角田裕毅は「限界まで攻めることができていない」 F1カメラマン2人が語り合う今季のレッドブルとトヨタの今後
F1フォトグラファー対談 2025年シーズン後半戦展望 後編(全3回)
ともに取材歴500戦を超えるベテランF1フォトグラファーの熱田護氏と桜井淳雄氏による対談。後編では、気になる角田裕毅選手とレッドブルの動向をはじめ後半戦の見どころについて語り合ってもらった。
さらにはサマーブレイク期間に富士スピードウェイで開催されたトヨタとハースのF1テストの模様に加え、トヨタが今後F1にどのように関わっていくのか、日本人ドライバー誕生の可能性についても幅広く話を聞いた。
2025年シーズン途中からレッドブルに移籍した角田裕毅 photo by Atsuta Mamoru
【角田裕毅は限界まで攻められない状況】
ーー第3戦日本GP(4月6日決勝)以降、レーシングブルズからトップチームのレッドブルに移籍した角田裕毅選手ですが、前半戦は苦戦が続きました。
熱田護(以下、熱田) コース脇で撮影していると、アルファタウリやレーシングブルズ時代の角田選手は予選でコースのけっこうギリギリまで攻めていました。それが角田選手の持ち味だったのですが、最近の予選アタックではスぺースが余っています。明らかにギリギリまで攻められていません。
レッドブルのマシンが乗りにくいので攻められないのだろうし、そこで無理したらイモラ・サーキットで開催されたエミリア・ロマーニャGP(5月18日決勝)の時のようにクラッシュしてマシンを壊してしまうかもしれない。
イモラでクラッシュした結果、古い仕様のマシンで何戦も走ることになり、苦しいレースが続きました。もうこれ以上マシンを壊すことはできないので、限界まで攻めることができないというのが現状だと思います。
桜井淳雄(以下、桜井) 角田選手は速いドライバーだと思いますが、結局、F1はレース運びですべて決まってきます。今シーズンもレースで何回か他のドライバーとぶつかっていますし、予選でも大きなクラッシュがありました。最後までトラブルなく走っていればポイントは獲得できたはずなのに......。すごくもったいないなと感じます。
ーーレッドブルは前半戦で2勝しましたが、コンストラクターズポイントではマクラーレン(559点)、フェラーリ(260点)、メルセデス(236点)に次ぐランキング4位(194点)という結果です。マクラーレンには365点もの大差をつけられていますので、ガレージのなかはあきらめムードになっている?
桜井 外から見ている分は、あまり変化がないですね。角田選手もマックス・フェルスタッペンもこれまでどおり淡々と仕事をこなしています。
熱田 フェルスタッペンはもともとそれほど感情が表に出るタイプではありません。結果が出せなかった時は感情を押し殺していますが、「この野郎!」という悔しい気持ちは伝わってきます。まだあきらめていないように見えますし、レースが開催されるサーキットにマシン特性が合えば再び優勝争いに加わってくると思います。
桜井 優秀な技術者、いいドライバー、それらをまとめるマネジメントがそろわないと勝てないのがF1。今シーズンのレッドブルの成績を見るとよくわかります。あれだけチームから技術者の人材流出が続き、シーズン中にチーム代表まで電撃解雇されるわけですから、前半戦の結果は仕方のないところはあります。ドライバーがいくら頑張っても勝てないですよ。
【トヨタから日本人F1ドライバー誕生なるか】
ーー7月に電撃解雇されたクリスチャン・ホーナー氏の代わりにローラン・メキーズ氏がレッドブルの新しいトップに就任しました。
桜井 これまでチームを牽引していたホーナー氏がいなくなった途端にバラバラと崩れてしまうのか。それともメキーズ氏が立て直すのか。F1の世界はトップが代わると、チームの雰囲気や成績もガラッと変わります。
ウイリアムズも2023年にメルセデスでエンジニアを務めていたジェームス・ボウルズ氏が新しい代表に就任すると、スポンサーもスタッフも増え、チームがどんどんいい方向に変わっています。レッドブルが今後どうなっていくのか、興味深いですね。
熱田 ハースは小松礼雄さんが2024年から代表に就任して、すごくよくなりましたよね。小松さんがチームの方向性をしっかりと示して、そのとおりにスタッフが一丸となって動き始めています。チームの雰囲気はすごくいいですよ。それにトヨタと提携したことで予算も人もどんどん増えているし、パフォーマンスも着実に上がっています。
F1の2025年シーズン後半戦を展望した熱田護氏(左)と桜井淳雄氏(右) photo by Takana Wataru
ーーハースと言えば、8月6〜7日の2日間、富士スピードウェイで旧車を使ったテストを実施しました。
熱田 今回のテストはトヨタとハースの人材交流に加え、トヨタのドライバー育成プログラムがF1にまで道筋がつながっていることを示す目的もありましたが、いい試みだったと思いました。
僕は現地へ取材に行きましたが、テストにはハースのスタッフだけでなく、パワーユニット(PU)を供給するフェラーリのスタッフ、トヨタの関係者もいましたので、お金はすごくかかっていたはず。それなのにお客さんはたったの1200円でF1のマシンを間近で見ることができたのですからね。すごく盛り上がっていました。
ーーテストでは2024年のスーパーフォーミュラでチャンピオンになった坪井翔選手(30歳)と、FIA世界耐久選手権にトヨタのドライバーとして参戦しながらハースのリザーブドライバーを務める平川亮選手(31歳)がステアリングを握りました。
熱田 今、カートやジュニアフォーミュラに乗っている若い子たちがホンダだけじゃなくて、トヨタでもF1まで行けるということを示したわけですよね。日本の子どもたちの夢が広がるわけですから、大きな意味があると思います。
桜井 トヨタがF1まで道を作るのはいいことですが、平川選手と坪井選手はともに30歳を超えています。彼らがF1デビューを実現させるのは、そう簡単ではないと思います。
トヨタは2009年にF1を撤退し、長い空白の時間がありました。今、ハースの協力を得てF1まで道をつないだのはいいですが、そこに乗せるドライバーがいないというのが現状だと思います。人を育てるのは時間がかかります。これからトヨタのドライバー育成がどのような形で進んでいくのか。今後も注目していきたいです。
【後半戦で撮りたい写真とは?】
ーー後半戦で注目しているポイントを教えてください。
熱田 レッドブルとホンダのパートナーシップは今シーズンで最後です。フェルスタッペンにはもう1勝してほしいですし、角田選手にも表彰台に上がってもらって、レッドブル・ホンダとして有終の美を飾ってほしい。
あと小松代表が率いるハースですよね。前半戦の最後の4〜5戦がうまくいかずコンストラクターズ選手権でランキング9位になってしまっていますが、ランキング6位のアストンマーティンとはそれほど離れていません(17点差)。昨シーズンはランキング7位という成績を収めていますので、最低でも7位、できれば6位まで上がってほしい。
F1の日本人最多取材数を誇る熱田氏 photo by Tanaka Wataru
桜井 一番の注目は、ランド・ノリスとオスカー・ピアストリのチャンピオン争いです。僅差の戦いが続いていますので、間違いなく最後までもつれ込むと思います。あと、中団チームのランキング争いも熾(し)烈です。
イギリスGP(7月6日決勝)でニコ・ヒュルケンベルグが最後尾からスタートして3位に入り、キック・ザウバー(ステーク)がコンストラクターズランキングで9位から6位へ急浮上しました。上位から中団チームまで接近しているので、もう1回ぐらいドラマチックなレースを見たいです。その主役が角田選手であってほしいですね。
F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める桜井氏 photo by Takana Wataru
ーーシーズン後半戦で撮ってみたい写真はありますか?
桜井 やっぱりピアストリが喜びを爆発させる瞬間を撮りたい。彼はフェルスタッペンに匹敵する実力を持っていると思いますので、これから何度もタイトルを獲得し、チャンピオン争いの常連になるはず。だからこそ嘘でもいいから、もうちょっと感情を出してほしいですね。
熱田 もしピアストリがチャンピオンになったら、どういう表情やポーズをするのかは楽しみですよね。
桜井 その瞬間をぜひ撮影したいです。あと、来シーズンから新規参戦するキャデラックのラインナップが発表されましたが、今シーズン後半戦はシートの動向がパラパラと出てくると思います。角田選手はどうなるのか、新しい日本人ドライバーは出てくるのか......。そのあたりも面白いと思います。
熱田 もしもルイス・ハミルトンが引退を決断したら、大きな動きが出てきそうですよね。フェラーリのシートがひとつ開けば、そこにフェラーリ育成のオリバー・ベアマンが昇格すると、ハースのシートに空きが出ます。そこに誰が乗るのか......。いろいろと予想して楽しめますよね。後半戦も目が離せません。
特別編につづく
【プロフィール】
熱田 護 あつた・まもる/1963年、三重県鈴鹿市生まれ。2輪の世界GPを転戦したのち、1991年よりフリーカメラマンとしてF1の撮影を開始。F1取材は今年で600戦を超え、日本人最多取材回数を誇る。9月25日に『DRAMATIC CIRCUS F1カレンダー 2026』(デジタルカメラマガジン責任編集/インプレス)を販売予定で現在予約受付中。カレンダーのロゴと流し撮りをイメージしたステッカーとスマートフォン壁紙用画像が付いたAmazon限定版も発売。
桜井淳雄 さくらい・あつお/1968年、三重県津市生まれ。1991年の日本GPよりF1の撮影を開始。これまでに500戦以上を取材し、F1やフェラーリの公式フォトグラファーも務める。『スポルティーバ』や『週刊プレイボーイ』をはじめ、さまざまな媒体に写真を提供している。