「介護は悲劇ではなく喜劇」認知症の90歳母を介護する氷河期世代YouTuberが7万人に支持される理由
’25年に後期高齢者数は過去最多を更新する見込み。要介護者が急増し、費用の高騰と人手不足を機に、介護による貧困化が加速し始めた。ただでさえ困窮する氷河期世代の生活が一気にどん底に転落するリスクが高まっている――。介護に翻弄された末に行き着く先とは? 超高齢化社会の日本が直面する大問題に迫った。
◆“リアルな介護事情”を発信し続ける理由
介護系ユーチューバーN氏と90歳の母
「僕は、無職、独身で、認知症の母親を介護しています」
穏やかな関西弁で視聴者に語りかけるN氏。90歳の母との生活を赤裸々に映した彼のYouTubeチャンネルの登録者は7万人を超える。着替えやトイレの介助まで、まさに“リアルな介護事情”を発信し続ける理由を聞いた。
「東京の郵便局で10年以上契約社員をしていたんですが、正社員登用の希望は叶わず、7年前に体を壊したんです。母の認知症がわかったのはそんな時。仕事を辞めて介護に専念することに迷いはありませんでした。同時に始めたYouTubeは、母との思い出を残すための記録用としか考えてなくて。長く続くなんて思ってもみませんでしたよ」
◆その後の生活を変えたYouTube
思いつきのその行動が、その後の生活を大きく変えた。
「3年以上、少ない貯金を取り崩しながら凌いでいたんですが、半年前についに10万円を切った。でも不思議と、『なんとかなる』って思えたんです。ありがたいことに、ちょうどその頃から動画が徐々に軌道に乗り、 会社員の月収くらい稼げるようになりました」
◆N氏のタフさの源は…
息子を忘れ、不安そうに尋ねる母にN氏が語りかける場面。「ようそんなこと言えるわ」と照れ笑いする母には明るさが戻っていた
彼のタフさの源は何なのか。
「僕ら氷河期世代は、みんな傷を負いながら荒波を乗り越えてきたから、想定外の事態に強いはず。それに動画の視聴者から『気力が湧いた』などコメントをもらえるのが嬉しい。
母親もカメラを向けると、『また撮ってるん?』と軽口をたたきながらも、背筋がしゃきっと伸びる。いい刺激になってるのだと思います」
◆親の老いは笑い飛ばすくらいでいい
親の老いは、笑い飛ばすくらいでいいと言う。
「介護は悲劇ではなく喜劇。母の『お前誰やねん』という本気のボケに、『ほんま僕、誰なん!? 息子やん!』って全力でノリつっこみする。僕らの世代は、介護を乗り越えるタフさがあるはずです」
老いによる変化を止めることはできないが、捉え方次第で余生を心豊かに生きることは可能なのだ。
【介護系ユーチューバー N氏】
「無職、独身、息子と認知症、母の貧生活」チャンネル。認知症の母の介護を包み隠さず配信し、登録者数は7万人を優に超える
介護系ユーチューバー N氏
取材・文/週刊SPA!編集部