ヴィーガン向け万能つゆ開発、かつお節のうま味と香り再現 「浜弥鰹節」世界市場にも挑戦

浜弥鰹節が開発したヴィーガン向け万能つゆ「MAGI DASHI(マジダシ)」=東京都港区(佐藤克史撮影)
肉や魚介類だけでなく、卵や乳製品など動物性の食品は一切口にしない。そんな完全菜食主義者「ヴィーガン」向けに万能つゆを開発した大阪のかつお節専門店がある。創業約80年の浜弥鰹節(大阪市生野区)だ。動物由来のかつおだしのうま味と香りを独自技術によって植物性100%で再現。増加中の訪日ヴィーガンへの対応が急がれる宿泊や外食産業向けに販売を始めた。開発や販路開拓もこなす3代目社長は世界のヴィーガン市場にも挑む。

発表会で提供された試食用の湯で薄めたマジダシとうどん。かつお節のだし汁と遜色なかった=東京都港区(佐藤克史撮影)
商品名は「MAGI DASHI(マジダシ)」。「魔法のようなだし」だと伝えたかったため、「magic(マジック)」から引用した。「本気(マジ)やで」という気持ちも込めたという。原材料はしょうゆ、水あめ、砂糖、食塩など。動物性原料や着色料、化学調味料などは使っていない。湯や水で3~10倍に薄めて使う。
そば、うどんのかけ汁やつけ汁、煮物、丼物、鍋料理など用途は幅広い。7月下旬に業務用として1・8リットルサイズで販売を開始した。価格は5600円(税別)。10倍に希釈した場合だと、1リットル当たり310円程度になる計算だ。
薄めるだけで使える
浜弥によれば、ヴィーガン対応で精進料理のようにコンブやシイタケを使ってだしを作っても1リットル当たりの価格は大きく変わらない。だが、コンブやシイタケのだしは、飲食店の料理に使うにはうま味や香りが物足りなく、大抵不評だという。マジダシは薄めるだけなので使い勝手もいい。
マジダシは2015年に家業を継いだ木村忠司社長が5年をかけて開発。脂質が少ない和食は海外でも「ヘルシーな食事」として人気が高い。しかし、和食の基本であるだしをかつお節で作ると、ヴィーガンには敬遠されてしまう。ニーズがあるのに届けられないジレンマが背中を押した。試行錯誤を繰り返した木村社長は、「世界初のヴィーガン用万能つゆだと思っている」と熱く語る。例えば、砂糖は熱するとにおいが出てくる。そんな反応を取り込んでカツオのにおいを再現した。
需要も膨らむ。年間3600万人を超える訪日外国人のうち、ヴィーガンは300万人と推定される。10年代後半から倍増した。全体に占める割合は1割に満たないが、ヴィーガンを含む数人のグループが和食目当てに店を訪れた場合でも、店が対応できなければ、全員で一緒に食事ができないと入店を諦めるケースもあるという。想定以上にヴィーガン未対応の損失は大きい。今後、対応店は増えるとみられ、国内ヴィーガン市場は33年に24年比2・25倍の4320億円に拡大するとの試算もある。

浜弥鰹節の木村忠司社長=東京都港区(佐藤克史撮影)
人気うどんチェーン店が採用
既に東西で人気のうどんチェーン「つるとんたん」がマジダシを使い始めている。現在、9月にマジダシを使った料理を新メニューに加えようと試作中だ。安冨敬三総料理長は「最近、ヴィーガン対応についての問い合わせが多い。われわれも対応していかないといけない」と話す。他にも、星野リゾートや老舗高級料亭「なだ万」の一部店舗などが採用を決めた。
一般向けにも、11月1日の「世界ヴィーガンデー」に合わせ300ミリリットルサイズのマジダシを販売する。価格は千円前後の見込み。海外展開も視野に入れており、10月にドイツで開催される世界三大食品見本市の一つ、「ANUGA(アヌーガ)」に出展。来年1月にはドバイの食品見本市「Gulfood(ガルフード)」に参加する。国内外で知名度を上げ、25年9月期の一部と26年9月期を合わせた販売初年度(15カ月)に4千本(1・8リットル換算)を売るのが目標だ。

創業約80年の浜弥鰹節。NHK連続テレビ小説「てっぱん」のモデルとなったかつお節専門店だ=大阪市生野区(佐藤克史撮影)
木村社長は「健康志向の高まりや、動物福祉への関心の増加、畜産業が地球温暖化に与える影響への問題意識などを理由にヴィーガンは世界中で増えている」と指摘。「(和食の)ヴィーガンメニューの提供もスタンダードになる。仕掛けていきたい」と意欲を示す。粉末や粒状タイプも開発し、28年9月期にマジダシ事業で8千万円の売り上げを目指す。(佐藤克史)