トラックステーション10年で「4割減」の衝撃! 物流危機&ニーズ増なのになぜ?――もはや民間参入は必須なのか

トラック駐車難の現実

 長距離トラックドライバーにとって、車中泊は大きなストレスである。そのため、ドライバーの労働環境を改善するには、快適に宿泊できる駐車場所の確保が重要な課題となる。

【画像】全国に広がる「トラックステーション」を見る!

 以前は路上駐車が当たり前だった。しかし近年は状況が変わり、大阪市のように路上駐車への取り締まりが厳しくなる地域も出てきた。ドライバーへの風当たりは強まっている。

 有料パーキングを探しても、大型車が駐車できる場所は限られている。仕方なく、運行先近くのコンビニエンスストアなどを回って空きを探すしかない。駐車場所の確保に苦労するトラックドライバーが続出しているのが現実である。

 こうした背景を受け、公的に整備されているのが

「トラックステーション」

である。トラックステーションは駐車場所を提供することを目的としている。本稿では、トラックステーションを巡る課題を、米国の類似施設との比較を中心に取り上げる。

トラック版「道の駅」

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神奈川県大和市にある「東神トラックステーション」(画像:(C)Google)

 トラックステーションは、主に長距離運行のドライバーに対し、駐車や入浴、食事などのサービスを提供する施設である。ざっくりいえば、宿泊・仮眠機能を備えたトラック版「道の駅」といえる。

 設置主体は全日本トラック協会などの業界団体であり、全国で現在32の拠点が運営されている。

 各ステーションの機能は拠点によって若干異なる。大型トラック用の駐車スペースに加え、入浴や食事施設を備えることが多い。半数程度のステーションには宿泊・仮眠スペースがあり、給油所を併設する施設もある。

 施設利用は原則有料である。料金は拠点により異なるが、宿泊は1泊3~4000円程度、入浴は300~500円程度が目安である。ホテルの宿泊料金高騰と比べれば、比較的リーズナブルといえる。

減少傾向にあるトラックステーション

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トラックステーション(画像:写真AC)

 トラックドライバーに必要不可欠なサービスを提供するトラックステーションだが、近年、閉鎖や縮小が相次いでいる。

 筆者(久保田精一、物流コンサルタント)の手元資料によれば、2015(平成27)年には全国で55か所が営業していた。しかし現在は32か所のみであり、10年間で

「4割」

のステーションが閉鎖された計算となる。営業を継続している拠点でも、コロナ禍をきっかけに営業時間を短縮した施設がある。

 閉鎖したステーションは主に地方都市に集中している。首都圏・中部圏・関西圏では大きく減少していない。しかし、ドライバーの働き方改革が求められるなかで、ステーションが減少しているのは意外な傾向である。

 地方都市では、大型駐車場を備えたコンビニが増え、ドライバーの選択肢は広がった。しかし長距離運行のドライバーには、原則9時間以上の連続休息が義務付けられている。そのため、短時間の仮眠ではなく、安心して長時間駐車できる場所が必要である。睡眠不足での運転は交通事故につながる大問題である。

 ドライバーが駐車場所確保に苦労している現状を考えれば、大型車を安心して駐車・宿泊できるトラックステーションは、より多く整備されるべきである。

米国のトラックステーション

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世界最大のトラックストップ「アイオワ 80」の看板。アイオワ州ウォルコットにある(画像:Marshall Astor)

 トラックステーションの将来像を考える参考として、米国における類似施設の実態を紹介する。

 なおトラックステーションは和製英語であり、本来は

「トラック・ストップ」

と呼ぶのが正しい。しかし混乱を避けるため、ここではトラックステーションと呼ぶ。

 米国でも日本と同様に、物流の主役はトラックである。トラックステーションは、ドライバーに駐車や宿泊などのサービスを提供している。日本は非営利で運営されているが、米国では複数の営利企業が北米規模でチェーン展開し、サービス競争を繰り広げている。大手として挙げられるのは、

・パイロット・フライングJ

・ラブズ・トラベルストップ

・トラベルセンター・アメリカ

である。いずれも米国とカナダに広く拠点を展開しており、パイロット社は約800拠点、ラブズ社は約600拠点、トラベルセンター社は約270拠点を持つ。

 各拠点が備える機能はケース・バイ・ケースだが、日本と比べると規模が大きく、他機能も充実している傾向がある。シャワーやレストランといった基本機能は共通だが、レストランは簡易な食堂風ではなく、有名チェーンをフランチャイズ展開していることが多い。

 燃料販売が売上に占める割合が高いため、多くの拠点に給油所が設置されている。近年はEVチャージスポットも増えている。コンビニや車両整備施設を併設するケースも目立つ。駐車スペースをネットで事前予約できる仕組みもある。日本と異なるのは

「宿泊形態」

である。米国では車中泊が前提の施設が多く、宿泊スペースは併設されていないか、隣接する宿泊施設を別途利用するパターンが多い。駐車料金は地域差が大きいが、1泊あたり10~20ドル(約1500~3000円)が目安であり、物価を踏まえればリーズナブルである。

日米の違いを生む背景

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カナダ、アルバータ州カルガリーにあるHuskyのトラックストップ(画像:Paul Jerry)

 最大手のパイロット・フライングJ社は、著名投資家ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハザウェイの投資先としても知られる。同社は2017年以降、数回に分けて株式を取得され、現在は完全子会社となっている。買収総額は約136億ドル(約2兆円)とみられる。

 現在、パイロット社は非公開企業であるため詳細な財務状況は不明だ。しかし、バークシャーが取得した2017年時点で売上高は

「200億ドル(約2.9兆円)」

に上っていた。拠点数の多さを考慮しても、高い収益基盤を有しているといえる。この収益構造は日本のトラックステーションと大きく異なる。米国ではトラックドライバー向けを中心に多様なサービスを展開し、高い収益力を確保している。

 もちろん、米国の高収益には社会環境や法制度の違いも影響している。日米とも物流の主役はトラックであるが、米国では千kmを超える超長距離輸送を、セミトレーラ主体の大型車両で行う。また、多重下請けが少なく、個人ドライバーが直接仕事を請け負う形態が多いことも、ドライバー向けサービス提供にプラスとなっている。

 高速道路料金制度の違いも大きい。日本は高速の出入りで料金が加算されるため、サービスエリア・パーキングエリアなど高速道路上の施設で駐車するしかない。しかし米国は大部分の高速道路が無料で、有料道路から自由に出入りできる。これにより一般道に降りてトラックステーションを利用するハードルが低い。

 余談だが、日本でも高速料金の上乗せを避けるケースがある。ETC2.0車載器を付けた車両が、高速をいったん降りて道の駅に立ち寄り、2時間以内に戻る場合に限り追加料金がかからない実証実験である。制度をトラックステーションに適用すれば、活性化につながる可能性がある。

 制度面では都市計画上の規制も課題だ。トラックステーションは

「高速道路インター周辺」

に設置するのが望ましい。しかし日本の都市計画法では、インター周辺が「市街化調整区域」とされ、建物建設が制限される場合が多い。この立地規制もハードルとなる。

民間主体での整備への後押しが必要

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北海道札幌市にある「札幌トラックステーション」(画像:(C)Google)

 前述のとおり、国内のトラックステーションは減少している。しかし、トラックの駐車や宿泊といった機能への需要は、今後も増えることはあっても減ることはない。

 現在の状況下で、公的なトラックステーションを公費で新設するのは難しい。そのため、需要を満たすには

「民間主導」

での整備を増やすしかない。実際、民間主体でトラックステーションに近い機能を持つ施設整備の取り組みが広がっている。その具体例をいくつか紹介する。

 大手物流事業者のセンコーは、中継輸送専用施設「TSUNAGU STATION 浜松」を整備し、その施設にシャワールームや休憩スペースを備えた休憩施設「BREAK TIME」を併設している。

 中部に本拠を置く遠州トラックは、NEXCO中日本と連携し、高速道路に直結した中継輸送拠点「コネクトエリア」を整備している。ここもトラックの駐車スペースとして活用されている。

 また、駐車スペースの「空きスペース」をシェアする取り組みも各社で進められている。トラック会社の駐車場の空きスペースを共有したり、パチンコ店などの駐車場を夜間に限り利用できるようにするなど、趣向を凝らしたサービスが展開されている。

 ドライバーが安心して宿泊できる体制を実現するには、こうした民間主導の取り組みをさらに拡充し、全国どこでもトラックの駐車・宿泊スペースを容易に確保できるようにすることが望ましい。そのためには、前述の規制上の問題をクリアするなど、政府による後押しも期待される。