「生活が苦しい」シニア世帯は5割超え【70歳代】平均貯蓄額・年金額・生活費まで高齢者の暮らしを深掘り
【貯蓄額の「平均と中央値」のギャップが示す二極化】貯蓄不足がわかったら今すぐ行うことは?
「生活が苦しい」シニア世帯は5割超え【70歳代】平均貯蓄額・年金額・生活費まで高齢者の暮らしを深掘り
物価高が止まりません。8月に値上げされる食品は約1000品目に上り、前年を上回るハイペースで進んでいることに驚きを隠せません。
多くの世帯は毎月ほぼ決まった額で生活しているので、食費の負担が多くなれば、他の支出を減らすことになります。他の支出が減らせなければ、家計は赤字となります。年金暮らしの方にとっては、生活が厳しいと感じる場面も多くなっているのではないでしょうか。
そこで今回の記事では、70歳代の貯蓄額や年金額を確認しながら、シニア世帯の生活ぶりを深堀りしていきます。これから年金を受け取る方にとっては、老後の資金計画を立てるときの参考にしていただければ幸いです。
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生活が苦しいと感じる70歳代夫婦は「55.8%」
70歳代の生活状況を確認するために、2025年4月に公表された厚生労働省の資料「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」より、70歳代夫婦世帯の「生活意識の状況」について見ていきましょう。
生活意識の状況
・大変苦しい:25.2%
・やや苦しい:30.6%
・普通:40.1%
・ややゆとりがある:3.6%
・大変ゆとりがある:0.6%
「大変苦しい」「やや苦しい」と感じている方は合わせて55.8%に上り、半数以上の方が生活の厳しさに直面していることがわかります。
また、「ややゆとりがある」と回答した人は3.6%、「大変ゆとりがある」と回答した人は0.6%で、生活に余裕を感じているのは100人に4人程度です。
ひと昔前であれば「リタイア後は趣味や旅行をしてゆっくり過ごす」が決まり文句のようになっていましたが、令和になった現在では、そうも言ってはいられない状況なのかもしれません。
70歳代・生活費の収支は?
では、実際の70歳代の家計はどうなっているのでしょうか。ここからは、総務省の「家計調査年報(家計収支編)2024年」のデータより、70歳代の家計状況を確認していきましょう。
二人以上の世帯のうち65歳以上の無職世帯の家計収支
【70~74歳】
・実収入:27万5420円
・うち社会保障給付:21万7558円
・可処分所得:24万596円
・消費支出:26万9015円
【75歳以上】
・実収入:25万2506円
・うち社会保障給付:20万7623円
・可処分所得:22万1948円
・消費支出:24万2840円
70〜74歳の夫婦世帯の実収入は約 27万5420円で、うち年金額にあたる「社会保障給付」は約21万7558円です。また75歳以上の実収入は約25万2506円で、年金額は約20万7623円となっています。
一方、月の支出(消費支出)は70〜74歳で26万9015円、75歳以上で24万2840円で、実収入から非消費支出を引いた「可処分所得」を上回っています。そのため、どちらの年代にも約2万8419円、約2万892円の赤字が生じています。
高齢者世帯の多くは、年金だけでは生活費をまかなえていない可能性があります。別の収入源を確保する、もしくは貯蓄を切り崩して生活費の補填をする必要があるかもしれません。
70歳代・貯蓄額はいくら?平均と中央値のギャップが示す二極化
年金だけでは生活できない場合、足りない生活費は貯蓄から補填することになります。しかし、十分な貯蓄が無ければ、赤字を補うことができません。
では、70歳代が保有している平均的な金融資産はいくらなのでしょうか。「家計の金融行動に関する世論調査 2024年」から確認してみましょう。
【70歳代】二人以上世帯:金融資産保有額階層ごとの世帯割合
【70歳代の金融資産保有額(二人以上世帯・金融資産を保有していない世帯を含む)】
・平均値:1923万円
・中央値:800万円
金融資産保有額ごとのパーセンテージを具体的に見ていきましょう。
・金融資産を保有していない:20.8%
・100万円未満:5.4%
・100~200万円未満:4.9%
・200~300万円未満:3.4%
・300~400万円未満:3.7%
・400~500万円未満:2.3%
・500~700万円未満:4.9%
・700~1000万円未満:6.4%
・1000~1500万円未満:10.2%
・1500~2000万円未満:6.6%
・2000~3000万円未満:8.9%
・3000万円以上:19.0%
(非回答:3.5%)
70歳代の夫婦世帯における金融資産の平均は約1923万円、中央値は800万円となっていますが、注目したいのは中央値の方です。
中央値は調査した全世帯の真ん中に位置する値なので、中央値が800万円ということは、半数の方の金融資産保有額は800万円以下であることを示しています。
また、金融資産を保有していない世帯が20.8%で、およそ5人に1人が貯蓄を保有していません。一方、3000万円以上保有する世帯は19.0%となっており、保有資産額においては二極化している現状も見えてきます。
貯蓄不足がわかったら?今すぐ行うこと
老後を暮らしていく上で貯蓄不足が分かったら、行うべきは支出の見直し、収入を得る方法を検討することです。
とはいえ、既にリタイアした方が、新たに収入を得たり、大きく増やしたりするのは難しいのが現状です。既に支出の見直しを行っていて、生活が苦しい場合は行政に相談したり、自分が利用できる公的制度が無いか確認してみるのもひとつの方法です。
リタイア前の世代で将来的に老後資産が不足する世帯は、以下の選択肢を検討してみましょう。
・できるだけ長く働き、できれば厚生年金に加入する
・繰下げ受給を活用する
・付加年金を活用する(※国民年金加入者)
・定期預金に預ける、国債を購入する
・iDeCoやNISAなどで資産運用をおこなう
・家計を管理するノウハウを今から身に付けておく など
加齢とともに健康不安も増してくるのが、シニアの悩みではありますが、健康で働けるうちは、可能なかぎり働くことをおすすめします。貯蓄を大きく減らさずに生活ができるほか、厚生年金の加入期間も延び、将来の年金額も増加します。また、賛否はあるものの、繰り下げ受給も選択肢に入るでしょう。
自分が働く以外ではお金に働いてもらうという方法もあります。今まではメリットの少なかった定期預金や個人向け国債も、金利上昇によって選択肢に入るようになりました。
とくに変動10年の個人向け国債は、金利情勢に合わせて金利が見直されるのがメリットです。リスクも低いので、安全性を重視したい方は検討してもよいかもしれません。老後まで時間のある現役世代の方は、iDeCoやNISAを利用して長期投資を目指してみるのもよいでしょう。
国民年金の加入者は、国民年金基金や付加年金の加入を検討してみてください。とくに付加年金は月々400円で「200円×付加保険料納付月数」が年金に上乗せされ、上乗せ自体は一生涯続くのがメリットです。
まとめにかえて
今回の記事では、70歳代の夫婦世帯にスポットを当て、貯蓄額や年金額などから、その生活ぶりを探ってみました。
半数以上の方が生活に苦しさを感じており、その背景には収入の大半が年金頼りであること、物価高により支出が増えたこと、赤字を補填するには少ない貯蓄額などが挙げられます。
多くの方にとって年金は生活の柱であることから、未納がある方などは可能な限り追納するほか、できるだけ長く働いて収入を増やすことも必要になるかもしれません。
将来にいくら必要になるかは、個々のライフスタイルによって異なります。まずは公的年金の支給予定額や、将来のシミュレーションを通じて、必要となるお金を計算してみてはいかがでしょうか。
参考資料
・厚生労働省「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」
・総務省「家計調査年報(家計収支編)2024年」
・J-FLEC「家計の金融行動に関する世論調査 2024年(二人以上世帯・各種分類別データ)」