うつ病で「料理ができない」は甘えじゃない 精神科医が語る「できて当たり前じゃねぇからな!」

うつ病になると、料理や買い物ができなくなる人が多いとつぶやいた精神科医の投稿がXで話題に(photoACより「FineGraphics」さん撮影、イメージ画像)

「うつ病になると、料理や買い物ができなくなる人がめちゃくちゃ多い。できて当たり前じゃねぇからな!!!」

この力強い投稿が、X(旧Twitter)上で大きな反響を呼んでいる。発信したのは精神科医の藤野智哉さん(@tomoyafujino)。病院や医療刑務所で働きながら、テレビや出版活動も行う現役医師だ。

投稿には、共感の声が多数寄せられた。

「あんなにやってた料理が、どうにもこうにも無理ゲーに」

「揚げ物は買ってくるもの、って決めたら気が楽になった」

「料理時間1時間っていうけど、買い物からの労力は10時間分くらいあるよね」

料理ができない、買い物に行けない——そうした“できなさ”に直面したとき、私たちはつい「甘えているのでは」と自分を責めてしまいがちだ。しかし藤野さんは、それが「まったくの誤解」だと話す。

「料理ができない」は甘えじゃない!(photoACより「FineGraphics」さん撮影、イメージ画像)

 「できない」のではなく、「それほど大変なことをやっていた」

「精神科の外来では、“何もできない”“ただ生きているだけ”と話す患者さんが少なくありません。特にうつ病の方は、休養そのものが必要な“仕事”なのに、罪悪感から自分を責めてしまうんです」

料理や買い物は、ただの家事ではない。

「数日分の献立を考えて、無駄が出ないように買い物をして、複数の手順を同時にこなして調理する——これは実は、ものすごく高度な作業です。できていた時期の自分が“すごかった”んです」

さらに、料理や買い物に加えて「お風呂」も、うつ状態の人にとっては大きなハードルになるという。

「服を脱いで、身体や髪を洗って、乾かして、保湿して——これも実はエネルギーの塊のような作業です。疲れ果ててしまう人は少なくありません。“風呂キャン”という言葉も一時期流行りましたね」

 家族や周囲ができるサポートは?

身近な人が「料理ができない」「買い物がしんどい」と話してきたとき、どう接するのがよいのか。

「“簡単なものでいいよ”“買ってきたものでいいよ”という言葉も、実はプレッシャーになることがあります。できれば“僕がやるからやらなくて大丈夫だよ、いつもありがとう”と完全に手放させてあげてください。そして周囲が代わりにやる、家事配分を見直すなども大切です」

休ませることは「甘やかし」ではない。「回復のために必要な環境調整」なのだ。

家族や周囲ができるサポートは?(photoACより「FineGraphics」さん撮影、イメージ画像)

 「できていること」に目を向けよう

藤野さんは取材の最後に、こんな言葉を寄せてくれた。

「うつ病は、適切な治療を行えば改善が見込める病気です。焦らず、無理をせず、自分を責めないでください。何もしていないようで、実はちゃんと頑張っている。どうか“できていないこと”ばかりを探すのではなく、“できていること”にも目を向けてほしいと思います」

料理がつらい日もある。買い物が億劫な日もある。そんな自分を、誰よりも自分が責めないでいられたら——。

当たり前を見直すことは、生きやすさへの第一歩になるのかもしれない。

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「これだけは知っておきたいうつ病 ココロの健康シリーズ」

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)