信号待ちでの「Nレンジ」は必要ナシ!! 燃費悪化や事故にも繋がる間違った「N」の使いかた

信号待ちでの「Nレンジ」は必要ナシ!! 燃費悪化や事故にも繋がる間違った「N」の使いかた

 かつて都市伝説のように語られた「AT車は信号待ちでシフトをN(ニュートラル)に入れたほうがいい」という話。あれは最近の自動車ではまったく意味のない行為であるという。無意味なばかりか危険を誘発する「Nの悲劇」とは!?

※本稿は2025年7月のものです

文:吉川賢一/写真:ホンダ、AdobeStock ほか(トップ画像=Kiroku_to_Kankaku@AdobeStock)

初出:『ベストカー』2025年8月10日号

【画像ギャラリー】よくある過ち……「N」の悲劇!! AT車の信号待ちでニュートラルに入れてはいけない理由(6枚)

信号待ちでの「Nレンジ」は無意味!

「Nなら燃費がよくなる」など、誤った認識を持ちがちな「N」。ドライバーを惑わせる悩ましい存在だ。「悩ましい」の「N」か?(あんみつ姫@AdobeStock)

 AT車は信号待ちで、シフトをN(ニュートラル)に入れたほうがいい――そんな話を聞いたことがあるだろう。

 ニュートラルのほうが燃費はよくなる、などの理由で推奨する声もあるが、実は、現代のAT車ではニュートラルに入れることは意味がないばかりか、リスクがある行為。信号待ちなどで「N」に入れないほうがいい理由について紹介していこう。

「N」での信号待ちは燃費を悪化させる

 エンジン(モーターも含め)の動力を駆動系に伝えるDレンジやRレンジとは違い、Nレンジは、選択することでエンジンと駆動系が完全に切り離された状態となる。

 そのため、アクセルペダルをいくら踏んでもクルマは前進も後退もしない。

 駆動系とエンジンが切り離されることで、燃費がよくなるハズだ、と考える人がいるようだが、それは昭和の時代のクルマの話。

 昨今のクルマには、アイドリング中の燃料消費を低減する「ニュートラルアイドル制御」といわれる、Dのままでも以前ほど燃料消費をしないシステムが採用されている。

 Nでは、Dと違って燃料カットは入らないため、アイドリング維持の燃料を使ってしまう。

 Dに入れてブレーキを踏んで待機している状態は、トルクコンバーターに負荷がかかるため、燃料カットの制御が搭載されていなかった時代のクルマであれば、Nのほうが燃料消費を抑えられるかもしれないが、現代のクルマでは、むしろ逆効果だ。

下り坂でNにしても燃費はよくならない

 また、Nレンジと燃費に関しては、下り坂でNにすると燃費がよくなるという説もあったが、こちらも同様。エンジン負荷が低い下り坂の走行中は、Dだと燃料カットの制御が入るので、エンジンは回転を続けていても、ガソリンは消費されない。

 そればかりか、Nに入れるとエンジンブレーキが使えないためにフットブレーキを使い続けることになり、フェード現象やベーパーロック現象に陥ってしまうおそれがある。

ハイブリッド車では回生充電されない

ハイブリッド車の場合、Nレンジでは回生充電がされないというデメリットも

 さらにハイブリッド車の場合は、Nレンジでは回生充電がされないというデメリットがある。

 ハイブリッド車は減速時に、Dに入れていれば回生ブレーキが働き、バッテリーに電力が充電されるが、Nでは回生ブレーキが利かないため充電されず。停止中も、発電するためエンジンが回転していたとしても、Nではバッテリーに充電されない。

 電力で走行する時間が長いほど燃費は改善されるので、充電できないNで減速すると、燃費が悪くなる要因となってしまいがちだ。

誤発進につながるおそれもある!

Nに入れているのを忘れ「あれ? 動かないぞ?」と慌ててDに入れて急発進! という危険もある(One@AdobeStock)

 また、信号待ちでNレンジに入れることは、誤発進につながってしまうおそれもある。

 信号待ちでNに入れたあと、Nであることを忘れてアクセルを踏み、クルマが進まないことでNであることに気づいて慌ててDに入れてクルマが急発進! 特に高齢ドライバ―にはありがちなので注意したい。

 昨今のクルマは、急な飛び出しをしそうになった際、エンジンやモーターなどのパワーシステム出力を抑制することで急発進を防止する「誤発進抑制機能」が搭載されるものが多いが、装置の付いていない古いクルマの場合もある。

 そもそもNに入れる必要性がないため、やはりN状態での信号待ちはオススメできない。

「オートブレーキホールド」を活用しよう

 また、Dレンジに入れて「信号待ちでブレーキペダルを踏み続けることが頻繁に起こると、右足が疲れる」というケースもある。

 こういう時は、「オートブレーキホールド」搭載のクルマなら、積極的にこの機能を使おう。ブレーキペダルから足を離してもブレーキをかけた状態を維持してくれるのでかなり便利だし、誤発進のリスクがあるNを、わざわざ使わなくてもいいだろう。

 以上のように、Nを信号待ちで使うべき明確な理由は、少なくとも現代のクルマにはない。

 では今のAT車のNレンジは、どんな時に使うために設定されているのかというと、それは緊急事態に対応するため。詳しくは次項を見ていただきたい。

 と、ここまで述べてきたように、信号で停止する際はDで待機し、長くなりそうな場合はNではなく、「オートブレーキホールド」を利用するか、Pを活用するようにしよう。

「N」レンジが必要なのは……緊急事態に対応するため!

クルマが自力で動けなくなった時、Nレンジに入れておくとレッカー移動や人力での移動ができる(Jo Panuwat D@AdobeStock)

 たとえば、故障などでクルマが自力で動けなくなった時。駆動系から切り離されたNレンジが設定されていると、レッカー移動ができたり、人力で押したりするなどで、クルマを動かすことができる。

 また、ドライバーが体調不良などで意識を失い、アクセルペダルを踏みっぱなしになってしまった緊急事態でも、助手席側からNレンジに入れることで、速度が上がっていってしまうのを防ぐことができる。

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