ヨシムラが空冷125cc単気筒という制限のなかで目指したのは『楽しいマフラー』

ヨシムラが空冷125cc単気筒という制限のなかで目指したのは『楽しいマフラー』

ヨシムラジャパンといえば、これまでにモトメガネで試乗・インプレッションをお伝えしたZ900RSや、スーパースポーツGSX-R1000Rなど、やはりスポーツバイク、ビッグバイクのイメージが強い。けれどこのところ、あるカテゴリーのファンから熱視線も浴びている。それが「ミニバイクファン」たちだ。

ミニバイクの定義がはっきりと定められているわけではないが、125cc未満の原付一種/二種のクラスのバイクを指すことが一般的。なかでも50cc以上125cc未満の原付二種クラスは、二段階右折が不要、一般道もクルマと同じ速度で走ることができ、維持費も安いことから、セカンドバイクとして所有している人も多い。

今回は、その原付二種の中でも人気の高いモンキー125用に開発された、ヨシムラのサイクロンマフラーを紹介しよう。マフラーを変えただけでノーマルとはまったくの別物に変化したのだ!

撮影/森浩輔 文/中村浩史

ヨシムラ=ビッグバイクのイメージ、でも実は……

ヨシムラといえば世界耐久選手権や全日本ロードレースに代表されるロードレース、そしてヨシムラサイクロンを中心としたパーツによるマルチエンジン、ビッグバイクのチューニングというイメージが強い。

モンキー125と同じく人気モデルのDAX125用ヨシムラサイクロンも発売中。写真はGP-MAGNUMサイクロンType-DOWNステンレスカバー:5万8000円(税別)。

けれどじつは、シングルエンジンのチューニングパーツもリリースするし、ミニバイクだって手がけている。遅くとも80年代初頭には、ホンダ・モンキーをはじめとするミニバイクのチューニングパーツもラインアップしていた。

サイレンサーは、ステンレスカバー/サテンフィニッシュカバー/チタンブルーカバー/カーボンカバーの4種類がラインアップされている。写真はチタンブルーカバー。

ヨシムラロゴが誇らしげにあしらわれるシリンダーヘッドカバーのアクセサリーパーツであるアルミヘッドサイドカバー:1万1000円(税別)。

当時はキャブレターキットやハイカム、エンジン内部パーツも販売され、マルチエンジンやビッグバイクだけでなく、ミニバイクにもヨシムラパワーを注入できたのだ。エンジンチューンに関しては排気量の大小は関係なく効果が実感できるし、ミニバイクならではの手軽さもあって、ヨシムラのエンジンパーツでエンジン構造を学んだ、というファンも多かったはずだ。

エンジンコンディションをリアルタイムで管理できるPRO-GRESS1テンプ・ボルトメーター:8400円(税別)。油温と電圧表示をボタン操作で切り替えられる。

クラッチカバー側のドレスアップカバー、エンジンケースガードKITクランクケースカバー:1万5000円(税別)。## モンキー125に込めた“ミニバイク愛”

「ビッグバイクはもちろん、ヨシムラではミニバイク用パーツも継続的にリリースしています。原付二種を中心にミニバイク人気が高い現在では、ヨシムラのパーツラインアップの中でも、125ccモデルを中心としたミニバイクパーツの人気が高いんです」とヨシムラジャパンの広報、石橋敬康さん。

事実、ヨシムラの現行パーツのラインアップでは、125cc以下のモデルのパーツも、スクーター、ミッション車をあわせてかなりのバリエーションがある。人気ナンバー1は、やはり市販モデルでも大人気のCT125ハンターカブ、そして今回テストしたモンキー125だ。

開発の様子を説明いただいたヨシムラジャパン開発課・マフラー開発試作チーム渡邉智弘さん。量産マフラーの開発をはじめ、レーサーマフラーの開発も経験している。

「モンキー用のパーツは、現行の125cc以前にも、50ccモデル時代からありました。モンキーが125cc化されて発売になったらすぐに開発に取り掛かりました」というのはヨシムラジャパン マフラー開発課の渡邉智宏さん。

こちらは別体サイレンサーを持たない機械曲げストレート762サイクロン:5万5000円(税別)。GP-MAGNUMサイクロンと人気を二分するという。ヨシムラのモンキー125のマフラーはこちらヨシムラについてもっと知る## マフラー開発は「楽しさ」がキーワード

モンキー125用マフラーで狙うはもちろんパワーアップだけれど、現在の市販車用の純正マフラーは出来が良いということもあり、開発に苦労はつきもの。その点ではビッグバイクのほうが開発はしやすいのだという。

ノーマルがアップマフラーのため、空いたスペースにサイドカバーを製作。右サイドカバーSET:2万9800円(税別)。素材はABS樹脂とカーボン製が選べ、無塗装(1万9800円)、ABS樹脂は6色、カーボン地の計8色をラインアップ。

「第一に音量規制、排出ガス規制が定められているので、純正マフラーは当然この数値をきちんと守っています。当然、ヨシムラマフラーもこの規制値を守った政府認証マフラーですが、125ccという限られた排気量と出力の中で、いかに純正マフラーと違いを出すかが難しい、けれど開発上の楽しみではありますね」(渡邉さん)

マフラーと同じく人気商品であるステップKIT X-TREAD:6万2000円(税別)。シフトワーク、リアブレーキ操作にカチッと節度が出る。ステップバー位置は2種類に可変。## ノーマルマフラーからヨシムラサイクロンで〝驚くほどの違い〟

たしかに125ccという限られた排気量で、大幅にパワーアップするのは現実的ではない。ノーマルのカタログ値が最高出力9.4psで、ヨシムラサイクロンを取り付けての最高出力は、10psに届かないくらいだろうか。けれど、乗ったらビックリするほど違うのだ! これはマフラーの製作要素である「パイプ長、パイプ径、パイプレイアウト」を何種類も試作し、テストして、最終的に市販製品の形に落ち着いているからだ。

排気ポート直後のフランジ部分あたりに排出ガス浄化用の触媒を封入。規制値をクリアしながら、パワーダウンしない大きさの触媒を使用する。

試乗したモンキー125は、エンジン関係はノーマルでヨシムラサイクロンを装着。あとはサスペンションにも手が加えられているコンプリートサンプルだ

アップでもダウンショートでもない、ヨシムラサイクロン王道のパイプレイアウトを採用したGP-MAGNUMサイクロン。モンキー125はリアサスまわりにスペースがあるため、レイアウトの自由度も高いのだという。新たにサイドカバーを取り付けて、スタイリングもまとまっている。

乗り始めてすぐにわかるのは、まずはサウンド。ほぼ無音に近いノーマルに比べ、ヨシムラ車はきちんと「サウンド」がある。もちろん、その音量は小さいけれど、存在感のある太く静かなサウンドだ。

そして走りだして体感したのは、エンジンの回転の伸びの良さ。モンキーはローギアレシオが低いこともあって、ローギアでは発進からすぐに回転が頭打ちになり2速ギアにシフトアップする乗り方になるところ、ヨシムラ車は各ギアがよく伸びるのが印象的だった。

各ギアが伸びるということは、次のギアに回転がつながりやすく、スピードが乗るということ。結果、グングン走るモンキーに仕上がっているのだ。

小排気量でも走りが変わる!その理由

「開発でこだわったのは、やはり出力です。とはいえ、騒音規制と排出ガス規制を通しての出力なので、最高出力が何馬力アップ! というものではないんですが、ヨシムラらしさを出したいのは力の出方、出力特性ですよね。モンキー用サイクロンは、クラッチミートの瞬間から最高回転域まで、全回転域でパワーが出るように仕上がっています。狙ったのは『面白いマフラーにしたいね』ってことです。アクセルひと開けでグイッと前に進む、そういう面白さは出せたと思います」(渡邉さん)

モンキー125の発売当時からモンキー用マフラーの開発に携わっている渡邉さん。今回は全域トルクアップの仕様だが「たとえば低回転トルクを削って高回転がもっと回る仕様だって作れるんです」という。

ヨシムラ計測による出力特性。出力はノーマルが8.48ps/67600rpmから8.91ps/6670rpmに、トルクはノーマルが1.01kg-m/5630rpmから1.03kg-m/5840rpmへとアップしている。## ユーザー心理まで考え抜いたサウンド設計

感覚的に言うと、ギアチェンジごとに一瞬の回転落ち込みがなく、スムーズにスピードが乗るようなイメージ。125ccの法定速度である60km/hまで到達するのがノーマルより早く、一定のスロットル開度で巡航するのが快適なモンキーに仕上がっている

いちばん気持ちがいいのは、スロットルを大き目に開けたとき。開けた瞬間のトルクのツキがよく、その時のサウンドがいい。決して大きい音量ではないが、存在感のあるサウンドが味わえる。マフラーを換えてから力が出ているなぁ、と思う瞬間だ。

リア周りをすっきりさせるフェンダーレスKIT:1万4000円(税別)。ナンバープレートのベース面にはモンキーのイラストが肉抜きされてデザインされている。

サウンドの面でもうひとつ気づいたのは、アクセル開度による音質の変化だ。たとえばアイドリングではほぼノーマルと変わらないような静かさだけれど、走りだしてアクセルが開いていくにしたがって太い音に変わっていく

これは、走るときにはサウンドを楽しみたいけれど、エンジン始動時などは静かなほうがいい、というユーザーの心理をうまくついていると思う。たとえば早朝にツーリングに出かけるときに、エンジンをかけてご近所迷惑なんてこと、心配したくないからね。

GP-MAGNUMサイクロンType-DOWNは、エキパイレイアウトの自由度が高く、すっきりとしたラインを描くマフラー。写真のブレーキペダル下よりも後方のパイプ系が2段階に太くなっている点に注目。ここにもパワーアップのノウハウが詰まっている。## マフラーのボルトオンだけでさらに楽しい!ヨシムラモンキー125の実力

125ccとはいえ、もうひとランク上に力が出ているのがヨシムラモンキー125。さすがに250ccクラスとは言わないが、このサイズのミニバイクを、ノーマルよりもスイスイ走らせられる。

実は筆者は、いま所有しているDAX125の前に、このモンキー125を所有していたことがある。今回のヨシムラ車は後期型の5速ミッションで、筆者のモンキー125は4速ミッションの初期モデルだったが、比較はしやすい。その結果、あらためて思うのは「マフラーを交換しただけでこんなに違うバイクになるか!」ということだった。これが、ヨシムラが目指した『楽しいマフラー』なのだ。

ヨシムラのモンキー125のマフラーはこちらヨシムラについてもっと知る

(編集協力:ヨシムラジャパン)