瓶から舌が抜けなくなった子ども 医師が試行錯誤し見つけた対処方法は

瓶から舌が抜けなくなった子ども 医師が試行錯誤し見つけた対処方法は

ある夏の終わり、母親と子どもが買い物から帰宅。冷たいジュースを一気飲みした子どもは、名残惜しそうに瓶を口にあて力一杯吸ってしまった。

すると、舌がすっぽり瓶にはまってしまった。瓶の中の空気を思いっきり吸い込んだことで、中が真空に近い状態になり、舌が引っ張られたのだ。

母親が慌てて引っ張るがびくともしない。見ると舌が紫色になっていた。急いで救急車を呼び、20分が経過。

この時、電話を受けたのは東海大学医学部付属病院 高度救命救急センターの守田誠司医師。瓶に吸い込まれた舌が抜けないケースは何度か経験があり、今回も抜けるだろうと思っていた。

搬送された女の子の舌は、半分ほどが瓶の中にすっぽりはまっており、血流が止まっているようだった。舌には2本の太い血管が通っており、その血管が瓶によって圧迫され、血流が滞ったと思われた。それにより舌がむくみ、さらに抜けづらくなっていた。

以前に診たケースでは舌の根元をつまんで引っ張ると抜けたが、今回はびくともしない。どうやら少女はかなり強く瓶の中の空気を吸ったようで、舌は全く動かなかった。

そこで守田医師が用意したのが医療用のゼリー。以前、引っ張っても抜けない時はゼリーを塗ると抜けていた。すぐに試すが、瓶と舌の間が狭くゼリーが十分に塗れず全く抜けなかった。

こうしているうちに舌に異変が。人間の手足の場合、30分以上血流が止まってしまうと危険な状態となり、最悪の場合その部分が壊死してしまう可能性もある。

次に考えたのは瓶を割ること。ペンチで挟んで割ろうと思ったが、安全のため別の瓶で試してみると全く割れず、無理に割るのも危険だと判断した。そこで今度は蒸しタオルでの熱により中の空気を膨張させ、舌を押し出そうと考えた。蒸しタオルを瓶にあてて引っ張るが変わらず、すぐに冷めてしまう。沸騰したお湯で瓶を温めてみたが、「熱い」と子どもが泣いてしまった。

実は世界中で子どもの舌が抜けなくなる事故は起きている。ある少年は水筒を思いきり吸って舌が抜けなくなり、腫れた舌が気道を塞がないよう麻酔をかけ、慎重に水筒に切り込みを入れてなんとか舌を解放した。別の少女はチアリーディングの練習中、水筒から舌が抜けなくなって3時間、呼吸困難に陥り、全身麻酔により舌の筋肉をゆるませてなんとか抜くことができた。

守田医師もこの子どもの状態は危険と考え、全身麻酔を提案した。しかし全身麻酔に伴う重大な合併症が発生することがある。そして、大人より小児の方が、そのリスクは高いと言われている。母親は全身麻酔を承諾したが、守田医師は、まだ幼い子どもへの全身麻酔は避けてあげたいと考えていた。

そして自ら瓶を手に取り、「どうやって舌が入るのか」と観察。その時守田医師が考えたのは、点滴などで使う針による方法。点滴で使う針は金属の針を柔らかい管で覆っており、血管に刺した後金属の針を抜き、柔らかい管を残している。守田医師は、挟まった舌のU字部分にこの柔らかい管を入れられないかと思ったのだ。

ゼリーを塗り、「ごめんね、痛いのこれで最後だからね」と声をかけて管を入れ、空気を入れた次の瞬間、「ポン」という音とともに瓶が飛んだ。瓶の中に空気が入ったことで瓶の中の圧力が高まり、舌を押し出す力が働き、空気鉄砲のように瓶が弾け飛んだ。

「はまってしまってから時間が経つと舌が浮腫んでどんどん抜けなくなってしまう。はまったらなるべく早めに抜くことを試みて、抜けなければ救急車を呼んでいただくのが一番いい」と守田医師。子どもがやりがちなこの事故、すぐに適切な対応を取ることが重要だ。