い」になり、累計約2兆円にとどまりました。政権別で外国人投資家の日本株買い越し額が最も大きかったのは、構造改革策が評価された2001~2006年の小泉純一郎政権時の約31兆円でした。

外国人投資家の日本株買いには強い季節性があります。最も買い越し額が大きいのは4月で、過去20年間に売り越したのはコロナ禍が始まった2020年4月だけでした。

外国人投資家が4月に日本株を買い越す傾向があるのは、1~3月に米国株が上昇することが多く、出遅れの日本株に対して注目度が高まるためと考えられます。

逆に、外国人投資家の売り越し額が多いのは9月です。

9月は2008年にリーマンショックが起きるなど、米国株が12カ月のうちでパフォーマンスが悪い月なので、米国株が下落すると、外国人投資家は日本株を売り越す傾向があります(図表1-2参照)。

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(出所:『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』より)

外国人投資家の売買動向に影響を与えるバフェット氏

2023年4月にバークシャー・ハサウェイ社の「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏が来日し、大手商社5社の保有比率を各社7.4%に引き上げたと語ったことで、大手商社株は揃って上昇しました。

バフェット氏がこのときに面談したことが明らかになっている企業経営者は、伊藤忠商事の岡藤正広会長CEOだけでした。

バフェット氏は「日本が米国以外の最大の投資先だ」と述べました。大手商社5社は合計でバークシャー・ハサウェイの株式ポートフォリオの5%弱を占めました。

バフェット氏は「日本株で現状保有しているのは商社株だけだ。考えている会社は常に数社あるが問題は価格だ。もし商社株が2倍だったら、我々は投資しなかっただろう」、「他の日本企業への投資は10年後、20年後とうまく続いていくようなビジネスや人を求めている。明らかに私の理解を超えるものでない限り、日本のあらゆる大企業に目を向ける」と語りました。

当時のバークシャーの株式ポートフォリオのトップ3保有銘柄はアップル、バンクオブアメリカ、シェブロンでした。化石燃料株への投資拡大への批判に対して、バフェット氏は、世界経済はまだ石油を必要としており、石油会社は持続可能な未来の観点から様々な努力をしていると擁護しました。

バフェット氏による日本株買い増しが明らかになった後、2023年4~6月に外国人投資家は約6兆円の日本株を買い越したので、バフェット氏の日本株投資は、他の外国人投資家の追随買いを誘ったといえます。

バークシャー・ハサウェイ社は米国では時価総額1兆円未満の企業にも投資していますが、外国株に投資するなら、時価総額1兆円以上は必要でしょう。そうすると、日本株で投資対象になるのは2024年末時点で180社弱しかありません。

バフェット氏は投資対象企業に①事業のわかりやすさ、②株価の割安さ、③立派な経営者がいること、④継続的なキャッシュフロー創出と株主還元などを求めます。

大手商社は外国人投資家からビジネスモデルがわかりにくいと言われたこともありましたが、バークシャー・ハサウェイ社と同じコングロマリットなので、似ていると思ったようです。

外国人投資家のインセンティブが低下する日本株

バークシャー・ハサウェイ社が2020年8月に日本の商社5社に大量保有報告書を出したときに、インフレ期待の高まりがあったように、バフェット氏のマクロ経済観も銘柄選択に影響します。

バークシャー・ハサウェイ社の株式ポートフォリオは情報テクノロジー、金融、エネルギー、生活必需品などの業種が多くなっています。バフェット氏が日本は緩やかなインフレ局面に入り、植田和男日銀総裁の下で金融政策が正常化する予想を持つならば、日本の大手銀行株に投資してもおかしくないと思いました。

また、Activision Blizzardのようなゲーム株に投資したこともあるので、日本で任天堂などのゲーム株に長期投資してくれるかもしれないと思いました。日立製作所のように、優れた経営者がいて、事業ポートフォリオの見直しや株主還元に積極的な企業も投資の検討対象になると考えました。

しかし、バークシャー・ハサウェイは大手商社以外の日本株に投資しませんでした。2024年秋には、アップルやバンクオブアメリカ株などを大量に売却して、現預金・同等物を3250億ドル(約49兆円)に積み上げ、そのほとんどを短期国債で運用していることが話題になりました。

2024年11月11日のウォールストリート・ジャーナルは"Does Warren Buffett Know Something That We Don't?"(ウォーレン・バフェット氏は我々が知らない何かを知っているのか?)との記事で、ウォーレン・バフェット氏は石油危機が起こる前の1969年や、2008年のリーマンショック前に弱気になった実績があるので、近い将来に不吉なことが起きる可能性があるかもしれないと指摘しました。

東証の海外投資家地域別株券月間売買状況によると、北米投資家は2024年9月まで4カ月連続で売り越しになりました。

米国投資家は外国投資家のなかで日本株保有額が断トツに大きいイメージですが、東証の統計では、日本株の売買シェアが約7%しかなく、逆に欧州投資家が7割超を占めています。これは米国系大手運用会社が、外国株への投資はロンドンオフィスから注文を出すことが多いために起きる現象だと思われます。

我々がフォローしている米国の15本の主要ミューチュアルファンドの2024年末の日本株比重は、ベンチマークより平均24%アンダーウエイトしていました。

世界株価指数であるMSCI ACWI(All Country World Index の略で、いわゆる「オルカン」)における日本株比重は約5%に過ぎないうえ、MSCI ACWI指数から日本株は四半期ごとに10銘柄程度削除されているので(2025年2月末の日本株の組入銘柄数は183)、MSCI ACWI指数をベンチマークにする外国人投資家の日本株投資のインセンティブが低下しています(図表1-3参照)。

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(出所:『アクティビストが日本株市場を大きく動かす 外国人投資家の思考法と儲け方』より)

トヨタ自動車ですらS&P500銘柄の時価総額は24位

2024年末時点で、米国株では時価総額が1000億ドルを超えている銘柄が92社あった一方、日本株で時価総額が1000億ドルを超える銘柄はトヨタ自動車、三菱UFJFG、ソニーグループ、リクルートHD、日立製作所、ファーストリテイリング、キーエンスの7社しかありません。

日本株で時価総額最大のトヨタ自動車もS&P500銘柄のなかに入れると、時価総額24位に過ぎません。そうした結果、MSCI ACWIをベンチマークとするファンドの上位組入で見かけることがある日本株はトヨタ自動車、日立製作所、ソニーグループ、キーエンス、リクルートHDなどです。

一方、米国株以外の株式を投資対象とするインターナショナル株ファンドやMSCIのEAFE(Europe、Australia、Far East)やMSCI ACWI ex. USA指数をベンチマークとするファンドでは日本株比重が15~23%あるので、もう少し時価総額が小さい日本株も投資対象にすることがあります。

また、本数は少ないですが、海外の中小型株を対象にするファンドだと、日本株は中小型銘柄数が多いので、多く組み入れられます。