座りっぱなし・サウナ・お酒・睡眠…「100年動く心臓」をつくるために今からできる生活習慣【専門家解説】
平均寿命が延び、100才まで生きる人も珍しくなくなってきた現代。人生100年時代においては、ただ長生きするだけでなく、元気に自立して過ごせる“健康寿命”を延ばすことが重要だ。健康寿命が延びれば、生活の質が高まり、医療費や介護費の負担を減らし、家族の負担も軽くできる。「病院いらず」で100年動く心臓をつくる習慣を専門医が解説する。
血圧と心拍数の安定が心臓を守るカギとなる
教えてくれた人
池谷敏郎さん/池谷医院院長、血管・心臓など循環器系の専門医
池谷敏郎さん
心拍数を抑え、血圧を上げない生活が100年動く心臓をつくる
健康長寿の鍵を握るのが心臓だ。
血管、心臓など循環器系の専門医である池谷医院院長の池谷敏郎医師が語る。
「大切なのは血圧と心拍数を過度に上げないこと。全身により強く、より速く血液を送るために心臓の負担が大きくなる。100年動く心臓をつくるには日頃から心拍数を抑え、血管をしなやかにして血圧を上げない生活を送ることが重要です」(以下、「 」内は池谷医師)
人は就寝中から朝にかけて徐々に副交感神経優位から交感神経優位に切り替わり、活動的になっていく。この際、少しの工夫で血圧や心拍数の急上昇を抑えられるという。
「起床時はゆっくりと身を起こしましょう。布団から飛び起きると血圧と心拍数が一気に上がるので、起床する際は『どっこいしょ』とつぶやいてゆっくり布団から起き上がるといい。また、大音量の目覚まし時計は交感神経が刺激されて心臓に負担がかかるので音量が徐々に大きくなる目覚まし時計を使いたい。トイレでいきんだり、目覚ましに朝冷たいシャワーを浴びるのも心臓への負荷が大きいので避けましょう」
ご飯の食べ方にも注意が必要だ。朝食を抜くことや、昼食の早食い・ドカ食いは避けるべきだと池谷医師。
「朝食を抜くと空腹感が交感神経を刺激してノルアドレナリンなどを分泌することで心拍数が上がりやすくなります。また、朝食を抜いた反動で昼食の早食いやドカ食いをするのは絶対にやめましょう。食後の血糖値が140以上に上がる食後高血糖になりやすく、糖尿病を招きます。動脈硬化から心筋梗塞などのリスクが高まる。昼は丼ではなく定食にして、ドレッシングをかけた野菜から食べると血糖値の急激な上昇を抑えられます」
野菜や肉を先に、ご飯をその後に食べる「カーボラスト」は血糖値の上昇を緩やかに抑える効果があるという。
座りっぱなしは心臓に悪影響 1時間に1回は立ち上がろう
日中は座りっぱなしを避けることを心掛けたい。
「ずっと座っていると体の血流が悪くなり、心血管疾患のリスクを高めます。オーストラリアで行なわれた調査では、45才以上で1日に11時間以上座っている人は1日4時間未満の人と比べて死亡リスクが40%上昇しました。日中は1時間に1回は席を立つことを意識しましょう」
座りっぱなしは心血管疾患のリスクを高める
サウナ好きな人は水風呂の入り方に注意する。
「サウナで血圧はさほど上がりません。ただし、サウナに限界まで入って冷たい水風呂に飛び込むようなことは血圧の急上昇につながるので絶対に避けましょう」
お酒についてはどうか。
「適量のアルコールは交感神経の緊張を和らげ、末梢血管を開いて血流を改善し、心臓の健康にプラスに働きます。適量は1日平均純アルコールで約20g程度とされ、ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合程度。その日不足した魚や野菜などを夕食で摂りつつ、晩酌するといいでしょう」
就寝前の「耳のマッサージ」も交感神経を鎮めて心拍数を下げるという。
「耳の周辺には自律神経を整えるツボが多数ある。親指と人差し指で耳をつまんで軽く引っ張るだけ。斜め上、真横、下と引っ張る方向を変えて3回ずつ行ないましょう」
今夏も熱帯夜が続くが、就寝の際は長めのタオルケットを活用する。
「夏にエアコンをつけっぱなしで寝る際、掛け布団をかけて体を冷えから守ることが大切ですが、掛け布団だと暑さで足を出してしまいがち。足が冷えると『こむら返り』が起こり、痛みで目覚めることがあります。これは大音量の目覚まし時計と同様に心臓に非常に良くない。夏の就寝時はエアコンの設定温度を下げ過ぎず、長めのタオルケットをかけるとちょうどいいでしょう」
いきまないトイレ、適量晩酌、間食にチョコ。心臓の負担を減らす14の鉄則
<習慣1>「どっこいしょ」と声を出してゆっくり起きる
起床時に急に起き上がると血圧と心拍が急上昇するので、「どっこいしょ」と言いながらゆっくり起きる。
<習慣2>大音量の目覚まし時計は使わない
目覚ましの音による交感神経の刺激を避ける。だんだん音が大きくなる目覚まし時計を使う。
<習慣3>トイレでいきまずに排泄する
呼吸を止めていきんで排泄するのは心臓に負担。出ないのであれば諦めるか下剤の活用を検討する。
<習慣4>起きて冷たいシャワーを浴びない
朝の風呂・シャワーは心臓への負担が大きく、暑いからと夏の水シャワーによる寒冷刺激は血圧を急上昇させる。
<習慣5>朝食を抜かない
朝食を抜くと空腹感により交感神経を活性化させ、血圧や心拍数が上がるため心臓に大きな負担をかける。
<習慣6>お昼は丼ものより定食を食べる
早食いは食後高血糖と交感神経の活性化を促すので、丼をかきこむ食べ方はやめる。
<習慣7>おやつにチョコレートを食べる
チョコレートに含まれるGABA(γ-アミノ酪酸)は血管を弛緩し、血圧を下げる効果がある。
<習慣8>座りっぱなしを避け、1時間に1回は立ち上がる
椅子に座り続けると心血管疾患のリスクを高める。1時間に1回は立ち上がって少しでも体を動かす。
<習慣9>サウナ後の水風呂は避ける
サウナ後の水風呂は急激な血管収縮と血圧上昇を促す。サウナ後はぬるま湯のシャワーで手足を冷ますだけに留めておく。
<習慣10>夜は適量の酒を飲む
純アルコール20グラム程度(ビール中瓶1本)のお酒は血流を良くし、動脈硬化予防になる。
<習慣11>寝る前に耳をマッサージする
親指と人差し指で耳の上下、横を軽くつまんで3回ずつ軽く引っ張る。
<習慣12>夏の就寝中は長いタオルケットを体に掛ける
夏にエアコンをつけっぱなしで寝る場合、足が冷えて「こむら返り」の痛みで起きないようにタオルケットをかける。
<習慣13>趣味を持つ
血圧と心拍数に悪影響を与えるストレスを発散する方法を持っておく。
<習慣14>毎年「血管年齢検査」「頸動脈エコー検査」を受ける
超音波による血管年齢検査で血管の硬さを、頸動脈エコー検査で血管内のプラークの有無を毎年調べる。
心臓の負担を減らす習慣14
※週刊ポスト2025年8月29日・9月5日号