ミニストップ「消費期限偽装」が痛恨すぎるワケ

ミニストップが全店で、おにぎりや弁当などで「店内での手づくり調理」を中止した(写真:yu_photo/PIXTA)

ミニストップで消費期限の偽装

コンビニエンスストア大手のミニストップは2025年8月18日「消費期限の表示誤りについてのお詫びとお知らせ」と題した発表を行った。

【画像】ミニストップ、公式サイトでは"間が悪い"報告も…

「消費期限の表示誤りについてのお詫びとお知らせ」というリリース(ミニストップ公式サイトより)

内容は一部の店舗で、消費期限切れ商品が陳列されていたことのお詫びだった。

事象としては「本来であれば製造後速やかに消費期限が記載されたラベルを貼付し販売すべきところ一定時間ラベルを貼付せず、消費期限を延長した販売や一度売場に陳列した商品に再度消費期限が記載されたラベルを貼付する等」が散見されたとした。

これら、消費期限ラベルの遅延貼付、既存商品への新ラベル上書き行為が、同チェーンの全国23店舗にいたっていた。これは偶発性のものではなく、意図的な消費期限延長行為と言っていいだろう。

対象商品は手づくりおにぎり、手づくり弁当、店内加工惣菜だ。同チェーンは全店での販売中止という前例のない措置とした。

事件にいたるまでの経緯

なお、当初8月上旬の段階ではラベルは「貼り間違い」としていた。それが公式発表では、冒頭であげたとおり「表示誤り」となった。そして実際の行為が明るみになると世間の受け止めは「偽装」となっていく。

行為としては、商品の製造時刻に基づく表示を、より新しいものに見せかけているわけだ。そうなると「偽装」が近いだろう。

法的な責任、またはブランドイメージ毀損を考慮すれば、「偽装」という言葉を避け、「貼り間違い」としたかった意図は理解できる。そして企業の一般的な反応といえるかもしれない。ただ後手にまわった印象は払拭しがたい。

消費期限が正しく表示されなかった具体的な商品個数は公表されていない。ただ相当数に上ると思われる。一つならばまだしも、複数、かつ多店舗にわたっているわけなので、意図せぬ失敗と消費者はなかなか思いにくい。実際、ネット上では「店内調理だと、こういった事案は魔が差せば簡単に起きうる」「モラルではなく構造の問題だ」といった指摘も出ている。

さらに、埼玉県、東京都、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県など多くに分布していることも注目だ。これは同チェーンの管理体制等に問題があったと考えられる。また対象店舗は拡大する可能性をはらむ。

一般的な諸問題、ミニストップの問題

当事案については原因の調査中である。そこで一般論として問題点を述べる。このうちどれか、あるいは複数が原因になった理由があるだろう。

まず廃棄ロスが負担になる点だ。店舗は廃棄時に商品ロス分の費用を負担する。店内調理はそれにかかる調理費もかさむ。どんどん捨てたくなるインセンティブは店側にはない。

つぎに人手不足だ。調理する、売れない、廃棄する、また調理する……というサイクルのなかで、つい廃棄を怠る心理的動機は想像・予想できる。また人手不足にともなう教育やトレーニング不足、食品安全・衛生に費やす時間不足などがあげられる。

さらに管理体制として本部からの監査・管理体制に不備があり、不正をふせぐプロセスが十分に整備されていなかった可能性が高い。

ここから一般論をミニストップの問題に移行する。同社において、他チェーンと差別化を図っていた戦略的な商品が「店内での手づくり調理」そのものだった。「できたて、手づくり」が今回の事案でダメージになったのは皮肉といえる。

個人的な話だが、朝にランニングする帰り道にミニストップがあって、非常に愛用している。ミニストップにいった経験のある消費者なら、店員がなんでもやっている難易度の高いオペレーションに刮目しただろう。私は、ポテトしか店内調理の商品は購入したことがないものの、手間がかかっているのは事実だ。

店内調理はアナログだから、どの商品が不正にラベリングされたかを特定し、対象を限定して回収できなかったのも不幸だった(もちろん莫大な時間をかけて店内カメラを分析すればいいのだろうが)。

公式サイトでは、人気番組で8品合格したことを喜ぶページも/出所:ミニストップ公式サイト

今後の対策は?

まず根源的には、どのように店舗側が廃棄ロスを負担するかが問題だ。どう本部側と分担するか。

もちろん勝手にラベルを貼り直す店舗側は悪いのだが、その動機を極力小さくする金銭的ディスインセンティブが必要だろう。また、そもそも余るのが問題ともいえる。より精度の高い需要予測モデルを作って行くことも重要だろう。

つぎに違反者に罰則を設定する。ただ働き手がいなくなったらどうしようもないので、じっくりと教育を重ねるしかないだろう。研修の機会を増やす必要もある。また店舗内で二重のラベルチェックを実施するなどの方法も考えられる。

私はさほど勧めたいわけではないものの、内部通報制度も有効なはずだ。ワンオペで他の従業員がまったく知らなかった可能性もなくはない。ただ、その多くは、他従業員が一度は見聞きしたことがあったはずだ。

また本部の監査体制として抜き打ちのチェックや、技術的な取り組みも求められる。たとえばラベル印字や商品にラベルを貼る際に、不正を検知したり、貼れなくなるなどの工夫だ。

ここまでが短期的な取り組み。さらに中長期的に考慮するならば第三者機関でのチェックや、専門部門を創設することもありだろう(店内調理が同チェーンの付加価値でありつづけるならば)。安全第一の前提を何度も繰り返し点呼し、不正のない風土をつくりあげてほしい。

ところで、当事案をうけて、今後の利用を控えるといった声が散見される。また、差別化商品が販売されないことから、自然と足が遠のく消費者もいるようだ。たまたま真夏に発覚したため、食中毒を想起したひとも多かったのだろう。ぜひ同社には早めの対策発表を望みたいところだ。

なお、不幸中の幸いだったのが、現時点では健康被害が報告されていない点だ。現在、同社ではフリーダイヤルで相談を受け付けている。

ちなみにミニストップは業績が絶好調とはいいがたく、同社の経営戦略を変更する機会となるだろう。同時に、他のコンビニ各社についても店内の品質維持体制の見直しが求められる契機になったはずだ。

ラベルの一枚は、ただの紙切れではなく、企業の信頼そのものだったのだ。ラベルはもしかしてすぐにはがせるかもしれないが、消費者の信頼もすぐにはがれおちる。ぜひ同チェーンには誠実さで、ふたたび信頼を貼り直してほしい。同チェーンの愛好家から申し添えておく。