「メジャー6人目」ゴルフ日本女子選手はなぜ強い?

優勝トロフィーにキスをする山下美夢有(写真: Warren Little/Getty Images)
日本人選手では6人目
24歳のプロゴルファー、山下美夢有(やました・みゆう)が、イギリス・ウェールズのロイヤルポースカールゴルフクラブ(Royal Porthcawl Golf Course)で行われた、女子のメジャー大会「AIG全英女子オープン」(7月31日~8月3日開催)で優勝した。
【写真で見る】優勝した山下に駆け寄る日本人選手たち
山下は、今年からアメリカ女子ゴルフツアー(LPGA)に参戦。同ツアーでの初優勝は、海外メジャー大会の制覇だった。
大会4日目の最終日、2位に1打差の9アンダーの首位でスタートした山下は、持ち前の安定したドライバーと、精度の高いセカンドショット、アプローチショット、的確なパターでスコアを伸ばし、2位に2打差をつける11アンダーで優勝。子どものころから夢見ていた、海外メジャーの優勝を手繰り寄せた。
日本女子選手の海外メジャー大会制覇は6人目で、全英女子オープンは2019年の渋野日向子に続き2人目。今シーズンは4月に開催された海外メジャー第1戦の「シェブロン選手権」で、同世代の西郷真央が優勝した。
また、AIG全英女子オープンでは2位タイに勝みなみ、4位タイに竹田麗央が入り、日本女子の強さを印象付ける大会となった。
1試合で日本の「年間」賞金女王超え
今年の全英女子オープンで注目されたのは、その金額の高さだ。
賞金総額は過去最高となる975万ドル(約14億6250万円※1ドル=150円換算、以下同)で、山下が獲得した優勝賞金も過去最高の146万2500ドル(約2億1937万円)だった。この金額は、山下が2023年に日本女子ゴルフツアー(JLPGA)で賞金女王になったときの年間獲得賞金(2億1355万円)を、たった1試合で上回る額だ。
ちなみに、2位タイの勝みなみも83万3480ドル(約1億2502万円)、4位タイの竹田麗央も48万7983ドル(約7319万円)と、高額の賞金を獲得している。

竹田や西郷など、一緒に闘った日本人選手が山下を祝福した(写真:Warren Little/Getty Images)
2019年に優勝した渋野日向子の賞金は、67万5000ドル(約1億125万円)。今回の優勝賞金はその2倍以上になっている。
AIG全英女子オープンの賞金がこれだけ上がった背景にあるのは、2019年にアメリカの保険大手AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)がタイトルスポンサーになった、ということが挙げられる。
実際、2018年までは賞金総額が325万ドル(約4億8750万円)だったが、渋野が優勝した2019年には450万ドル(約6億7500万円)となり、その後は、2020年450万ドル(約6億7500万円)、2021年580万ドル(約8億7000万円)、2022年730万ドル(約10億9500万円)、2023年900万ドル(約13億5000万円)、2024年950万ドル(約14億2500万円)。今年は2018年の3倍になっている。
全英女子オープンに限らず、LPGAの賞金総額は右肩上がりだ。特にメジャー大会は金額が膨れ上がっていて、今年5月開催の「全米女子オープン」は1200万ドル(約18億円/優勝賞金240万ドル:約3億6000万円) 、6月開催の「KPMG全米女子プロ」は1200万ドル(優勝賞金180万ドル:約2億7000万円) で、全英以上だ。
LPGAの賞金がアップしている理由の1つは、世界では男女平等の推進がスポーツ界全体で進んでいることが挙げられる。テニスの4大大会(ウィンブルドンほか)も、陸上競技の世界陸上も男女賞金は同額だ。
とはいえ、そのなかでゴルフはまだまだ男女差が大きいスポーツだ。
例えば、男子ゴルフツアー(PGAツアー)はLIVゴルフの登場によって、とんでもない高額が支払われるようになった。
LIVゴルフはグレッグ・ノーマンが主体となって2022年に創設された、サウジアラビア系ファンド(PIF)が支援する新しいツアーだ。3日間・54ホールで競技することから、54を表すローマ数字「LIV」が名前の由来となった。
1試合当たりの賞金総額は2000万ドル(約30億円)で、優勝賞金は400万ドル(約6億円)。フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソン、ブライソン・デシャンボーなど、歴代のメジャー大会チャンピオンがPGAツアーを離れ、移籍した。
LIVほどではないが、PGAツアーの金額も相当なものだ。
2025年メジャー大会の賞金総額は、4月開催のマスターズが2100万ドル(約31億5000万円)で、優勝賞金が420万ドル(約6億3000万円)。5月開催の「全米プロ」は1900万ドル(約28億5000万円)/342万ドル(約5億1300万円)、6月開催の「全米オープン」が2150万ドル(約32億2500万円)/430万ドル(約6億4500万円)、7月開催の「全英オープン」が1700万ドル(約25億5000万円)/310万ドル(4億6500万円)だ。
これを見てもわかるように、まだまだ男女の格差はある。だが、コロナ禍以降、アメリカでは女子ツアーの人気が上がってきており、スポンサー契約が増加。それも賞金の上昇につながっている。
2025年LPGA賞金総額は、ツアー史上最高額となる1億3100万ドル(約196億5000万円)で、JLPGAの賞金総額44億円の約4.5倍である。
日本人選手が強くなったワケ
話を女子ゴルフに戻そう。
2025年、アメリカに主戦場を変えたのは、先に挙げた山下や竹田のほか、双子の岩井明愛(いわい・あきえ)、千怜(ちさと)姉妹もそうだ。そして今、13名の日本人プレーヤーが挑戦している。
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参戦する選手の平均年齢は23歳で、1998年生まれで“黄金世代”と呼ばれる畑岡奈紗、渋野、勝がすでに年長である。今回優勝した山下のほか、竹田、西郷、岩井千怜が今シーズン優勝している。
これだけ多くの日本女子選手が挑戦して、実績を上げているのは、宮里藍の影響が大きいと考えられる。
宮里は、2003年に18歳でミヤギテレビ杯にアマチュア優勝、2004年のプロ入り1年目で5勝し、女子プロゴルファーブームを牽引した。2006年からアメリカツアーに本格的に挑戦した。彼女に憧れて、ゴルフを始めたジュニアも多く、その世代がプロ入りしている。
もう1つ、日本人女子選手が強くなった理由は、日本ゴルフ協会(JGA)がジュニア選手の育成に成功したことだろう。
2015年、JGAのナショナルチームのヘッドコーチに、オーストラリア・ナショナルチームコーチであるガレス・ジョーンズ氏を招聘。最先端のプログラムでナショナルチームを強化し、世界と伍して戦える選手を育成した。
山下はナショナルチームには入れなかったが、勝、畑岡、古江彩佳らはジョーンズ氏の指導を受けた。
JLPGが3日間競技から世界のスタンダードである4日間競技を増やし、世界で戦える選手競技レベルを上げていったことも見逃せない。
パリ五輪4位で「涙」からの復活劇
さて、山下だ。
山下といえば、2024年に行われたパリオリンピック・パラリンピックのゴルフ代表だ。表彰台に1打及ばず4位となり、涙をのんだ。JLPGAの小林浩美会長のねぎらいに、涙を流した姿を覚えている人もいるのではないだろうか。
山下がアメリカ挑戦を決めたとき、その理由について年末のJLPGAの表彰式で「レベルの高い選手がたくさんいる。そのなかでもっと自分のレベルを上げていきたい。オリンピックに出て、結果はあまり良くなかったけれど、海外の試合で優勝したい」 と話した。
今回、優勝後の凱旋帰国による日本記者クラブの会見では、賞金の使い道について「本当に何も特に考えていなくて」と答えた山下。今後の目標については、「メジャーはとれたが、ほかのメジャーでも優勝したい。出れる試合は優勝を目指す。世界ランキング1位になれるように頑張りたい」と明確な目標を語った。
身長150センチと小柄な山下。大柄な海外勢のなかではひときわその小ささが目立つ。だが今回、彼女の優勝を見て、ゴルフというスポーツでは体格以上に技術力がものを言うことが明らかになった。勇気をもらえたジュニアも多いのではないだろうか。
そのジュニアへ山下はこうエールを送った。
「(自分は)大きくなく飛距離も出ない。でも、技術面では戦えると思ったので、ショートゲームやショットの精度を上げれば絶対優勝できると思った。そういった練習をすれば海外でも活躍できると思う」
山下の優勝で、ますます女子プロゴルフに目が離せなくなった。山下を始め多くの日本人選手の今後の活躍に期待したい。

難コースを制した山下(写真:Oisin Keniry/R&A/R&A/Getty Images)