いすゞ自動車【7202】株価が堅調、5年前から90%上昇 配当も好還元の秘訣は? 来期から増益ステージ、営業益6000億円へ

高値から調整続く 5年前からは90%上昇, トラック大手、世界で快走 タイ中心に新興国で高シェア, 主力のタイで販売伸びず4期ぶり減収 今期は下期から巻き返しを計画, 次の成長へ布石、投資額2.6兆円 30年度に営業益6000億円へ

いすゞ自動車【7202】株価が堅調、5年前から90%上昇 配当も好還元の秘訣は? 来期から増益ステージ、営業益6000億円へ

高値から調整続く 5年前からは90%上昇

いすゞ自動車の株価が順調です。2021年5月に本決算を公表すると、翌期(22年3月期)の業績が大幅な拡大予想であったことから買いが集まり、株価は1500円台へ急騰しました。以降もおおむね右肩上がりに上昇し、24年7月に2268.5円の高値を付けます。

その後は現在まで調整局面となっており、足元は1900円台まで下落しています。とはいえ、他の主要な自動車株も多くが足元で同様の傾向であり、いすゞ自動車が特に売られているわけではありません。また、中長期では上昇しており、5年間では90.4%値上がりしています。

【いすゞ自動車の株価チャート(過去5年間)】

・株価:1917円(2025年8月8日終値)

高値から調整続く 5年前からは90%上昇, トラック大手、世界で快走 タイ中心に新興国で高シェア, 主力のタイで販売伸びず4期ぶり減収 今期は下期から巻き返しを計画, 次の成長へ布石、投資額2.6兆円 30年度に営業益6000億円へ

出所:Tradingview

いすゞ自動車は配当水準が比較的高く、今期(26年3月期)の予想配当利回りは4.8%に達します。NISAなら現在の株価水準で1200株まで購入でき、計画どおりなら計11万400円の配当金を受け取れます。

【いすゞ自動車の予想配当利回り(26年3月期)】

・予想配当金:92円

・予想配当利回り:4.80%

出所:いすゞ自動車 決算短信

株主還元が高水準でも、気になるのは業績です。国内の自動車株は、円高やトランプ関税といった逆風も強く、事業環境の厳しさを指摘する声もあります。利益の確保が難しくなれば、配当の継続も難しくなるでしょう。

いすゞ自動車はどのような計画を立てているのでしょうか。見通しを探ってみましょう。

トラック大手、世界で快走 タイ中心に新興国で高シェア

まずは会社の概要を解説します。

いすゞ自動車はトラックやバスといった商用車の世界的なメーカーです。1916年に東京瓦斯電気工業の自動車部門として創業し、企業としては1937年に設立されました。1942年に現在の日野自動車と分離し、1949年に社名をいすゞ自動車へと改めます。

20年にはスウェーデンのボルボ・グループと提携し、同グループ傘下だったUDトラックスを取得しました。売り上げは国内トップクラスで、世界でも上位です。

【主な商用車メーカーの売り上げ(2024年度)】

・ダイムラートラック:9兆1931億円(540.77億ユーロ)

・トレイトン・グループ:8兆704億円(474.73億ユーロ)

・ボルボ・グループ:8兆602億円(5268.16億クローナ)

・パッカー:5兆496億円(336.64億ドル)

・いすゞ自動車:3兆2356億円

・日野自動車:1兆6972億円

※ユーロは170円、クローナは15円30銭、ドルは150円で換算

※いすゞ自動車および日野自動車は25年3月期、その他は24年

出所:各社の決算資料

大株主には三菱商事や伊藤忠商事といった大手の総合商社が並びます。両社とは協業関係にあり、商用車の販売を委託しています。なお、トヨタ自動車とは18年に資本関係をいったん解消しますが、21年に再提携しており、同社は三菱商事と伊藤忠商事に次ぐ株主となっています。

商用車と並ぶ主要製品がピックアップトラック(荷台を備えた大型の乗用車)です。ピックアップトラックは主に海外で展開しています。また、エンジンや部品など、完成車以外も事業範囲です。エンジンは自動車のほか、建設機械や冷凍機など、多くの産業機械に用いられます。ほかに、整備などのアフターサービスや、物流事業者向けにリースや車両管理といったソリューションも提供します。

【製品およびサービス別の売上収益(25年3月期)】

・大型・中型トラックおよびバス:8625億円

・小型トラックおよびバス:7426億円

・ピックアップトラックおよび派生車:7401億円

・エンジン:1054億円

・その他:7850億円

※その他…部品の販売、整備・サービス、中古車の販売およびコンポーネント(組み立て品)

出所:いすゞ自動車 有価証券報告書

売り上げの6割は海外で、30カ国以上でシェア首位を獲得しています。特にタイで人気が高く、ピックアップトラックで約4割のシェアを握ります。また、アフリカや中近東、中南米向けの販売も少なくありません。このように、新興国向けの販売が多いことがいすゞ自動車の特徴です。

【地域別の売上収益(25年3月期)】

・国内:1兆2754億円

・北米:2792億円

・アジア:5549億円

・その他:1兆1262億円

※北米…米国、アジア…タイ・中国・インドネシア・フィリピン、その他…オーストラリア・サウジアラビア・メキシコ・アラブ首長国連邦・コロンビア

※アジアのうちタイ:2242億円

出所:いすゞ自動車 決算短信および有価証券報告書

主力のタイで販売伸びず4期ぶり減収 今期は下期から巻き返しを計画

続いて業績を解説します。いすゞ自動車は、24年3月期にかけて大きく成長しました。国内外で販売が伸びたほか、円安や値上げが業績をけん引します。

ただし、25年3月期は一転して減収減益となりました。商用車は堅調だった一方で、ピックアップトラックは主力のタイ市場で在庫調整を主因に不振となり、総販売台数は53.9万台まで減少します(前期は66.6万台)。資材費などの上昇もあり、売上収益は前期比5.0%減、営業利益が同18.5%減となりました。

高値から調整続く 5年前からは90%上昇, トラック大手、世界で快走 タイ中心に新興国で高シェア, 主力のタイで販売伸びず4期ぶり減収 今期は下期から巻き返しを計画, 次の成長へ布石、投資額2.6兆円 30年度に営業益6000億円へ

出所:いすゞ自動車 決算短信より著者作成

販売は今期(26年3月期)にやや回復する想定です。販売台数は前期比7.8万台増の61.7万台を計画します。商用車は、国内では需要の高いAT免許対応車を増強するほか、海外でも欧州・アジアで台数増を見込みます。ピックアップトラックは、タイで在庫調整が完了することから下期を中心に回復し、通年で増加する想定です。

ただし、利益は減少を予想します。販売台数の増加や値上げが収益を押し上げる一方で、資材費の高騰や円高を見込むことなどが影響します。なお、業績予想にはトランプ関税を反映しており、営業利益ベースで160億円の下押しとなる想定です。なお、いすゞ自動車は米国で新工場を27年に稼働させる計画で、将来の関税影響は緩和が期待されます。

【いすゞ自動車の業績予想(26年3月期)】

・売上収益:3兆3000億円(+2.0%)

・営業利益:2100億円(-8.5%)

・純利益:1300億円(-7.2%)

※()は前期比

※同第1四半期時点における同社の予想

出所:いすゞ自動車 決算短信

今期の第1四半期は総販売台数が14.2万台となり、前年同四半期比12.7%増で着地します。販売はタイを含め堅調で、売上収益も7799億円(同3.6%増)と伸長しました。ただし、円高および資材費の高騰が逆風で、営業利益は572億円(同27.7%減)へ減少しました。

次の成長へ布石、投資額2.6兆円 30年度に営業益6000億円へ

いすゞ自動車は、さらに長期の計画も公表しています。31年3月期に向け、売り上げを拡大しつつ、対売り上げ・対資本で利益率の改善を図る内容です。

【主な財務目標(~31年3月期)】

高値から調整続く 5年前からは90%上昇, トラック大手、世界で快走 タイ中心に新興国で高シェア, 主力のタイで販売伸びず4期ぶり減収 今期は下期から巻き返しを計画, 次の成長へ布石、投資額2.6兆円 30年度に営業益6000億円へ

出所:いすゞ自動車 決算説明会資料

利益率の改善策の1つが事業投資です。いすゞ自動車は、31年3月期までの8年間で2.6兆円を投資します。うち1.6兆円は既存事業へ投じる計画で、生産および販売の拠点強化や商品ラインアップの拡充へ資金を振り向けます。

残る1兆円はイノベーション投資です。自動運転やカーボンニュートラルといった新技術のほか、新規事業および次世代商品の開発に注力し、成長力を強化します。当面は既存事業投資を優先させ、イノベーション投資は徐々にウェイトを高める方針です。

対資本での利益率の改善においては、株主還元も活用します。いすゞ自動車は業績の拡大から自己資本が増加しており、健全性には貢献する一方で、ROE低下の要因となります。そこで、配当性向は31年3月期まで平均40%以上を維持し、同時に自社株買いを継続することで自己資本を抑制し、ROEの改善を図ります。

高値から調整続く 5年前からは90%上昇, トラック大手、世界で快走 タイ中心に新興国で高シェア, 主力のタイで販売伸びず4期ぶり減収 今期は下期から巻き返しを計画, 次の成長へ布石、投資額2.6兆円 30年度に営業益6000億円へ

出所:いすゞ自動車 決算短信より著者作成

とはいえ、先述のとおり今期(26年3月期)は減益の計画です。利益率の改善は、27年3月期以降に持ち越されることとなります。当面は、今期の進捗が投資家の注目を集めるでしょう。

若山 卓也/金融ライター

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。