トランプの「ビットコイン大国」構想で、1BTC=1億円は現実になるのか?

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アメリカの仮想通貨政策に、いま地殻変動が起きている。トランプの「ビットコイン大国」宣言に象徴されるように、アメリカ政府は暗号資産を買い集め、覇権国家の座を狙いにきているのだ。アメリカが熱視線を送るビットコインの未来図を追う。※本稿は、小田玄紀『デジタル資産とWeb3』(アスコム)の一部を抜粋・編集したものです。

トランプ氏の鶴の一声で

ビットコイン市場が沸く

「アメリカをビットコインの超大国にする」

 2025年1月に第47代アメリカ合衆国大統領に再び就任したドナルド・トランプ氏は、こう宣言しました。

 選挙戦中から「暗号資産の主要ハブにする」と語り、テスラやXの経営者であるイーロン・マスク氏をはじめ、暗号資産支持派が側近や主要閣僚に入っています。

 共和党のシンシア・ルミス上院議員が提出した「ビットコイン法案」では5年で100万BTC(編集部注/Bitcoinの略。その通貨単位として使われる)を購入し、準備金として備蓄することが示されています。

 暗号資産にポジティブなトランプ大統領の政策に市場は鋭く反応し、大統領選の終了後、ビットコインは10万ドルを超えて最高値を付け、さらに就任前には10万9000ドルとさらに最高値を更新しました。

 ところが一方で、トランプ大統領がその後発表した関税政策に金融市場は警戒感を示し、ビットコイン価格が急落するといった動きも起きています。

 こうしたビットコイン関連のニュースを目にする機会が増え、昨今は暗号資産に大きな注目が集まっていることを、皆さんも感じているのではないでしょうか。

世界中でビットコインが

国家レベルの議題に

 アメリカに限らず、スイスやブラジルでも国がビットコインを保有する案が検討されており、日本でも暗号資産の売買益に対する課税方式を、現在の雑所得に対する総合課税から、株などと同じ分離課税へと変更する議論が行われています。

 もちろん、ビットコインをはじめとした暗号資産に対する世間の意見は様々です。値動きが激しすぎて危ない、単なるデータにそれほどの価値があると思えない、トランプ大統領の発言や国の動きひとつで暴落するかもしれない、というネガティブな声も少なくありません。

 本記事を読んでくださっている方も「そもそも、ビットコインにはどのような価値があって世間は騒いでいるのか」と感じることがあるのではないでしょうか。

 ビットコインは誕生してからわずか15年しか経っていませんし、前例もないのですから、その信頼性に疑問が生じるのは仕方がないことです。投機的な目的で売買され、本質的な価値以上の値動きが起きてしまっているのは事実だと思います。

 とはいえ、極端な値動きやかつての「億り人ブーム」のような表面的なニュースにだけ目を向けていると、「そもそも暗号資産とは何か」という本当の価値や意味を見誤ってしまいます。バブルのように激しく値動きする一方で、この15年間、着実に上昇してきた本質的な価値があるのです。

開発からわずか15年で

メタ社と肩を並べる

 1位が金(ゴールド)、2位がアップル、3位がマイクロソフト、4位がエヌビディア、5位アルファベット(グーグル)、6位アマゾン、7位に銀(シルバー)、8位にサウジアラムコ、9位メタ(フェイスブック)と続き、10位にビットコイン。

 これが何のランキングかお分かりでしょうか?

 これは、CompaniesMarketCap社による主要な金融資産の時価総額ランキングです(2025年3月20日時点)。

 10位にランクされたビットコインは時価総額1.5兆ドルで、メタの株式とほぼ同等となっています。ちなみに暗号資産のイーサリアムは2400億ドルで50位につけています。

同書より転載

 時価総額の算出根拠の違いなどはありますが、この金額を見る限りはビットコインとイーサリアムはれっきとした資産としての地位を築いていることがわかります。

 また、CompaniesMarketCap社のデータ(2025年3月20日)では、世界全体での暗号資産の市場規模は約409兆円です。

 日本の上場企業株式の時価総額が957兆円(2025年2月末時点)なので、その半分近くになります。24時間の取引額も約20兆円に達し、日本の株式市場(日本取引所グループ)の1日の平均取引高5兆円(2023年度)をはるかに上回ります。

同書より転載

 こうした大きな数字を並べられてもピンとこない方もいるでしょう。

 ただ、ビットコインが2009年1月に生成され、翌2010年に初めてピザ2枚の購入に使われたときは1BTC=0.6円ほどでした。それが15年ほどで一時1BTC1700万円に至ったのですから、その間の成長率は実に2800万倍です。すさまじい速度で価値を高めてきたことがわかります。

 しかし一方で、疑問も湧いてきます。

 本当に今後数十年以上、価値が維持あるいは向上するのでしょうか?

 一時のバブルで終わる危険はないのでしょうか?

ビットコインは金のような

価値を持ちはじめた

 正直に言えば、未来のことは誰にもわかりません。ただビットコインなどの暗号資産に関しては、「資産のデジタル化」という観点では今後も価値を高めていくはずです。

 私にも、明日、明後日の値動きは予想できませんが、5年ほどのタームではある程度の予測は立ちます。2030年頃には1BTC=5000万円~1億円ほどの価格になるだろうという見解を持つ専門家やアナリストも少なくありません。

 有識者のものとはいえ、あくまで予測は予測でしかありませんが、各々が説得力のあるロジックで推論を立てているため、期待はできます。

 とても現実的には思えないかもしれません。しかし金に替わるデジタル資産として役割を確立し始めたことを考えれば、荒唐無稽な話ではないのです。

 アメリカの財務省は、「ビットコインは分散型金融における価値の保存に使われるもので、デジタルゴールドのようだ」との見解を報告しています。FRBのパウエル議長も「ビットコインの競合は金」と述べているように、金に近しいものであるという視点はビットコインの価値の理解において重要です。

 そもそも資産というのは経済的な価値があるものの総称です。その中で、とりわけ金の価値が高いのはなぜでしょうか。

 様々な要因があるので、ここではザックリとした説明にとどめますが、まず埋蔵量が決まっていて希少価値があるからです。それから、アクセサリーや電子機器、はたまた投資と用途が多彩であること。そして誰もが売買しやすく換金性が高いこと。紀元前からの歴史があること。企業の業績や地政学的リスクに価格が左右されにくいこと、などが挙げられます。

 加えていうなら、金という実物がちゃんと現実にある、ということも信用に足る理由でしょう。

 金も最初からいまほどの値が付いていたわけではありません。1995年から2024年の30年間だけを切り取っても、1グラム約1200円から約1万2000円へと、実に10倍もの値上がりをしています。この間に様々な経済不安や金融危機が起きるたび、安全資産としての金の価値が高まってきたのです。

 その金と同じ役割を、デジタル資産であるビットコインが担おうとしている、まさに分水嶺(ぶんすいれい)がいまです。

キャッシュレス社会の到来で

現物資産の幻想が崩れ始めた

 ここで、装飾品や電子機器などに利用できる金と、ほとんど実際的な利用方法のないビットコインでは価値が違う、と考える人もいると思います。たしかに、ビットコインは決済手段としての機能はほぼ果たしていません。

 しかし金も産業利用されるのはごく一部であって、価値の大部分は安全資産の面にあります。個人で金塊を持っていても何の役にも立たないのに保有しているのは、安全資産だからです。

 同じように、ビットコインが安全資産だという認識が広がれば、国や機関投資家が大量にポートフォリオに組み込み、簡単には売却しなくなるでしょう。そうなれば金に比肩するほどの価値になり、ある程度は値動きも安定するはずです。だからいまアメリカが大号令をかけている意味は極めて大きいのです。

 ビットコインは、人間がプログラムしたデータですから、金塊を手にするような安心感はないかもしれません。ですがブロックチェーンという仕組みの発明によって、そのデータが唯一無二で間違いのないものだと証明できるようになっているため、現金や現物に劣らないとする見方もあります。

 考えてみれば、私たちも現金をそのまま金庫に入れていることはほぼなく、大部分は銀行などに預けています。株や外貨への投資もスマートフォンひとつでできるようになりました。

 日常生活でも電子マネーの利用が当たり前になり、キャッシュレス化はどんどん進んでいます。日本円の現物を持ち歩かず、貯蓄も円だけでなくドル建ての投資信託などに変えている人が増えてきました。

 NFT(編集部注/ブロックチェーン技術をもとに作られた、世界に1つしかないデジタルデータ)という形でアートや権利をデジタルの形で所有することもできます。

 電子化の壁も国境も軽々と越えていく世代にとっては、デジタル化されたものの存在感は日増しに強まっており、これから「デジタル資産」の時代になっていくことは自然なことなのです。

『デジタル資産とWeb3』 (小田玄紀、アスコム)