40歳のハミルトンは苦境の一方、ルーキーたちがいきなり活躍 中野信治が解説する「若手とベテランの明暗」の背景

中野信治・インタビュー F1 2025シーズン前半戦総括 中編(全3回)

 F1の2025年シーズン前半戦は、ルーキードライバーとベテランに大きな注目が集まった。メルセデスからデビューしたキミ・アントネッリやレーシングブルズのアイザック・ハジャーらが光る走りを見せる一方で、メルセデスからフェラーリ入りしたベテランのルイス・ハミルトンは苦戦が続いた。

 若手ドライバーがいきなり活躍できる要因は何か。また7度の世界チャンピオンに輝く大ベテラン、ハミルトンが本領を発揮できない理由とは。ホンダのドライバー育成にも携わる元F1ドライバーの中野信治氏に聞いた。

【若いドライバーがいきなり活躍できる背景】, 【天性のスピードで魅せるルーキー】, 【スーパーフォーミュラで活躍したあの選手は...】, 【40歳で移籍のベテランは対応できていない】

メルセデスからフェラーリに移籍した40歳のルイス・ハミルトン photo by Sakurai Atsuo

【若いドライバーがいきなり活躍できる背景】

中野信治 今シーズンの前半戦は、メルセデスのキミ・アントネッリ(19歳)、キック・ザウバー(ステーク)のガブリエル・ボルトレート(20歳)、レーシングブルズのアイザック・ハジャー(20歳)といったルーキーが印象的な活躍を見せました。

 これまでのF1ではベテランを大切に使い続けることが当たり前だと考えられていましたが、その常識は絶対に変わるべきだと僕はずっと思っていました。もちろん、経験が大事なのは百も承知ですが、今の若い世代の学習曲線はひと世代前のドライバーたちとは全然違います。

 それはヨーロッパを中心としたレース界でレッドブル、フェラーリ、メルセデスなどのレーシングチームがジュニアカテゴリーからしっかりと育成プログラムを作っていることが大きいと思います。現代の若いドライバーたちがジュニアカートやジュニアフォーミュラの時代から重ねてきている経験の量や質がケタ違いです。

 以前のドライバーが3年ぐらいかけて学んだことを1年でやってしまっているイメージです。2年やったら、もう6年学んでいることになる。しかもシミュレーターも発達しています。それだけ成長スピードが早まっているので、若いうちにF1などのトップカテゴリーにステップアップすることに僕は異を唱えません。

 アントネッリのような育成ドライバーが18歳という若さで急にデビューすることになった場合、前半戦ではミスをしたり、経験不足で苦しんだりすることもあるでしょう。でも、シーズン終盤にはベテランに追いつくことができると思っています。成績がそんなに変わらないところまで成長することができれば、次世代のドライバーを育てたほうが長い目で見ればチームとしても利益になる、というのが僕の考え方です。それを実際に証明しているのがマクラーレンだと思います。

【天性のスピードで魅せるルーキー】

 マクラーレンは、ランド・ノリス(25歳)とオスカー・ピアストリ(24歳)という若いドライバーふたりのラインアップで結果を出しています。今シーズンデビューしたキック・ザウバーのボルトレートもそうです。シーズン序盤こそミスもあり、なかなか結果を出せませんでしたが、中盤戦に入ると大ベテランのニコ・ヒュルケンベルグに匹敵するパフォーマンスを発揮しています。

 20歳のボルトレートはキック・ザウバーという中堅チームにいるのであまり目立ちませんが、細かく見ていくとすごいドライバーです。チーム体制やマシンの競争力、チームメイトが違いますので、新人の前半戦を一概に評価はできませんが、現代のF1を吸収するスピードで言えば、メルセデスのアントネッリを上回っていると思います。

【若いドライバーがいきなり活躍できる背景】, 【天性のスピードで魅せるルーキー】, 【スーパーフォーミュラで活躍したあの選手は...】, 【40歳で移籍のベテランは対応できていない】

今季F1における新人とベテランドライバーの明暗を語った中野信治氏 photo by Tanaka Wataru

 前半戦、新人では最上位のドライバーズランキング7位で終えたアントネッリ。第10戦カナダGP(6月16日決勝)で初表彰台に上がっていますが、前評判が高かっただけに、やや期待外れの見方もあります。

 でも18歳でワークスのメルセデスからデビューし、マシンを走らせるだけでも大きなプレッシャーです。そのうえで今一番脂が乗っているジョージ・ラッセルに対してつねに近くにいるとか勝つというのは正直難しい。年に何回か勝つだけでもすごいことだと僕は思います。彼がこれから2〜3年とメルセデスで乗るチャンスを得られるのであれば、伸びてくる可能性は高い。メルセデスとしては間違ったチョイスはしていないと思います。

 20歳のハジャーも前半戦で光ったルーキーのひとりです。彼はナチュラルな速さがあって、感性と感情で走るドライバーです。それが彼の強さでもあり、若干弱い部分にもなっています。たとえば、感情をうまくコントロールできずに冷静な判断を失ってミスをしたり、マシンに対する理解もまだ十分ではなかったりするように見えます。しかし、天性のスピードは魅力的で、関係者の高い評価を得ています。

【スーパーフォーミュラで活躍したあの選手は...】

 レーシングブルズでハジャーとコンビを組むリアム・ローソン(23歳)も能力が高いドライバーです。ただ、彼はドライビングのウインドウが若干狭いように感じる部分があります。自分に合ったマシンの時はすごく速いのですが、合わなかった時はチームメイトと比べてパフォーマンスが落ちてしまうところがあり、人によって評価はまちまちです。

 ローソンは2023年にF2から日本のスーパーフォーミュラ(SF)に参戦して、開幕戦でいきなり優勝してチャンピオン争いを演じました。SFでのローソンのドライビングを見ましたが、本当にうまかった。一方で、彼のドライビングはヨーロッパのスタイルではないと感じました。

 ローソンのドライビングは、基本的にマシンのリアのグリップがしっかりしていないとパフォーマンスを発揮しきれないスタイルに見えます。後ろがしっかりしていて安心感があるマシンだと速い。SFのマシンはタイヤのグリップがあり、リアのグリップも高いので、彼のドライビングスタイルに合ったのだと思います。

 F1ではリアが安定しているレーシングブルズで結果を出せて、リアがけっこうピーキーなレッドブルでは苦労したというのは、自明の理だと思います。ローソンはレーシングブルズに戻ったあと、自分のなかでドライビングを組み立て直し、徐々にパフォーマンスを取り戻しています。ウインドウが広がっているかどうかはわかりませんが、自分の合ったマシンだとハジャーを凌駕する速さを披露します。

 あと、持ち前の気の強さが今はいい方向に出る時と、悪い方向に出る時があります。正しい方向に行けば、ローソンもまだまだ伸びしろがあると思いますので、後半戦は楽しみな存在です。

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photo by Tanaka Wataru

【40歳で移籍のベテランは対応できていない】

 長年在籍したメルセデスを離れ、フェラーリに移籍し、40歳で新たな挑戦を始めたルイス・ハミルトン。前半戦は第2戦中国GP(3月23日決勝)のスプリントレースで優勝しましたが、苦しい戦いが続きました。

 やっぱり彼はまだフェラーリのマシンに慣れていない。すでにフェラーリに7シーズン在籍し、マシンの特性を知り尽くしているシャルル・ルクレールのほうが速いのは当たり前のことです。

 フェラーリのマシンはリアがピーキーに見えますが、そのピーキーなマシン特性にハミルトンは対応できていないというか、ドライビングスタイルが合わせ込めていません。

 データを見ると、ルクレールはフェラーリのピーキーな部分を消すために、スロットルとブレーキを同時に使っています。そうすることでマシンのピッチング(前後方向の揺れ)をできるだけ減らしてダウンフォースを安定して発生させているのですが、このルクレールのドライビングはかなり特殊です。

 ハミルトンが今まで培ってきた走らせ方をフェラーリに移籍したからといってパッと変えられるかと言われると、それはなかなか難しい。前半戦を見ていると、リアのピーキーさが出づらいサーキットもありますし、セットアップによって消せる場合もあります。そういうところではハミルトンはパッと上位に入ってきますが、シーズンを通して見ていくと、やっぱりルクレールに比べ、パフォーマンスが見劣りすると言わざるを得ません。

 フェラーリで19年目のシーズンに臨んでいるハミルトンが前半戦の経験をもとに、どこまでマシンに合わせたドライビングができるのか。後半戦の大きな見どころだと思います。

後編につづく

【プロフィール】

中野信治 なかの・しんじ/1971年、大阪府生まれ。F1、アメリカのカートおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は豊富な経験を生かし、ホンダ・レーシング・スクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のエグゼクティブダイレクターとして、国内外で活躍する若手ドライバーの育成を行なう。また、DAZN(ダゾーン)のF1中継や毎週水曜のF1番組『WEDNESDAY F1 TIME』の解説を担当、2025年夏、世界中で大ヒットしたブラッド・ピット主演の映画『F1 / エフワン』の字幕監修も務めた。