【ランチ1万6000円】老舗グランメゾン覆す常識

憧れの老舗グランメゾン「銀座レカン」, 改革重ね、ミュシュラン一つ星を獲得, 老舗グランメゾンとは思えない“革新”支える若い才能, コース一本化、小学生も利用可…今後の改革は?, 訪問しやすくなった“憧れ”の名店

老舗グランメゾン「銀座レカン」(写真:銀座レカン提供)

フランス語で“宝石箱”を意味する「銀座レカン」は1974年に創業した老舗のグランメゾン。日本のフランス料理で50年以上の歴史をもつレストランは、数えられるほどしかない。

【写真を見る】グランメゾンとは特に高級で、料理、サービス、雰囲気で最高級のもてなしを提供するフレンチ店を指す言葉。日本有数の老舗グランメゾンの内装や華やかな料理の数々。

「銀座レカン」が位置するのは銀座4丁目、ミキモト本店ビルの地下であり、扉をくぐれば、“レカンレッド”の意匠が広がり、ホスピタリティあふれるサービススタッフが緊張を解いてくれる。メインダイニングへ案内されると、流れるようにガラス球を配したシャンデリアが目を引く。シャンパンゴールドを基調にし、大理石を贅沢に使用した空間で、自然と期待感が高まる。料理・ワイン・サービス・空間が揃った“総合芸術としての食体験”を創出し、国内のエグゼクティブをもてなしてきた。

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(写真:銀座レカン提供)

憧れの老舗グランメゾン「銀座レカン」

歴代のシェフはそうそうたる顔ぶれだ。初代ロベルト・カイヨ氏は日本のフランス料理界に大きな影響を与えた料理人であり、2代目の井上旭氏は食通の誰もが知るスペシャリテ「マリア・カラス」=「仔羊のパイ包み焼き」を生み出し、自身がオープンした「シェ・イノ」でも提供した。

3代目の城悦男氏はソースの達人で六本木「ヴァンサン」を開き、4代目の十時亨氏は銀座に自然派フレンチ「ギンザトトキ」を開業。5代目の下屋忍氏は小伝馬町にビストロ「ラ・シュセット」をオープンし、6代目の高良康之氏は自身の銀座「ラフィナージュ」でミシュランガイドで一つ星、7代目の渡邉幸司氏は門前仲町のビストロ「渡辺料理店」が予約困難店となっており、8代目の栗田雄平氏は一つ星を獲得したシェフである。

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栗田料理長によるentrée(写真:銀座レカン提供)

改革重ね、ミュシュラン一つ星を獲得

そんな「銀座レカン」に大きな変化があったのが、2015年だ。ビル建て替えに伴い2年4カ月の休業を経たのち、アール・ヌーヴォー(ゆるやかな曲線と、自然界にある有機物のモチーフを組み合わせた装飾的なデザイン)の世界観を受け継ぎながら、2017年6月1日にリニューアルオープンした。

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ウェイティングルーム(写真:銀座レカン提供)

2020年7月20日からはユニフォームをタキシードからスーツへ変更するとともに、1979年生まれの栗田雄平氏がシェフに、1989年生まれの近藤佑哉氏がシェフソムリエに就任し、若返りが図られる。近藤氏の提案により、フランスワイン以外も組み込んだ「新・ペアリングコース」やノンアルコールペアリングも取り入れた。

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ノンアルコールペアリング(写真:銀座レカン提供)

コロナ禍ならではの対応で、同年9月15日に店舗でのテイクアウトやデリバリーを開始し、2021年4月23日にオンラインショッピングサイトを開設(現在はいずれも休止)。2023年には近藤氏が総支配人に就任し、2023年12月5日に発表された「ミシュランガイド東京2024」で創業以来初の一つ星に輝く。

同じレカングループの「ブラッスリー レカン」でも動きが見られる。2023年12月16日隣接する場所に「ワインショップ レカン」をオープンし、2025年3月3日には「The Arts Fusion by L’écrin(ジ・アーツ フュージョン・バイ レカン)」としてリニューアル。

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The Arts Fusion by L’écrin(写真:銀座レカン提供)

「芸術の街 上野」にあることから、食を通して芸術文化に貢献していくコンセプトを掲げた。同店で2023年2月に開始したBYO(Bring Your Own)=ワインの持ち込みも、引き続き無料で行っている。

2025年7月から近藤氏はレカングループを統率することに加えて、CBO(Chief Branding Officer)に就任し、ブランディングも担うことになった。飲食業界でCBOという役職は珍しく、ソムリエ出身者が着任するのも新しい。

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近藤佑哉総支配人(写真:銀座レカン提供)

老舗グランメゾンとは思えない“革新”支える若い才能

ここ最近の“革新”は銀座の老舗グランメゾンとは思えないほど、意外性とスピード感にあふれている。そして、2025年10月からは、1995年生まれの杉田周人氏が、9代目の料理長に就任。一つ星「タテルヨシノ銀座」(閉店)や三つ星のフォーシーズンズホテル丸の内 東京「SÉZANNE(セザン)」といった名店で腕を磨いた料理人だ。

栗田氏が体調不良によってシェフを退任することになっていたので、近藤氏は年初から人材を探していたという。

「若手シェフのコンペティション『RED U-35』などをチェックしていました。周りの方からも情報を収集して候補者を絞り、Instagramのダイレクトメッセージからコンタクトを取りました。みなさん快い返事をくださって、実際に会って話を聞きました」(近藤氏)

杉田氏はもともと周囲からの評判が高く、実際に会うと近藤氏はその人柄に惚れ込んだという。

「技術は申し分もなく、情熱もやる気もあり、とても素敵な方だと思いました。私のこれまでの経験から、人柄が素晴らしい人はよい料理を作るので、是非ともシェフになってもらいたいと思いました」(近藤氏)

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杉田周人料理長(写真:銀座レカン提供)

老舗グランメゾンのシェフがSNSを通してスカウトされるとは新しい時代といえよう。それに呼応するようにオリエンテーションも斬新で、杉田氏はスカイダイビングや滝行を体験し、近藤氏とともにミュージカルを鑑賞する予定だ。食材に向き合っているだけではなく、さまざまな経験を通して、多角的な観点から化学反応を起こしてもらうことが狙いだ。

コース一本化、小学生も利用可…今後の改革は?

2025年10月からの新生「銀座レカン」では、ゲストが以前よりも利用しやすくなる。

現在はランチ2コース(1万2000円、1万8000円)とディナー2コース(2万2000円、3万4000円)のところ、ランチ1コース(1万6000円)とディナー1コース(2万8000円)に集約。ランチでもディナーコースが注文可能だ。

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コース料理の一例(写真:銀座レカン提供)

インバウンドの需要もあり、すし店や日本料理店、天ぷら店をはじめとしてレストランの価格が著しく高騰しており、“ぽっと出”の店でも客単価が5万円を超えることも珍しくない。フランス料理店も値上げが続いており、グランメゾンであればディナーコースは4万円以上のところが多いので、良心的な価格であるといえよう。

ディナーは数種のカナッペに始まり、前菜、魚料理、肉料理、アヴァンデセール、グランデセールと、現代風フレンチの構成に寄せた10品程度のデギュスタシオン=少量多皿となる見込みだ。ゲストはコース選択で迷うことがなく、「銀座レカン」の“さまざまなエッセンス”をひとつのコースで体験できる。これまでは高校生以上しか利用できなかったが、個室に限って小学生以上であれば利用可能となる。

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個室(写真:銀座レカン提供)

「これまでご愛顧くださっていた企業のエグゼクティブといった方も代替わりして、お子様もまだ小さいです。ご一緒に来店されて大人と同じコースを体験いただき、本格的なフランス料理を通して食育にも寄与していきたいと思っています」(近藤氏)

ワインの価格もこれまでと変わらない。さらには、ワイン1本あたり1万5000円でBYOを可能にすることも検討している。フランス料理ではフランスワインとのマリアージュがとても重要であるだけに、高級フランス料理店、それも老舗のグランメゾンで、ゲストに好きなワインの持ち込みを許可するとは、なかなか寛大だ。選択肢が増えるので、ゲストにとっては嬉しい変化である。

100年続く店に

このような革新は、近藤氏が牽引してきたが、総支配人として任命される際に、社長から授けられた“ミッション”があるという。

「あと100年続くような店にしてくれと言われました。それには、新陳代謝が不可欠で、絶え間ないスクラップ・アンド・ビルドが必要であると考えています。常に情熱のある人材を集め、『銀座レカン』で成長してもらい、次のキャリアのために卒業してもらいたいです。ゲストに満足していただくためには、ゲストに応対するスタッフのことを大切に考えていきたいと思っています」(近藤氏)

「銀座レカン」は時代に合わせた変革が行われており、利用しやすくなっているが、いくつか気になる点もある。

はじめは良心的なコース価格。食材費や光熱費が高騰している状況にあるだけに、利益が気になるところだ。ただ、コースを一本化しているので、食材のロスも減って効率化も図れる。クオリティの向上が見込めることも間違いない。

次は、料理長の若返りだ。若さは大きな推進力となるが、未知数ではある。しかし、2代目の“グランシェフ”井上旭氏が料理長に就任したときも杉田氏と同じ30歳であったことや、歴代の料理長が50年以上紡いできた実績を鑑みれば、杞憂に終わることだろう。

最後はワインの価格据え置き。ワインの利益はレストランのビジネスを左右するが、ワインの仕入れ価格は高騰しており、円安も続いている。ただ、「銀座レカン」は、これからワインを揃えなければならない新興レストランとは異なり、昔からの2万3000本ものコレクションを抱えているので、ゲストのために良心価格を維持しても心配ないはずだ。

訪問しやすくなった“憧れ”の名店

2025年10月から「銀座レカン」がこの先100年に向けて、新たな一歩を踏み出す訪問しやすくなった“憧れた銀座のグランメゾン”のこれからに注目したい。

憧れの老舗グランメゾン「銀座レカン」, 改革重ね、ミュシュラン一つ星を獲得, 老舗グランメゾンとは思えない“革新”支える若い才能, コース一本化、小学生も利用可…今後の改革は?, 訪問しやすくなった“憧れ”の名店

エントランス(写真:銀座レカン提供)