打撃好調のヤクルト・村上宗隆 確実視されるメジャー挑戦で「ドジャースはリスクが大きい」理由
この男が復帰すると、打線の火力が一気に上がる。ヤクルトの村上宗隆が上半身のコンディション不良から復帰後8試合で打率.310、3本塁打、6打点をマークする活躍を見せている。(8月6日時点)
他球団のスコアラーはこう分析する。
「パワーだけでなく、技術も超一流です。逆方向にもスタンドに叩き込むし、打席での威圧感が他の打者とまったく違う。走者のいない場面なら『単打のヒットならOK』の選手です。ヤクルトは最下位に低迷していますが、村上が復帰したことで強い芯が一本通った。一番警戒する打者であることは間違いありません」
2022年に日本記録の56本塁打を樹立して令和初の三冠王に輝くなど、本塁打王を3度獲得したスラッガーだが、今年は故障に泣かされた。上半身のコンディション不良で出遅れ開幕を2軍で迎えると、1軍に復帰した4月17日の阪神戦、9回の打席でスイングした直後に痛みで表情を歪ませ、自ら交代を要求した。故障が再発し、翌18日に登録抹消。リハビリを経て1軍の舞台に戻ってくるまで、3カ月以上の期間を要した。
1軍再昇格後は実戦から離れたブランクを感じさせない活躍を見せている。復帰初戦となった7月29日のDeNA戦では、2回に好投手・東克樹の直球を左翼席に運ぶ先制の1号ソロ。8月3日の阪神戦では4回にビーズリーの152キロ直球を右翼線にはじき返す先制適時打を放ち、5回にも門別啓人の初球の148キロ直球をバックスクリーンに運ぶ2ランを放つなど4安打3打点の大暴れだった。
復帰後の打席で印象的なのは、課題と言われていた直球をきっちり捉えていることだ。前出の他球団スコアラーは「150キロを超える直球をきっちり捉える打者はなかなかいません。村上は昨年に比べてスイングが少しコンパクトになったように感じます。大きなスイングをしなくてもしっかりコンタクトすれば本塁打を打てる。まだ復帰して試合数が少ないため判断材料は少ないですが、打撃が洗練された印象があります」と指摘する。
■メジャー挑戦で気になる三塁守備
村上は3年契約が切れる今オフ、ポスティングシステムでメジャーに挑戦すると見られている。村上の出場試合では複数のメジャー球団のスカウトが球場で視察を続けている。今年は故障で離脱期間が長かったが、メジャーの東地区球団のスカウトは「評価が下がるということはないですね。成長していく様子を見てきましたし、打撃はさらに良くなるでしょう」と強調したうえで、こう続けた。
「気になるのは三塁の守備です。シビアな言い方になりますが、メジャーの三塁手として平均を下回るレベルです。かといって指名打者だと起用法の幅が狭まってしまう。村上が外野を守れれば出場機会が増えるでしょう。今年は春先に右翼で出場していましたし、外野の適性があるように感じます。パワーヒッターの体格ですが足は決して遅くない。三塁を守っている時は送球が不安定に感じますが、スローイングを見ていると外野向きなのかなと。実戦で外野を守る時の打球に対する反応などを見てみたいですね」
一部の米国メディアの報道では、ドジャースを移籍先の「本命」に挙げていた。ドジャースでは今月35歳になる正三塁手のマックス・マンシーが、今年で2年契約が切れることが背景にある。だが、米国の通信員は「移籍先としてリスクが大きい」と懸念を口にする。
「マンシーの後継者が必要なことは間違いないですが、村上がすぐに穴を埋められるかというと荷が重いように感じます。打撃でメジャーの投手に対応するまでには時間が必要です。三塁の守備も不安を抱えていますが、指名打者には大谷翔平という絶対的な存在がいる。常勝を義務付けられている球団なので、力を発揮できないと判断されれば見切りが早い。下位に低迷していますがエンゼルス、ロッキーズなど多少の打撃不振でも我慢して起用してもらえるチームで力を磨いて、数年後に強豪球団へのステップアップを目指したほうが良いと思います」
■エンゼルスを選んで正解だった大谷翔平
移籍するメジャー球団の選択は、野球人生の大きな分岐点になる。吉田正尚は23年オフにオリックスからポスティングシステムを利用し、レッドソックスと5年総額120億円を超える大型契約を結んだが、外野の守備力の低さと指名打者としては物足りない長打力がネックになり、出場機会を減らしている。一方、投打の「二刀流」で前人未到の記録を塗り替えてきた大谷はメジャー挑戦した17年オフ、ドジャースやヤンキース、レッドソックスなどの名門球団から獲得オファーを受けたが、投打の二刀流でのプレーを最大限生かせる環境としてエンゼルスを選んだ。
「当時は大谷の決断に驚きの声が上がりましたが、その後の活躍でエンゼルス入団が正解だったことを証明しています。村上は25歳と若いですし、これからのキャリアを考えると発展途上のチームで伸び伸びプレーしたほうが能力を引き上げられる。個人的には大谷、山本由伸と同じチームで共闘するより、違うチームの主力打者としてマウンドに立つ2人と対決してほしい」(スポーツ紙デスク)
メジャーでは日本人投手の活躍が目立つ一方、野手として輝きを放ったケースはまだ少ない。村上はメジャーでその名を刻むことができるだろうか。
(ライター・今川秀悟)