気温40度時代に急成長する「酷暑対応」ビジネス…50万台出荷のソニー「着るエアコン」、飲める氷、ドンキ「置くだけエアコン」

都内でも連日気温35度超を観測している。

群馬県や静岡県の一部地域などのほか、8月5日には関東の12地点で気温40度超を観測するなど全国的に記録的な酷暑が続いている。

日本の暑さ対策ニーズをとらえた、ユニークな製品という点ではソニーの隠れたヒット商品「着るエアコン」などが近年注目されている。個人的に数年前から着るエアコンに注目し、複数回の取材も重ねてきたが、改めて調べると日本の夏が過酷化するなかで、「猛暑対応プロダクト」というビジネスが拡大している様子が見えてきた。

酷暑化する日本のニーズをとらえた「猛暑ビジネス」の新たな需要を各社に取材した。

新規事業で誕生「着るエアコン」、前年比3倍増の販売

品川にあるソニー本社。

冒頭で紹介したソニーの「隠れたヒット商品」は、ソニーグループ傘下のソニーサーモテクノロジー(東京都港区)が販売する“着るエアコン”として知られるウェアラブルデバイス「REON POCKET」(レオンポケット)シリーズだ。2025年5月には最新モデル「REON POCKET PRO」(レオンポケット プロ)を発売した。従来モデルよりも、冷温部面積やバッテリー駆動時間が2倍になった、シリーズ最上位モデルだ。

「REON POCKET PRO」。

ソニーのカメラシリーズ「α」(アルファ)や「ハンディカム」で培った冷却ファン技術を転用したデバイスで、モデルチェンジを繰り返しながら5年間でシリーズ累計50万台以上を売り上げる。

ソニー広報は売れ行きの詳細について「各年度やモデルごとの販売数は開示していない」とした上で、2024年に発売したモデルと比較すると、最新のPROモデルは「(2024年モデル)REON POCKET 5の発売月と比較し、約3倍の販売実績。今年5月の発売から2日で約1万5000台を受注し、一時在庫切れになるほどの反響だった」と振り返る。

「ペルチェ素子」のおかげで、バッテリーが続く限りは「ヒヤッ」とした感覚が続く。

日本列島が猛暑化するなかで、「冷やす」ニーズが急増している典型例といえそうだ。

広報によると、主な購入層は「通勤する都市圏のビジネスパーソン」。ヒットの要因には「小型軽量かつ服の下に装着しても目立たないこと、最新のテクノロジーを用いて冷却や駆動時間など機能をニーズに合わせ年々向上させてきたこと」があるのではないかと言う。

日本だけでなく、海外市場のニーズも増加している。「東アジアは当初の計画以上の販売で推移している。ヨーロッパでは6月末の猛暑の影響により需要が増加し、販売数が大幅に伸びている状況」(同広報)とし、世界全体の酷暑特需も掴みつつある。

「暑さに対する消費者の関心が年々高まっており、販売のピークが前倒しになっている。高額な商品だが、費用をかけてでも暑さ対策をしたいユーザーが増加している」(広報担当)

シャープ、大正製薬など「飲める氷」ビジネスも続々

猛暑対策は、「飲める氷」という新たなカテゴリーも生み出している。冷凍しても凍らずに液体のまま続く「過冷却」を活用し、液体をシャーベット状にする「アイススラリー」をウリにした商品だ。

アイススラリーの氷の粒子は通常の氷に比べ結晶が小さく、「体の内部を効率よく冷やすといわれる」(大正製薬)との効果への期待から、注目を集めている。

出典:大塚製薬公式Webサイト

シャープはアイススラリーそのものを作り出す法人向け冷蔵庫を、大正製薬と大塚製薬は「飲める氷」製品を発売している。

シャープが市販のペットボトル飲料をアイススラリー化する「アイススラリー冷蔵庫」を法人向け製品として発表したのは2025年5月。

独自技術で冷蔵庫内の温度を制御することで、飲料の過冷却状態を保持する。飲料によって9段階の温度を調節する「アイススラリーモード」を搭載し、あらゆる飲料に対応する。

出典:シャープのプレスリリース

発表以来、「すでに1000件以上の問い合わせ(6月12日時点)を受けている」とし「当初計画を大幅に上回る注文状況から、現在新規の受付はストップしている」という。今夏の導入分について「受け付けを再開する予定はない」と語るほどの反響ぶりだ。なお、導入した法人数は「非公表」。

厚生労働省は6月1日から労働安全衛生規則を改正し、事業者に従業員への熱中症対策を罰則月で義務化した。この動きを背景に、「建設や土木、製造業など屋外など現場で作業する業界からの引き合いが多い」とシャープ広報。他にも「物流関係、スポーツ関係、学校・教育関係などの問い合わせも多くなっている」と明かした。

「部活動に関してはスポーツの強豪校などからの引き合いがある。今後アイススラリー冷蔵庫の認知が広がり、導入が進むことを期待している」(シャープ広報)

高校野球の聖地「甲子園球場」。

一方、専用のアイススラリー商品を展開するのが、栄養ドリンク「リポビタンD」を手がける大正製薬と、スポーツ飲料「ポカリスエット」を販売する大塚製薬だ。

このうち、大正製薬は2021年5月に「リポビタンアイススラリー for Sports」(194円)を発売した。発売以来「売り上げは前年比2倍増が続いている」(同社広報)という。昨今の酷暑と、事業者の暑さ対策義務化を受け、シャープ同様に「建設業界や製造業などBtoBの引き合いが多い」と明かす。

同社は同商品を発売するまで熱中症需要向けの商品がなかったため、新たなビジネスチャンスの開拓に成功した形だ。

大正製薬が販売する「リポビタンアイススラリー for Sports」。

メインターゲットとするスポーツ関係では「高校野球の選手や審判団に配布していた実績もある」といい「従来のスポーツ向けはもちろん、BtoB層を増やすための法人プランなども検討し、需要を喚起していきたい」と取材に答えた。

2018年から「ポカリスエット アイススラリー」(198円)を販売する大塚製薬も、Business Insider Japanの取材に対して「近年順調に売り上げを伸ばしており、2025年は前年比プラスで推移している」と回答。「建設業や製造業、宅配業など暑熱環境下で従業員が業務を行う企業や暑熱下でのスポーツシーンでの活用が拡大している」という。

大塚製薬が販売する「ポカリスエット アイススラリー」。

公式サイトの情報によると、テニスの全豪オープンやサッカーのU23アジア選手権に参加した日本人選手、JFEスチールの製鋼工場内の作業員2000人にそれぞれ導入実績があるという。6月からは大阪・関西万博の運営スタッフ向け熱中症対策として採用されるなど、大規模イベント需要を順調に伸ばしているようだ。

大阪・関西万博の運営スタッフ向けの提供が始まっている。

ドンキ、“設置工事不要エアコン”販売好調

渋谷にある「MEGAドンキ」店舗。

販売店ベースでの売れ筋商品の動向はどうか。

「ドン・キホーテ」(以下ドンキ)に取材すると、「どこでも置くだけスポットエアコン」の販売が好調だ。前年よりも在庫量を1.7倍に増やし、記事執筆時点の8月6日までに全国で2万台を販売している。

通常の壁掛けタイプのエアコンでは設置工事に日数を要するのに対し、同製品は設置工事が不要な点が大きな特徴だ。

運営元パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の広報担当者は「特にエアコン設置率が低い北海道エリアでの販売が好調で、道内では1日に100台以上売れた店舗もある」と明らかにした。

「どこでも置くだけスポットエアコン」。

一方で興味深いのは、ドンキ内の販売動向ということではあるものの、リビング用の扇風機の販売数が全体的に減少し始めているという。PPIH広報は「昨今の猛暑で、空気循環効率の良くなるエアコンとサーキュレーターの併用が以前に比べて浸透し、リビング扇風機を単体で使用するケースが減少しているのではないか」と推察する。

今後に向けては「酷暑が続くとは言え、シーズン後半に差し掛かるため、価格調整と売れ筋商品の店舗在庫の平均化を念頭に置いて販売していきたい」とコメントした。