18連覇を目指すブリヂストン、灼熱の鈴鹿8耐に向けた意気込みを聞く

2025年8月1日〜3日 開催

灼熱の鈴鹿8耐に向けたブリヂストンの取り組みを鈴鹿8耐会場で聞いた

「2025 FIM世界耐久選手権 "コカ·コーラ" 鈴鹿8時間耐久ロードレース 第46回大会」(以降、鈴鹿8耐)が8月1日に開幕し、決勝日の8月3日11時30分に決勝レースがスタートする。

鈴鹿8耐においては、2024年まで17年連続でブリヂストンタイヤ装着車が優勝している。2025年も有力チームの多くがブリヂストンタイヤを採用し、18連覇の達成に注目が集まるところ。EWC(世界耐久選手権)や鈴鹿8耐に向け、今年ブリヂストンがどのような取り組みを行なってきたのだろうか。

ブリヂストン 国内モータースポーツオペレーション部 国内モータースポーツオペレーション課 課長 栃元奈月氏と、ブリヂストン モータースポーツタイヤ開発部 MSタイヤ設計第2課長 時任泰史氏の担当者2人に話を伺った。

耐久性だけでなくピークグリップも高めたタイヤでレースに挑む

──最初に2024年の17連覇達成について、振り返りをお願いします。

株式会社ブリヂストン 国内モータースポーツオペレーション部 国内モータースポーツオペレーション課 課長 栃元奈月氏

栃元氏:17連覇を達成させていただいたことは本当にありがたいですし、各チームの足元をしっかり支えることができたのではないかな、と思っています。当社はモータースポーツへの挑戦を通じて一般のタイヤ開発に技術をつなげていこう、という理念でレース参戦しているわけですが、実際に鈴鹿8耐で結果を出し、そこから次のタイヤ開発にもつなげられていて、まさに会社の理念に沿った形で活動できているように感じます。

時任氏:初優勝は私がブリヂストンに入社した2006年でした。当時は開発の立場ではなく新人として現場にいましたが、そのレース開発に実際に携わることになり、先輩たちが培ってきたものを途絶えさせないように、という意味でも、昨年17連覇を達成できたのはうれしく思っています。

──今年の耐久レースに向けた開発の体制・環境などについて、2024年までとの違いはありますか。

時任氏:昨年からの一番の変化は、われわれがサポートしているEWCの年間参戦チームが3チームから5チームに増えたことです。従来の1号車YOSHIMURA SERT MOTUL、5号車F.C.C. TSR Honda France、7号車YART - YAMAHAに、11号車Kawasaki Webike Trickstarと37号車BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMが加わりました。

サポートするチームが増えたことで生産面や輸送面だけでなく、現場のオペレーションにおいても考えるべきことや作業量は増えています。そこはブリヂストン社内が一丸となって取り組んでいる部分ですし、主要バイクメーカー5チームにわれわれのタイヤを使っていただくことで、各メーカーの車両に対する適合性を高められるというメリットもあります。EWCを開発プラットフォームの1つとして捉え、ここで得られた技術を引き続き市販タイヤにフィードバックしていければと思っています。

──チームが増えても対応できるような効率化の工夫もされている?

時任氏:効率化に向けては、タイヤのスペックをよりロバスト性の高いものにする、といった変更を行なっています。たとえば従来はレースに4つのスペック違いのタイヤを持ち込んでいたところを3つにして、各スペックが少し広いレンジに対応できるように作ることで、結果的にタイヤの持ち込み本数を減らす、というようなイメージです。

栃元氏:ロバスト性は、オペレーション側では「サステナブルなモータースポーツ」という点にも関わってきます。タイヤスペックをロバストなものにして無駄なタイヤを作らずに済めば、環境への配慮だけでなくコストの最適化にもつながります。削減できるところは削減し、その分タイヤ供給先チームのサポートは手厚くする、ということを両立させるべく、お互いに協力しながら進めているところです。

──タイヤの作りは以前と比べて変わっているわけですね。

時任氏:そうですね。最初に参戦した当時はスプリントレースの経験しかなく、それに沿った性能になっていましたが、耐久レースの場で開発していく中でロバストなタイヤになっていきましたし、レンジの広さという点ではある程度仕上がってきたように思います。

ただ、耐久レースもかなりハイスピード化してきていますから、今年はわれわれが培ってきたロバスト性のあるタイヤをベースに、ピークグリップを上げていく、というような変更を行なっています。タイヤ形状や素材に調整を施し、有効な接地面積を大きく取る、というような考え方でグリップを高めていますね。

──鈴鹿8耐は年々暑くなってきているので、熱対策も重要になってきそうです。

時任氏:そのあたりももちろん考慮に入れて設計しています。高温時のグリップの持続性はキーポイントの1つですし、路面温度が65℃に迫る中で1スティント、約1時間走り続ける足元を支えられることも大事です。耐熱部分のスペックは2024年から大きくは変えていませんが、耐久性の検証を念入りに行なった結果、2025年の今年も問題なく耐えられると見ています。

ファクトリーチームの参戦数増加でハイペースなレースに?

──今年はBMW勢が増えています。ブリヂストンタイヤとのマッチングはいかがでしょうか。

株式会社ブリヂストン モータースポーツタイヤ開発部 MSタイヤ設計第2課長 時任泰史氏

時任氏:76号車AutoRace Ube Racing Teamは全日本選手権を走っていることもあって予選で2分4秒台の好タイムを記録しましたが、ファクトリーチームの37号車BMW MOTORRAD WORLD ENDURANCE TEAMは4月の開幕戦からのサポートということもあって、まだ一緒にセットアップを進めているような段階です。

ブリヂストンタイヤとしては、荷重をかけてグリップを発生させる、というのがポイントとなってきます。特に37号車はまだまだ伸びしろがありそうですから、ランキング上位に入れるよう全力でサポートしていきたいですね。

──トップチームの決勝レースのペースはどうなると見ていますか。

栃元氏:レースペースはおそらく2分8〜9秒台になると思っています。ただ、今年は30号車Honda HRCが相変わらず速いとはいえ、ファクトリーチームが増えていますし、実力あるプライベーターも少なくありませんので、接戦になってくるとレースペースにも影響してくると思います。そういったあたりも今年の見どころの1つになりそうです。

──ファクトリーチームといえば、21号車YAMAHA RACING TEAMが6年ぶりに参戦しています。

時任氏:復活したのは非常に喜ばしいことですよね。ホンダ、ヤマハ、スズキ、BMWがファクトリーチームとして参戦し、カワサキもファクトリーに近い立ち位置で参戦しています。モビリティリゾートもてぎのMotoGPと対となるようなレースイベントとして、鈴鹿8耐がより一層盛り上がってほしいなと思います。

──最後に、18連覇に向けての意気込みを。

栃元氏:タイヤのロバスト性が向上することには、各チームが自分たちの取りたい戦術の自由度を高められるメリットもあると考えています。それによってチームの皆さんが多様な戦略を採り、観客が盛り上がるレースを繰り広げられるのではないかと。われわれはそこから出てきたタイヤの分析データを次の開発に生かす、といったことができますので、そんな風にWin-Winの関係を築けるといいですね。

時任氏:ブリヂストンタイヤを履いたチームの皆さんがタイヤの性能を活かしきって、満足してレースを終えていただけるように、しっかりサポートしていきます。その上で開発側としては、結果にこだわって18連覇を達成したいですね。