元虎戦士・藤浪&青柳の日本球界復帰を静観 マジック点灯目前で球団も虎党も〝左うちわ〟

米国から帰国し、DeNAに入団した藤浪晋太郎(左)とヤクルトと契約合意に達した青柳晃洋
米国から日本球界に復帰する2人の元虎戦士に対する〝完全無視〟は首位独走だからこそなせる業。独走Vなら彼らは忘却のかなたです。藤川球児監督(45)率いる阪神は後半戦最初のカードとなったDeNA2連戦(甲子園)に連勝。92試合消化時点で55勝35敗2分けの貯金20とし、2位の巨人に10ゲーム差をつけています。折しも藤浪晋太郎投手(31)のDeNA入団が決定、青柳晃洋投手(31)はヤクルトとの契約合意に達しましたが、阪神は両投手の同一リーグ移籍にも無反応。虎党からのブーイングもない状況を見て、勝負事は勝たなければならないと改めて痛感します。

DeNA入団会見後、サンケイスポーツのインタビューに応じる藤浪晋太郎=18日、横浜市のDeNA球団事務所(荒木孝雄撮影)
29日にもM41点灯
貯金は今季最多の20となりました。球宴明け最初のカード、DeNA2連戦に連勝。試合では阪神のいい所ばかりが目立ちました。逆にDeNAは試合運びが粗く、高校野球でも見られないような拙守の連続とあっては、阪神を追いかけることなど到底無理です。
阪神は最短で29日に優勝へのマジックナンバー「41」が点灯します。大きな連敗でもない限り、8月下旬から9月上旬にかけて2年ぶり7度目のリーグ優勝を決めるでしょう。2位の巨人でさえ貯金ゼロ(91試合消化時点で44勝44敗3分け)ですから、無人の野をゆくがごとく-とはこのことです。7月に入り15勝4敗。交流戦明けからだと17勝5敗。他の5球団は虎の背中さえ見えない状況です。

阪神のエースとして活躍した青柳晃洋。ヤクルトと契約合意に達した=2022年10月14日、神宮球場(水島啓輔撮影)
同一リーグの他球団へ
「勝てば官軍」と言います。そのことを改めて痛感する出来事がありました。元虎戦士2人の日本球界復帰です。2022年のシーズンオフ、ポスティングシステムを利用してアスレチックスに移籍、その後はオリオールズやメッツ傘下の3Aを経て、今季はマリナーズ傘下の3Aに在籍していた藤浪は、6月17日に自由契約となると2年半ぶりの日本球界復帰を決断。7月16日にDeNA移籍が発表されました。

イースタンリーグのロッテ戦に移籍後初先発したDeNA・藤浪晋太郎。1回無失点と上々の内容だった=26日、横須賀スタジアム(荒木孝雄撮影)
続いて、昨オフにポスティングシステムを利用してフィリーズに移籍した青柳が傘下の3Aから2Aに降格後、23日に自由契約に。すると投手陣に不安を抱えるヤクルトが獲得に乗り出し、26日に契約合意しました。ヤクルトは85試合消化時点で30勝50敗5分けの借金20で、リーグ最下位に沈んでいます。
オファー見送り
藤浪&青柳は言わずもがなですが阪神で腕を振り、実績を残した投手です。藤浪は大阪桐蔭高のエースとして甲子園で春夏連覇を成し遂げ、12年のドラフト会議では4球団が1位で競合した末、阪神に入団。ルーキーイヤーから3年連続で2ケタ勝利、15年には14勝7敗の成績を収めました。その後は制球難で苦しみましたが、今でも虎党に愛されています。DeNA移籍後、初登板となったロッテとの2軍戦(26日、横須賀)には、今季最多となる3499人が球場に駆けつけました。
青柳も15年のドラフト5位で帝京大から入団するや、21、22年と2年連続で13勝をマークして最多勝と最高勝率のタイトルを獲得。22年には最優秀防御率と合わせて投手3冠を成し遂げました。内野ゴロの山を築くピッチングに「ゴロキング」の異名も付きました。
藤浪も青柳もメジャーに挑戦し、紆余(うよ)曲折を経て日本球界復帰を決断。その時、古巣の阪神は2人に獲得のオファーを出さず、同一リーグのライバル球団への移籍が決まっても「特に話すことはありません」との姿勢を貫いています。
1軍に余地なし
ポスティングシステムを利用して海を渡り、日本球界復帰に際して同一リーグの他球団に移籍する…。球界では同じパターンで物議を醸した出来事がありました。
日本ハムから23年オフにポスティングシステムを利用してレイズに移籍した上沢直之投手(31)が昨オフに日本球界復帰を決断した際、古巣ではなくソフトバンク移籍を選ぶと、日本ハムの新庄剛志監督(53)は「ちょっと育て方が違ったのか…」と発言。フリーエージェント(FA)権を取得しておらず、球団が恩情?でポスティングを認めたにもかかわらず、わずか1年で同一リーグの優勝を争うライバル球団に移籍することに疑問を呈しました。
その時に比べると、阪神は藤浪と青柳にオファーを出さず、同一リーグの他球団移籍にも恨み言どころか反応もなし。いつもなら、この手の話では「阪神は冷たい」「恩情が薄い」とファンの間から批判が飛び交うものですが、今回は虎党も冷静沈着?に推移を見守りました。
どうしてか? 現在の成績とチーム状態が順風満帆で「完全無視」を許される状況にあるからです。セ・リーグの貯金を独り占めして首位を独走。その原動力はチーム防御率1・95という圧巻の数字を誇る投手陣です。藤浪と青柳がたとえ戻ってきても、1軍メンバーの中に入る隙間がない。そして藤浪がDeNA、青柳がヤクルトに入っても、ファンは脅威とは感じていない。だからこそ、同一リーグの他球団への移籍に対しても批判が出ないわけです。
藤川監督は古巣復帰
実は球団関係者やOBからは「藤浪や青柳に戻って来られる道をつくってあげるべきだ」という声があったのは事実です。球団は今季で球団創設90周年を迎え、チーム生え抜きの選手を大事にすべき…という声は球団周辺から聞こえてきました。
藤川監督も現役時代の12年、海外FA権を行使してカブスに移籍。レンジャーズ移籍後の15年5月に自由契約となりましたが、阪神は獲得に動かず、独立リーグ・四国アイランドリーグplusの高知でのプレーを経て、同年オフに就任した金本知憲新監督に呼び戻される形で16年に阪神に復帰しました。
当時、藤川球児投手を呼び戻した坂井信也オーナーは「阪神に戻すべき大功労者」と球団首脳に強い指示を出しています。伝統球団として、それが正しい態度…という信念がオーナーからうかがえました。
因果は巡る-と言いますが、あれから9年あまり。藤川は監督に上り詰め、指揮を執るチームは絶好調です。あの時、復帰のチャンスを与えられなかったら、今の阪神・藤川監督は存在していません。
そして、藤浪と青柳が同じタイミングで日本球界復帰を模索し、阪神への復帰ではなく同一リーグの他球団への移籍を決断。それでもどこからも疑問の声が出ないのは、チームが勝ちまくっているからでしょう。改めて痛感します。勝負の世界は勝つことがすべてに優先されるのです。
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【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) サンケイスポーツ運動部記者として阪神を中心に取材。運動部長、編集局長、サンスポ代表補佐兼特別記者、産経新聞特別記者を経て特別客員記者。岡田彰布氏の15年ぶり阪神監督復帰をはじめ、阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。