【独自】宅配ボックスの無断使用や無断侵入、白タクも…「鎌倉高校前」駅が無法地帯になっている

鎌倉高校前駅の踏切周辺は平日でも観光客でごった返し、車道まで人が溢れる
アジア全土で人気沸騰の「聖地」で放置された大問題
紺碧の海を背に、レトロな緑色の電車が走り抜ける。神奈川県鎌倉市の「鎌倉高校前」駅の踏切は、そんなノスタルジックな風景で知られる。しかし今、この穏やかな海辺の町が、外国人観光客による“観光公害”に揺れている。
写真撮影に訪れた彼らによる交通妨害は、今や日常となり、さらに、鎌倉高校前駅のトイレが封鎖されたことにより、その周辺に「野外排泄」を行う外国人観光客が急増している。
『FRIDAYデジタル』では、8月13日配信記事で、人気漫画『スラムダンク』の聖地と呼ばれる「鎌倉高校前駅」周辺での、外国人観光客による「野外排泄」などの迷惑行為について報じている。
より取材を進めると、その実態は、さらにひどいことがわかった。一部の外国人によるゴミの不法投棄、私有地への侵入、そして違法な“白タク”までもが横行しているのだ。しかも江ノ電はパンク状態で、地元住民の生活が脅かされている。観光公害の深刻化で、引っ越しをしてしまう人も出始めている──。
「この辺りに住んで十数年になりますが、ここ数年でひどい状況になってしまいました。週末だけでなく平日も観光客が押し寄せ、もう静かな環境はなくなってしまいましたね。耐えきれずに引っ越していったご近所さんも、私の知る限り2軒いますよ」
そう嘆くのは、鎌倉高校前駅の近くに住む住人だ。なぜ、この何の変哲もない駅前の踏切が、これほどまでに観光客を惹きつけるのか。その背景には、2つの人気アニメの存在がある。
一つは、’90年代に一世を風靡したバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK(スラムダンク)』。アニメ版のオープニングで、主人公・桜木花道がカバンを肩にかけ、江ノ電が走り去るのを待つシーンが、まさにこの鎌倉高校前の踏切。原作漫画は1996年に連載を終えたが、’22年に公開された映画『THE FIRST SLAM DUNK』がアジア全域で爆発的にヒット。特に中国では記録的な大ヒットとなり、歴代でもトップクラスの興行収入を叩き出した。その結果、作品のファンが「聖地巡礼」としてこの地を訪れるようになった。
そしてもう一つが、『青春ブタ野郎』シリーズだ。思春期特有の悩みを抱えた少年少女の不思議な日常を描いたこの作品では、鎌倉高校前駅や、隣の七里ヶ浜駅周辺が物語の主要な舞台となっている。こちらも中国、台湾、韓国などを中心に熱狂的なファンが多く、スラムダンクと合わせて、このエリアはアジアの若者にとって特別な「聖地」となっているのだ。
病院の敷地でやりたい放題
しかし、その「聖地」で繰り広げられているのは目に余る光景だった。鎌倉高校前駅のすぐ近くにある「鈴木病院」の事務部長は、呆れながらこう語る。
「病院の敷地内に、踏切よりもきれいに江ノ電と海が撮れる場所があるんです。どうやら誰かがそこで撮った写真を中国のSNSにアップして拡散したらしい。その景色を撮りたくて勝手に入ってくる中国人がけっこういるんですよ。そこで撮影し、タバコを吸ったり、休憩をしているんです。
ゴミは全部置いて帰る。しかもその場所は、火気厳禁の場所の近くでもあり、ロープを張って立ち入り禁止にしても、彼らは平気で乗り越えて入ってしまいます。『なんで入ったんだ』と問い詰めると、『こっちのほうが踏切より空いているから』と訳の分からない言い訳をする始末です」
私有地への不法侵入はこれだけにとどまらない。駅近くのマンションでは、住民専用の設備を私物化するという迷惑行為も報告されている。近隣の住人がマンションの管理人から直接聞いた話としてこう語る。
「そのマンションは『マンション住人以外立ち入り禁止』と告知をして、ロープを張っています。でも、観光客の人が建物の中まで入ってきて、宅配ボックスを勝手に使うそうなんです。空いているボックスに自分たちの荷物を入れ、自分で暗証番号を設定して、観光が終わったら取り出して帰っていく。コインロッカー代わりですよ」
また、別のマンションでは壊れたスーツケースをゴミ捨て場に不法投棄されたり、コンビニのゴミをポイ捨てしたり、ということがあったという。
特に深刻なのが“白タク”問題だ。
“白タク”とは、タクシーの営業許可を取らずに、自家用車の白いナンバープレートのまま、客から金銭を受領して運行する違法行為のこと。アルファードなどのワゴン車で観光客の送迎を業とする違法な無許可タクシーが急増しているというのだ。地元の人たちの証言によると、中国系のドライバーが運転しているケースが多いようだ。
「彼らは観光客を降ろした後、迎えの連絡が来るまでそこら中に違法駐車して待機しています。駐車禁止のポールを置いてもお構いなし。個人が契約している月極駐車場に無断で停めているのも何度も見ました。注意すると、携帯電話で話しているフリをしてごまかそうとする。『すぐにどかさないと警察に通報しますよ』と言うと、片言の日本語で『ハイ、ハイ。電話が終わったら動かしますよ』と言いながら、すぐには動かさない」(前出・住人)
“白タク”運転手の巧妙で悪質な手口
七里ヶ浜のセブン-イレブンで以前働いていた元従業員は、白タクドライバーたちの巧妙な手口を明かす。
「ここの駐車場は最初の20分は無料なんですが、彼らは20分経つ前に車を一度前に出して、またバックして停め直すんです。そうすると精算機がリセットされて、また20分無料になる。これを繰り返して、駐車料金を一切払わずに長時間居座っています。店側もトラブルを恐れて、強く注意できないのが実情です。元々は一部の日本人ドライバーがやっていたのですが、それを彼らが真似して、今はほぼすべての白タクが未払い駐車をしています」
問題は未払い駐車だけではない。以前から横行していた白ナンバーの無許可タクシーに加え、ここ1年半ほどで特に目に付くようになったのが「緑ナンバー」を使った組織的な送迎ビジネスだ。
「緑ナンバー」とは、ハイヤーなどに見られる業務用自動車のことで、運転手は第二種運転免許を持っていなければならないが、無資格のドライバーも少なくないとみられる。前出の事務部長は、病院の駐車場でこんな経験をした。
「うちの駐車場に無断で停めていた緑ナンバー(事業用車両)の車がいたので、警察を呼びますよと言ったら、運転手が『それだけは勘弁してくれ』と必死に懇願するんです。よくよく話を聞いたら、彼は中国人留学生で、普通免許(第一種)しか持っていなかった。つまり、無資格運転です。結局、逃げるように去っていきました」
個人のドライバーによる違反だけでなく、その背後で無資格運転をさせている事業者の存在も疑われる。なぜ、こうした組織的な違法行為がまかり通ってしまうのか。
地元の財界関係者は、警察の“及び腰”を指摘する。
「知り合いの警察官に聞いた話ですが、彼らを取り締まるのは非常に手間がかかり面倒くさいそうなんです。まず、取り調べには必ず通訳が必要になる。しかし、警察署に通訳が常駐しているわけではない。摘発されたアジア系の外国人はすぐに『すみません』と認める傾向があるそうなのですが、中国人だけは頑なに認めないケースが多い。
そして、いざ起訴されて裁判になっても、法廷で『通訳が言っていることは、私の話した内容と違う』などと主張され、調書の信用性が争点となり、立証が困難になるケースもある、と。だから、よほど悪質なケースでない限り、見て見ぬふりをしてしまう傾向があるようです」
江ノ電はパンク状態…高校生の日常にも影響
観光客の増加は、地元の足である江ノ電にも深刻な影響を及ぼしている。わずか2両か4両編成の小さな電車は、平日でも観光客で常にパンク状態。地元の利用者が乗れないことも日常茶飯事だ。特に大きな影響を受けているのが、鎌倉高校の生徒たちだ。現役の男子生徒が打ち明ける。
「朝はちゃんと乗れるんですが、帰りは本当に大変です。ホームは観光客で溢れかえっていて、電車が来ても混みすぎてて乗れないことがよくあります。僕らの間では、乗り過ごすことを『ペナルティー』って呼んでるんですが、1ペナルティーはまあ普通です。ひどい時は2本続けて乗れない『2ペナ』もあります。部活の道具で大きなカバンを持っている時は、満員電車の中で本当に肩身が狭いです」
住民からは、悲鳴に近い声が上がっている。
「本当にマナーがひどい。歩道を大勢で占拠して写真を撮っていて、車道にはみ出さないと通れない。ゴミはそこら中に捨てるし、人の家の敷地にも平気で入ってくる。もちろん、マナーの良い観光客の方が大半なことは重々分かっています。でも、一部の心ない人たちのせいで、町全体が迷惑しているんです」(近隣に住む女性)
別の住民はこうも話す。
「この辺りはもともと静かな住宅街だったんです。それが、ここ数年で一変してしまった。観光客に来てくれるなとは言いません。でも、もう少し日本のルールやマナーを理解して、敬意を払ってほしい。毎朝、この辺りの住民は自主的に海辺や道路のゴミ拾いをしているんですよ。だから日中はきれいに見えますが、早朝はゴミが散乱してひどい状態なんです」
美しい景観と、そこに住む人々の穏やかな暮らし。観光振興という大義名分のもと、その両方が今、危機に瀕している。

観光客が海岸に残した大量のゴミ。これらは毎朝、近隣住民がボランティアで拾い集め、一ヵ所にまとめている

鎌倉高校の校門で記念撮影を行う外国人観光客

七里ヶ浜のコンビニ駐車場で待機する白タクのワゴン車。20分無料のシステムを悪用し、料金を踏み倒して長時間居座る

七里ヶ浜のコンビニ駐車場には、白タクとみられるアルファードなどのワゴン車がずらりと並ぶ。彼らはここを拠点に、観光客の送迎を行っている

運転席で待機する“白タク”の運転手。ロック板(料金未払いの際に車両を固定する板)は下がったままだ
取材・文・写真:酒井晋介